武藤 : ソニー希望・光では現在、障がいのある社員、サポーター社員が在籍しています。ソニーの創業者である井深大さんの「障がい者だからという特権なしの厳しさで健丈者*の仕事よりも優れたものを」という理念を受け継ぎ、プロの成果を目指して日々業務に取り組んでいます。2002年の設立当時、御殿山にあった本社の清掃業務からはじまり、社内郵便物の集配や厚木・大崎事業所の清掃まで、徐々に業務内容や働く場所を拡大してきました。2014年に本社が品川港南に移るとさらに多様化し、今では名刺作成やテキスト製本、書類の電子化など事務サポート業務・業務窓口でのコミュニケーション業務なども手がけています。
もちろん業務の拡大には工夫が必要です。障がいの特徴から、初めからすぐに100%を求めることは難しい社員もいますが、新規の仕事はまず、社員が最初から最後まで一人でできるよう作業や手順を整理し、再構築する必要があります。まずは70を覚えることからはじめ、それができたら80、90と社員が自立してできる領域を増やしていくのです。社員一人ひとりの特性を見極めることも大切です。絵を見て覚えるのが得意な人もいれば、聞いて覚えるのが得意な人、書いて覚えるのが得意な人などさまざま。それぞれに合った教え方で少しずつ成長し、今では基本的に各々が一人で作業しており生産性も向上しています。障がい者が働く会社だからといって、決められたことやできることだけやっていればいいかというと、決してそうではないと思います。プロとして業務遂行することや領域を広げることは会社としてごく当たり前のことですし、なによりここで働く社員達も自分達でできることを増やし、成長し、新しい仕事にチャレンジしたいと思っているのです。
武藤 : ここまで業務を拡大できたのは、私たちが仕事の依頼に対してしっかり期待に応えられてきたというのもあると思いますが、ソニーの自由闊達で風通しの良い企業風土も大きな強みになっています。ソニーグループ内では仕事の依頼についても気軽に相談し合えるので、新たな仕事に結びつきやすいのです。また、ある部署からご依頼いただき結果をだすと、その話を聞いた別の部署からも同様の仕事をいただくなど、グループ会社全体に業務が広がります。こうしたソニーのカルチャーともいえる風通しの良さは、ソニー希望・光の社内でも変わりません。普段からサポーター社員と障がいのある社員がフランクに相談できる関係づくりをしています。私自身も意識しているのは、誰が言ったかではなく、発言内容そのものを判断すること。良い意見はみんなで耳を傾け受け止めるという会社の雰囲気を大切にしています。
古村 : 私は普段清掃担当社員をサポートしているのですが、普段の現場でももっとこうやってみたいという意見がでるようになってきました。先日も、ある社員が役員エリアの会議室の椅子を綺麗に並べるため、目安となるモノサシのようなものをつくり実際に運用した成果を発表しました。その時、ここにいる羽鳥さんが「質問があります!それによって作業は何分短縮できたのですか」と発言したのです。それには、思わず私も気づかされるものがありました。
こうした意見交換ができるのも、自分の仕事に対して自信を持てるようになったからだと思います。職場が港南に移った最初の頃はみんな緊張して動けなくなってしまうことも多かったのですが、何度もトレーニングを重ねて、今では一人ひとりが一切迷うことなく業務にあたれるようになりました。業務は日々進化しているので、私たちも一緒に考えながらいつも新しいことにチャレンジしています。そうした中で一つずつ階段を上るように自信をつけ、自ら気づけるようになり、やがては自立できるようにしっかりサポートしていきたいですね。
ソニー希望・光で働くお二人に、業務の様子や仕事のやりがいなどをお聞きしました。
武藤 : 会社に行って仕事をすることで大切なのは、一人じゃないってことなのです。仲間がいるとかチームで仕事をするとか、話し合える人たちや助け合える仲間がいること。気持ちが寄り添えるかっていうようなところが大事なことです。働きやすい環境は準備しますので、働き甲斐のある仕事を頑張ってやってほしい。責任をもって自分の担当領域はきちんとやってほしいと期待しています。障がい者の働く環境の理想は、周囲が自然体で受け入れ、障がいのある社員の働く姿がごく自然とそこにあることです。そうした観点でいうと、私たちはグループ会社が集まる本社ビル全体を自由に動き回って働いています。そして他のグループ会社の社員たちとは同じビルの中で働く仲間であり、チームであるという意識を持っています。それは厚木でも大崎でも変わりません。そうした光景が当たり前になり、特に声高に主張することなく実現できていることが、ソニーのダイバーシティの良さであり、インクルーシブな環境につながるのではないでしょうか。