都筑 : ソニーは、カメラやスマートフォンなどで培ってきたイメージセンサー技術とテレビやカメラなどで培ってきた画像解析、信号処理技術に強みを持っています。今後これらの技術を生かし、人や物を見るセンシング市場を伸ばしていきたいと思い、その足掛けとして肌解析ビジネスを取り組んだのが背景となります。ソニーのイメージセンサーソリューションを用い、「人々の美しく健やかな生活」を実現していきたいと考えています。
橋本 : 当初プロジェクトは男性メンバーが中心で、女性は2人だけ。ビジネスモデルや事業の方向性を考える上では男女の差はないですが、本製品のユースケースやデザインなどを詰めていくところでは、メインのターゲットユーザーである女性の視点を取り入れていく必要がありました。そこでプロジェクトの各部署に女性をアサインすることで、多様な観点からの意見が幅広く取り入れられるよう徐々に体制を整えていきました。
都筑 : 女性にとって化粧やスキンケアは日常のこと。一方、最近は美容を行う男性が増えているとはいわれますが、まだまだ多くの男性にとっては非日常の場合が多いと考えています。それぞれの経験や感覚がどちらも大切で、自分の日常体験を活かした視点で参加する人、純粋な技術者としての視点で参加する人、一歩引いて長期的な視点で参加する人、様々な視点を持つ人が幅広くプロジェクトに参画したことで、多面的な視点を持ちながらプロジェクトを進められたのは良かったと思います。
伊神 : 肌の解析結果の表示方法においても、女性メンバーのユーザー視点の意見を反映しながら進めました。技術的には肌を測定し、その結果を数字として出すことは実現できます。しかし本当に大事なのは、その結果をどういう観点で捉え、お客さまが使える情報へと落とし込むか。そこはやはり、普段から肌のことを考え、化粧品を使っている女性の意見無しではできません。実際に、エンジニア視点ではもっと精度を上げるべきだと考えていたところが、女性のユーザー視点からすると、別の測定結果の方が優先度が高い、ということがよくありましたね。
宮腰 : 私が男性エンジニアからよく聞かれたのは、女性はどういったところに目がいくかということでした。また、表示される文言もユーザーにとって難しい言葉づかいになっていないかと確認されました。女性の意見を積極的に聞こうという熱意が感じられ、嬉しかったですね。
また、プロジェクトメンバー以外の意見も広く取り入れるべく、社員食堂のそばに1ヶ月間体験コーナーを設けて、一般社員から使った感想や要望をヒアリングしました。肌測定機のデザインや使い心地、アプリのユーザーインターフェースや結果表示の内容まで、意見は多岐にわたりました。特に女性ならではと感じたのは、肌を撮るときに鏡を見たいという要望です。女性の場合、例えば測定位置に頬と指示されても、測定したい位置は人によって微妙に異なります。思ったところに測定器が当たっているのか鏡を見ながら測定したいという声も多かったです。そこで、タブレットのフロントカメラの映像を画面上に表示して、鏡代わりに使いながら測定ができるミラーモードを搭載することにしました。何を重視するかについて、開発する側が決めつけず、一つひとつの意見に耳を傾けることで商品をより良くすることができました。
都筑 : デバイスソリューション事業本部にとって、ゼロからセット開発し、システムとしてソリューションを提供するビジネスモデルの商品に臨むのは初めて。ハードウェアのデザインやアプリケーション、クラウドシステムもゼロから開発しなければならず、それはデバイスソリューション事業本部だけではできません。そこで今回、クリエイティブセンターの秋田や、RDSプラットフォームの宮腰をはじめ、部署を越えてメンバーが集い、みんなで一つのプロジェクトを進行しました。
秋田 : それぞれの専門領域はありますが、すべてのメンバーにとって美容というジャンルは初めてです。だからこそ、それぞれの専門にこだわらず自由に意見を交わしながら開発を進めていきました。例えば測定機で肌を撮影するとき、最初は本体のボタンのみで操作をしていました。しかし検証を重ねていく中で、使用するシーンや使う人によって、ボタンの扱い方にそれぞれ違いがある事がわかりました。そこで、ボタンのあり方自体を工夫できないか、みんなで話し合った結果、タブレットにも大きくボタンを配置、本体と画面両方の操作から撮影ができるように大幅に仕様を変更するという決断をしました。そうすることで、測定する様々なシーンやユーザーに対してより使いやすいものになりました。こうした改良も、自由に意見が言い合える現場だからこそ実現出来たのだと思います。
橋本 : 新しい事業に取り組むにあたり、バックグラウンドの異なるさまざまなメンバーが集まったことで、一つの方向性や固定観念にとらわれることなくフラットに議論できたのはとても有効でした。新たなアイデアがたくさん生まれ、純粋にこの商品に対して一番良い形をみんなで目指すことができ、そのおかげで商品の完成度をより高めることができたと思います。
橋本 : また今回は、商品を納入した後も継続的にサービスを提供し続け、継続的に利益を上げるリカーリング型ビジネスに挑戦しています。長期的にお客さまと関係を築いていくという意味では、パートナーとなるエステティックサロンや美容サロン、化粧品メーカーなどからいただく意見がとても重要です。そこで私たちは2年近く前からパートナー様を回ってヒアリングを重ねてきました。ビジネス的に新しいことにチャレンジしているので、エンドユーザーに一番近いパートナー様からフィードバックをいただき、少しずつ改善していくというアプローチは正しかったと思います。
伊神 : 例えば肌の状態を示す判定結果も、パートナー様からの意見やフィードバックが無ければその基準を設定することはできませんでした。測定した結果が肌の乾燥を示しているのか、オイリーな状態なのか、そうした線引きをデータだけを見て設定するのは難しいものです。数値的な精度はもちろん大事ですが、美容業界で本当に使えるものにするためには、測定した結果からいかにより価値ある情報を提供できるか。そのソリューションが大事になります。そういう意味でも、この商品はお客さまからの意見を取り入れてはじめて完成したと言えます。
都筑 : 実は肌解析システムに「BeautyExplorer」という名称をつけることは、社内では賛否両論ありました。男性メンバーからは、もともと肌解析技術「SSKEP(Smart Skin Evaluation Program) (呼称:スケップ)」という技術名称があったので、製品名称として新たな名前が必要なのかという疑問も出ました。しかし、何度も議論を重ねていく中で、パートナーである美容サロンや化粧品メーカーの店頭で使っていただくこと、また私たちの美容にかける想いを理解していただくためには、やはり分かりやすい名前があった方が親しみ易いのではないかという結論に至り、最終的に「BeautyExplorer」という名称に決まりました。その判断には男性目線も女性目線も関係ありません。一番に考えたのは、お客さま(パートナー)にとって幸せかどうか。いろいろな視点を取り入れながらも、最終的な判断基準は常にそこにありました。
秋田 :今回のプロジェクトの中で、ダイバーシティを特別意識していた訳ではありませんでした。しかし、みんなでプロジェクトを進めるために最善を尽くしているうちに、自然とダイバーシティが実現されていたのだと思います。フラットに議論を交わすのが当然というプロジェクトの雰囲気が、いい商品を生み出すことに結びついたと思います。
伊神 : 今までと違うやり方にチャレンジするのはとても大変なことです。しかし、異なるバックグラウンドを持つ人が集い、一丸となって取り組めばやり遂げられることが今回分かりました。今後も、いろいろな価値観の人と協力することで、お客さまにとって新たな価値を創り出せるのではないでしょうか。
宮腰 : 誰かが何かを決めつけることはなく、常に相手の考えを受け入れて、お互いを認め合いながらプロジェクトが進んできました。多彩な意見が自由に飛び交う現場は、参加していてとても楽しいものです。ダイバーシティな環境は、そうした仕事へのモチベーションにもつながりますね。
橋本 : ソニーには、性別や職位、職種、キャリアやバックグラウンドなどを取り払って自由に意見を言い合える、そして、だれの意見でも良いものが反映される企業風土があります。これからも新規ビジネスを立ち上げていくために、今回のような多様性のあるメンバーでフラットに議論できる環境を大切にしていきたいですね。
都筑 : 女性の中にもさまざまな人がいて、異なる意見があるように、男女だけが多様性ということではありません。その人がどういった体験をしてきたか、どういった視点を持っているかが大事なのだと思います。ソニーにはいろいろな人がいるからこそ、プロジェクトもいろいろな可能性が広がっていきますね。