〜ロボット・プログラミング学習キット KOOV®(クーブ)〜
KOOV®は、ブロックで形をつくり、プログラミングで動きを与える、ロボット・プログラミング学習キット。
プログラミング教育普及の障壁を払拭し、誰もが楽しく簡単に学べる製品・サービスを実現しています。
多様な人材の視点による、国や人種、性別などに関わらず受け入れられるための工夫や、
KOOV®によるプログラミング教育を世界中に広げるためのチャレンジを、
株式会社ソニー・グローバルエデュケーション※のプロジェクト担当者に聞きました。
礒津:今、世界のさまざまな地域の教育業界で、プログラミング教育に注目が集まっています。そんな中、子どもたちを対象に誰でもわかりやすく学習でき、ジェンダーニュートラルなデザインをコンセプトに、ロボットを使ったプログラミング学習教材として開発したのがKOOV®です。現在では、特に日本でプログラミング教育の重要性が社会に浸透し、エンジニアが憧れの職業のひとつになりましたが、それでもエンジニアを目指す女性が少ないなど、課題も多いのが現実です。その課題を解決したいという思いもあり、子どもたちはもちろん、保護者や先生にも満足してもらえる教材を目指しました。KOOV®を開発するにあたり、日本以外にもアメリカや中国、東南アジア諸国などグローバルな市場で勝負できる強い製品に育てていくには、さまざまな背景、文化、職歴、社会経験のある多様な人材が、開発面でアイデアを出し合うことが重要になります。当社は規模が小さいので、与えられた仕事以上に、一人ひとりが自ら課題を見つけ、現場レベルで意思決定をする必要があります。そういった観点から、KOOV®のプロジェクトにはさまざまな経歴や国籍の人材を登用しました。
野末:日本では、教育分野を手がけるITサービスの会社は、ネットワークエンジニアなど、同じ職種の人が集まりやすいのですが、私たちの会社はエンジニアはもちろん、デザイナーや教材制作者など、いろいろな職種の人がバランス良く集まっていて、その国籍や年齢もさまざまです。そんな多様な人たちがいるので、自分にはない意見や考えをすぐに聞くことができます。よく社内でブレーンストーミングを行うのですが、自分には思い浮かばないようなアイデアや異論が飛び出すことがあり、チームの持つ多様な背景が、KOOV®のサービスやコンテンツに深みを与えていると思います。
原田:私は新卒入社でこの会社に入ったので、これが一般的な会社の環境だと思っていましたが、来社されたお客様が「こんなにエンジニアやデザイナーが近くにいるのか」と驚いているのを見て、さまざまな交流が自然に発生しやすい環境であることに改めて気付きました。大学で情報工学を学んでいたとき、「ダイバーシティ」がテーマに出ましたが、無理に多様な価値観を尊重しようとすると、違和感が生じました。でも、この会社では多様な価値観を育む環境が当たり前なので、意識したり特別なことをすることなく、自然体で働けます。
レ:KOOV®のアプリは、クラウドに作品の画像やプログラムをアップロードして、世界中のユーザーと交流することができますが、国によってユーザーのニーズや関連する法律などが異なるため、それぞれの国に合わせてクラウドの機能をカスタマイズしています。例えば、アメリカには個人情報を守る厳しい法律があるので、子どもたちにはニックネームを入力させず、自動生成したものを簡単に設定できるようにしたり、作品の画像に個人情報が入っていないか、サービス運営者が簡単にチェックできる仕組みを取り入れています。また、作品の説明を自動翻訳して、言語の異なる子どもたち同士がコミュニケーションできるようにしています。こうした工夫が、国や地域に関わらず受け入れられるサービスにつながっていると思います。
野末:プログラミングやロボットといった機械的なものに興味を示すのは男の子が多いと思いますが、KOOV®は男女の区別なく、多くの子どもたちに楽しんでもらえるように、ブロックやアプリのユーザーインターフェースは明るくカラフルな色彩設計をコンセプトにデザインしています。また、KOOV®は自由に組み立てて、失敗したら壊し、また組み立てるという行為を繰り返すことでプログラミングを学ぶ製品です。だからアプリでは、失敗したときにネガティブな表現をしないことを心がけました。さまざまな国で使われることを前提にしているので、アイコンなどを多用して、言語に頼らなくても内容がわかるような工夫もしています。アプリ内に表示される自分のアバターも、肌や髪の色の種類を豊富に取りそろえ、どの国や文化でも自然に受け入れてもらえるようにしています。
原田:プログラミング教育は世界的に盛り上がっているので、世界各国から教育研究の知見が報告されています。しかし、もちろん国による違いも大切なのですが、日本国内でもプログラミング教育に対する考え方が多様であることに日々驚かされています。例えば、都市部と地方ではプログラミングの向き合い方に温度差がありますし、保護者の方の関心度もさまざまです。また、教える先生によってもプログラミング教育に対する捉え方が違い、理想とする指導方針も異なります。一人ひとりの先生に合った教育方法を提案して、先生が実現したい教育をKOOV®でサポートできるよう心がけています。
セン コウ:中国では、KOOV®のプロモーションと販売を行っているソニー・チャイナからアドバイスや意見をもらい、製品開発やサービスに取り入れています。中国では製品に関する制限などが日本とは異なるため、現地と連携を取りながら、製品コンプライアンスへの取り組みやカスタマーサポートの体制づくりをしています。インターネット環境も日本とは異なり、学校では教育専用のネットワークを使用していますが、回線速度が遅いため海外との通信に時間がかかり、大容量データを読み込むのが難しいんです。そこで、中国国内にデータ用サーバーを設置し、快適にアクセスできるようにしています。今、中国市場でKOOV®の販売台数が伸びているのですが、こういった取り組みの一つひとつが実を結んだ結果だと思います。
礒津:中国は教育に熱心な国で、現在は特にプログラミング教育に力を入れています。政府が教育特区に指定した地域には多額の予算が割り当てられ、KOOV®を約200台購入した学校もあります。また、北京大学とコラボレーションした教材やコンテンツを昨年夏から市場に投入しているのですが、有名大学にご協力いただいたことが評価されているのか、公立学校の先生方からの人気も絶大です。北京の一部の学校ではKOOV®が正規のカリキュラムとして導入され、国語・算数・理科・社会・「KOOV®」といった状況になっているほど。中国の文化や教育に対する考え方を理解し、製品やサービスに取り入れることが、中国での成功につながっているのではないかと感じています。
礒津:日本では、昨年10月、KOOV®の法人向けサービス「KOOV for Enterprise」が、教育分野で最も知名度の高い「日本e-Learning大賞(最優秀賞)」と「IMS Japan最優秀賞」をダブル受賞しました。受賞の理由としては、学習塾約300教室への一斉導入の実績や、教材としては過去に例を見ないオールインワンのサービスであること、海外で受け入れられた日本初の教材であることなどが挙げられますが、最大の要因は、先生方の負担を減らし、授業の手助けになる点だと考えています。
2020年度から小学校でのプログラミング教育必修化が発表されましたが、英語やダンスなども必修化され、先生方の負担は増える一方です。「KOOV for Enterprise」は、KOOV®の製品・サービスに加え、教師用マニュアルなど先生を支援するツールが強化されているので、すぐに授業が始められますし、プログラミングの指導経験がない先生でも簡単に授業に取り入れることができます。例えば、都内のある小学校では、専門外の先生が1カ月間トレーニングしてプログラミングの授業を行った事例があり、教育業界で高く評価されています。指導者の人材不足は、プログラミング教育の普及において大きな障壁です。KOOV®がそのハードルを下げることで、プログラミング教育がもっと身近になるのではないかと思います。
レ:ベトナム人の私から見ても、KOOV®のデザインはとても美しいと感じます。性別や国籍を問わず愛されるデザインが、大きな魅力になっているのではないでしょうか。また、KOOV®には世界中の子どもたちの未来を変える大きなビジョンがあります。私はエンジニアとして、シンプルで使い勝手のよいソフトウェアをつくっていきたいと考えています。そして、世界中からフィードバックをもらいながらソフトウェアを改善し、子どもたちが簡単かつ効率的に創造力を育成できる環境をつくっていきたいと思います。
セン コウ:中国のユーザーからは、改善や機能追加など約1,000件の要望をいただいています。私は中国出身なので、文化や価値観を理解している立場を生かしながら、ビジネスに必要なもの、効果がありそうなものを見つけ出し、エンジニアに提案して機能やサービスに反映してもらっています。膨大な要望の中から必要なものを選び出すのは大変です。でも、私にしかできない仕事だと思いますし、中国でKOOV®を使って学んでくれる子どもたちと先生のために、これからも頑張っていきたいと思います。
野末:KOOV®は発売されてから約2年経ちますが、私はまだ製品として完成しているとは思っていません。ソフトウェアを毎月更新しているので、今でも進化し続けています。学校の先生方からご要望をたくさんいただいていることを考えると、どんどん良い製品にしていきたいという思いが強くなっていきます。KOOV®が、子どもたちや先生にとって、もっともっと使いやすい製品に成長していくのを楽しみに日々仕事に励んでいます。
原田:私たちの会社では、「KOOV Challenge」というKOOV®で学んだ子どもたちのためのコンテストを開催しています。日本と中国といった地域の違いや、学校と塾など、KOOV®を学んだ場所やカリキュラムが異なると、それが作品に現われます。子どもたちは、自分がつくったものとはまったく違う作品を見て、刺激を受けているようでした。KOOV®にはクラウドで作品を共有する機能があり、他のユーザーの作品を実際につくることもできます。世界中の子どもたちがKOOV®でコミュニケーションしながら刺激し合うことで、柔軟に発想する力を育んでもらえたらいいなと思います。もしかすると、KOOV®そのものが、市場やユーザーの多様性を力として育っていくものかもしれないと思っています。
礒津:ソニーはこれまで、さまざまなブランドでビジネスを展開してきましたが、プログラミング教育の分野ではKOOV®というブランドで、教材としての地位を確立したいと考えています。国内では学習塾を中心に採用件数が増えてはいるものの、公教育ではまだまだこれから。導入コストや先生のトレーニングなどさまざまなハードルがありますが、その一つひとつをクリアして、やがて学校でお道具箱が配られるように、KOOV®が配られるようになることを目指したいと思っています。
時代が変われば、必要となるスキルも変わります。これからの時代は、AIに置き換えられない仕事ができる、高いクリエイティビティが必要になるのではないでしょうか。クリエイティビティを育む人材教育の一翼をKOOV®が担うとともに、国や言語、人種、文化などの違いを越えて、世界中の子どもたちがコミュニケーションできる場を提供していきたいと思います。