野口 : 私が商品企画に配属された当初は、黒の“ハンディカム”がまだまだ主流でした。数少ない女性向けモデルも、男性社員たちが女性の欲しい色は何だろうと検討して、パパも持てる色として、赤に近い濃いピンクが選ばれていました。確かに中立的な色でパパもママも両方を狙うということも選択肢としてありましたが、女性の気持ちや使用状況を考えて、ほんとうに女性が喜ぶものをつくりたいという思いも一方にありました。
最近は“ハンディカム”もかなり小型化し、ようやく女性にも持ちやすい商品の開発が可能になってきました。そこでママ向けの商品提案が始まったのですが、今回私たちが企画するにあたり、女性狙いの商品なら、やはり女性にふりきったカラーにすべきだと考えました。実際にさまざまな女性からヒアリング調査をしてみると、ピンクが好きな女性には男女どちらでも使える中途半端な色は響きにくいことが分かってきました。そこで、思い切ってベビーピンクを提案しました。
加藤 : 私は“ハンディカム”のアクセサリーを担当しているのですが、今回の企画のきっかけになったのは、ママがビデオカメラを使っているシーンでした。たくさんの荷物を持ちながらもお子さまのいいシーンがきたらすぐに撮影したいですし、お子さまが危ない時には瞬時に守ってあげなければなりません。そのような状況の中でも、すぐに撮影ができて、かつ突然カメラから手を離しても安全な持ち方が提案できれば、もっと日常的に気軽にビデオカメラを持ち歩いていただけるようになり、日常の中にあるかけがえのない時間をより沢山思い出に残せるのではないかと考えました。そこで出てきたアイデアが斜めがけスタイルのストラップです。それに合わせて、一見カメラバッグに見えないような女性向けデザインのケースも提案しました。
今回ストラップとケースは “ハンディカム”とのコーディネートを楽しんでいただけるよう4色のカラーバリエーションを作りました。中でも、ビデオカメラと同じ繊細なピンク色を実現することは大変難しく、何度も試作を重ねました。
野口 : 実際の提案のプロセスでは男性からのさまざまな意見もありました。女性の感覚的なものをフィーリングで伝えるのは簡単ですが、それだけでチームのコンセンサスを得るのは難しいものです。ですから、説得力のある企画を提案するために、いつも以上にデータや現場の声で裏付けるように意識していました。
加藤 : 開発にはさまざまな条件があるので、企画が進むにつれて当初の予定から商品仕様が変わることもあります。でも企画の軸は「ブレ」ないように気を付けています。そのためにも、まずはじめに実際に使ってみたりお客様の気持ちになって考えることが重要だと思います。
野口 : 世界中の販売会社から発売前にフィードバックをもらうのですが、そのようにして、商品を通していろいろな国の人とコミュニケーションしていくと、その文化の違いが見えてきます。日本人の感覚ではよいと思っていたことでも、欧州や南米に提案すると求められる色やスペックがぜんぜん違うというようなこともしばしばです。そのように商品を通じて、その国の生活様式や嗜好の違いを知ることができ、それが、また新たな商品力にもなっていきますね。
野口 : 商品開発では企画である私たちが動かなければ、何も始まりません。私達が提案をしたことで動くプロジェクトの規模や関わる人の多さを考えると、その責任の重大さに、ときどき怖くなることもあります。
加藤 : 私は商品企画に異動してきてすぐに商品担当を任されたことに驚きました。しかも、チームの一員としてではなく私の担当商品群については私一人で商品提案から具現化、世界中の販売会社とのコミュニケーションに至るまで自分で考えて行動することが求められました。プレッシャーもありますが、とてもやりがいを感じながら仕事をしています。ソニーには、社員の成長の期待を含め、思い切って仕事を任せる文化があると思います。その中で、自分の持つ「女性ならではの視点」で、もっと大胆に発想や提案を広げていきたいと思っています。
野口 : 何かを企画するときには、人をワクワクさせたいですし、自分もワクワクしたいというのが、私の仕事のモチベーションです。ピンクの“ハンディカム”で「わぁ素敵」と言ってもらいたいし、かわいい赤ちゃんを美しい映像で観て、感動してもらったり、泣いたりしてもらいたい。私たちが提供するすべてが「エンタテインメント」に通じるのだと思っています。もともと、世の中の皆さまに感動を提供したくてソニーに入社しました。これからもお客様の「ワクワク」のために全力で挑戦していきたいです。