中西: ソニーは、日常生活のさまざまなシーンをより豊かにする商品やアプリケーション、サービスの開発および展開を進める中で、常に新たな事業を模索しています。今回のスマートテニスセンサーは、そうした事業の種の一つでした。はじまりは、松永さんが社内の技術交換会で展示したスポーツにまつわる製品やサービスを見て、当時はまだアイデアを形にしただけの、形状も今よりずっと大きなセンサーでしたが、それを見た瞬間に可能性を感じましたね。それから商品化に向けて動き出し、さらには技術の横展開や応用の検討過程で、テニスだけにとどまらずスポーツの領域でソニーらしい価値を提供できるのではないかと構想が広がり、立ち上がったのが私たちが所属するスポーツエンターテイメント事業です。
松永: 私はもともと音楽の解析技術を開発していましたが、これを何かに生かせないかと考えていました。ヒントになったのが、入社してからはじめたテニス。テニスラケットの振動を解析して、ボールを打つ際のインパクト位置を可視化できれば、もっと効率的にテニスが上達できるかもしれないと考えたのです。趣味からひらめいたアイデアですが、そこから会社の先輩たちを巻きこんでプロトタイプを制作。技術交換会に展示したところ、多くの人に面白いと言っていただきました。その場でテニス部の先輩でもある中西さんからも声をかけていただき、一緒にやってみようと商品化に向けて動き始めました。
中西:新しい事業を立ち上げる際には、当然多くのハードルがありました。スポーツは、ソニーにとって未知の領域なのでなおさらです。まず、社内のコンセンサスを得るために、この商品によってユーザーが本当に喜ぶ姿をマネジメント層に見てもらおうと考えました。テニスをする子どもたちはどんな楽しみ方をしているのか、プロのコーチはどんな使い方をするのか。それを探るためにも、知り合いのテニスコーチのご家族にプロトタイプを使っていただき、その様子を撮影しました。そして、実際にテニスセンサーを使って楽しむ様子を、社長の平井さんをはじめトップマネジメントに見せたのです。テニスにはこういう喜びがあるのか、では他のスポーツはどうだろうと話しは大いに盛り上がりました。さらに、テニスに限らずさまざまなジャンルでいろいろな人に新しい体験を提供できるかもしれないと、スポーツの領域におけるソニーの可能性を提示することにつながり、プロジェクトを大きく前進させることができました。
松永:テニスセンサーを開発するためには、社内・社外問わず実際にテニスをする人のさまざまな意見に耳を傾けることがなによりも重要でした。例えば、当初はラケットにボールが当たった位置とスイングの種類の測定までしか想定していませんでした。しかし、ラケットのスイングの速さや打球速度、ボールの回転数も知りたいという意見が多く寄せられ、新たに開発に着手することにしたのです。正直、そこまでのデータを測定するのは技術的に難しいのではないかと考えていたのですが、苦労しながらも最終的には実現することができました。もし社内の意見だけで開発を進めていたら、こうした機能は生まれなかったかもしれません。プレーヤーの意見を積極的に取り入れることで、可能性がさらに広がったと思います。
フォレスト:テニスは世界中で楽しまれているスポーツ。より多くの人にこの商品を使ってもらうために、デザインではさまざまな国の人の意見を取り入れながら開発を進めました。たとえば日本人とアメリカ人のプレーヤーでは、体格やパワーなど身体的な要素はもちろん、考え方や文化も異なります。日本では常識だと思っていた使い方が、アメリカでは通用しないことが多々あります。そうしたことが起きないように、テニスセンサーで使われるアプリケーションのUIデザインの開発には、日本人だけでなく、欧米やアジア出身の社員も参加。各国のデザイナーの意見を取り入れ、さまざまな視点から改良を重ねることで、テニスを楽しむ世界中の人が使いやすいインターフェースを追求しています。また使い方ビデオも、さまざまな人種の男女が出演するものを制作し、誰もが楽しめる商品の世界観をつくり上げました。ソニーの世界中のリソースを活用することで、テニスセンサーの多様性をより高めることができたと思います。
黒田:私がスマートテニスセンサーのプロジェクトに参加することになったきっかけも、やはり技術交換会でした。もともとスポーツが好きだったこともあり、展示されていたスポーツにまつわる製品やサービスを見て、すぐにでも参加したいと思いました。当時はテレビのソフトウェア設計に所属していて、仕事に邁進していましたが、いつかはこのプロジェクトに参加してみたいと周囲に話していました。すると、しばらくして同じ部署の先輩の紹介で、スポーツエンターテイメント事業室のアプリケーション開発部署へ異動できることになったのです。とてもうれしかったですね。
多様性のある体制にしたいという課長のおもいもあり、女性で若手は私だけ。つまり求められているのは、女性としての意見や若い人の感覚です。常に緊張感はありますが、自分の意見をしっかりと聞いてもらえるためやりがいもあります。現在は、買っていただいたお客様の意見を取り入れながら、アプリの改善を進めています。さらに、スマートテニスセンサーの新しい楽しみ方を考え提案し、新たな機能開発に着手しています。あらゆる人の意見を柔軟に取り入れながら、スマートテニスセンサーは今も進化を続けています。
中西:ダイバーシティは目的ではなく、自然に根付いているべきものだと思います。今回のようにさまざまな意見を取り入れながらの商品開発は、ソニーにとって特別なことではありません。新たな領域に挑戦するときもこのやり方をしっかり受け継ぎ、ソニーらしい商品をこれからも提案し続けることが大事だと思います。
松永:技術の観点でのダイバーシティもたくさんありました。最初のアイデアから商品が形になるまでは長い道のりでしたが、ハードからソフト、製造まであらゆる技術のスペシャリストの力が集まることでその後は短期間にでき上がりました。培ってきた技術の多彩さは、ソニーならではのダイバーシティの一つだと思います。
フォレスト:今回のプロジェクトメンバーの中では私が一番年上かもしれません。しかしベテランであっても決して油断はできません。ソニーのダイバーシティな環境で働いていると常に刺激があり、新たな挑戦が求められます。それがソニーの商品開発の強みでもあり、私にとっては仕事のやりがいにつながっています。
黒田:ソニーには、まだ若いから参加できないとか、女性だから任されないということは全くありません。私が提案のできるエンジニアを目指していることを上司に伝えると、そうなるために必要な仕事や機会をたくさん与えてくれます。若手のチャレンジを受け止め、サポートしてくれる。そんな環境がソニーのダイバーシティの良さだと思います。