〜ソニー損保のCX向上への取り組み〜
ダイレクト型という保険の新しいビジネスモデルで成長を続けてきたソニー損害保険株式会社は、
ステークホルダーである顧客の価値を最大にするために、カスタマーエクスペリエンス(以下、CX)の向上に取り組んでいます。
創業時からソニーグループに受け継がれてきた「ダイバーシティ&インクルージョン」の精神をもとに、
多様化するお客様一人ひとりに寄り添い、気持ちを受け入れ、社員同士が連携しあう、同社のCX向上への取り組みについて、
カスタマーサービス部門、損害サービス部門の各担当者に話を聞きました。
川上:ソニー損害保険株式会社(以下、ソニー損保)のCX向上活動は、創業時より行ってきた顧客接点ごとの満足度評価から、2015年頃にNPS(Net Promoter Score〈ネットプロモータースコア〉:会社全体に対するお客様からの支持度合)へと、主要指標を変えたことが起点になっています。NPSを向上させる手法としては、商品やサービスのスペックを高めることと、CXを高めることの両面が必要です。前者は自動車保険で言えば、補償内容やロードサービスのメニューを充実させること、例えば、レッカー代を何kmまで無料とするかなどが挙げられますが、同じようなことは他社でも実現できると考えます。一方、CXの質を高めることは、なかなか他社には真似できないため、当社ならではの優位性や差異化を図ることができるエリアと考えています。
まず、当社では大半のお客様がWEBから申し込みをされますが、「保険のことはわかるがWEBは苦手」という方もいれば、「WEBは得意だけど保険のことはよくわからない」といった方もいらっしゃいます。それぞれに異なる課題に対して、お客様の望むタイミングや手段で、スムーズに手続きができるようサポートして顧客体験の質を高めることが、私たちカスタマーサービス部門の役割だと考えています。また、中にはカスタマーサービス部門へ電話やメールでコンタクトせずに、自分自身で課題を解決したいお客様もいらっしゃいますので、コンタクト手段のオムニチャンネル化やオペレーションの見直しのほか、お電話いただいた理由のデータ化・集計などを行って、WEBでの課題自体を減らす取り組みも行っています。さらに、耳や言葉の不自由なお客様に向けた「手話・筆談サービス」など、多様化するお客様に安心してご利用いただけるサービスの提供にも取り組んでいます。
美濃:私は、損害サービス部門で自動車事故の物損事故案件を担当しています。代理店を介さず、お客様と直接やりとりを行うダイレクト型のビジネスだからこそ、CX向上で心がけているのは、初動対応でいかにお客様のニーズをくみ取るかということです。まずは、事案解決までの全体像がぶれたり、お客様のご認識とずれが生じたりしないよう、事故状況を細かく把握します。そのうえで、お客様のお気持ちをしっかり聞くようにしています。場合によってはまず最初にお客様の話を伺ったり、その声色から、まだ語られていないお客様のお気持ちを探ったりすることもあります。
川上:より良いサービスを提供し、さらにCXを向上させるには、他部署との連携や協力が重要です。私は以前、お客様とのやり取りを行うオペレーターが使用する、顧客対応の流れや確認ポイント、推奨トークをまとめたトークガイドの制作を担当していましたが、部門を横断して関連の会議を開催し、トークガイドに沿った電話対応を複数の部門の視点で見ることを模擬的に行いました。営業部門やWEBサイト作成部門からの視線でトークガイドを見直すと、カスタマーサービス部門からは出てこないような改善点が見つかりました。この部門横断の会議は、とても有益だったと思います。また、いくらトークガイドを見直しても、WEBサイトや他の書類などで使われている表現と異なっていたら、お客様を混乱させることになりかねません。お客様の一連の体験を想定しつつ、それぞれの部門が連携しながら改善活動を行うことが重要だと考えています。
廣橋:私が所属している部署では、事故に遭われたお客様に対して、事故対応の説明を補足する各種ツールの企画・作成を担当しています。お客様が事故対応を体験される際に、どのような考えや感情を抱かれるかを把握する「カスタマージャーニー」のマップを作成するにあたり、他部門の方にもお客様役として協力してもらいました。担当者としての専門業務が長くなると、お客様の視点から離れがちになりますが、他部門の方に模擬カスタマーとして入ってもらうことで、よりお客様の反応や感情が浮き彫りになり、お客様視点に戻ることにつながりました。また、私は事故解決後にお客様に書いていただくアンケートやお客様の苦情の内容を確認する業務も行っていますが、お客様からいただくご意見はもちろん、昨年度まで実際に事案担当だった経験も活かして、初めて事故を経験した方や保険に関する知識がない方にもご理解いただけるよう、シンプルでわかりやすいツールづくりを心がけています。
大植:私は、医療保険の支払査定業務を担当しています。当社が提供している「WEB保険金請求サービス」は保険金請求手続きがWEBサイトでできるサービスです。このサービスの利用促進を図るべく、実際に利用したお客様にご協力いただいたアンケートの結果をサービスの案内チラシに掲載することにしました。その際に、アンケートの集計を行っている部署と連携することで、必要なデータをスムーズに抽出することができました。これまでのチラシは記載したURLやQRコードから、お客様にWEB上の請求方法の説明に飛んでいただく方法をとっており、サービスの一層の利用率向上が課題でしたが、アンケートデータを掲載することで、サービスの「安心・簡単」をよりアピールできる内容となり、実際にサービスの利用率も上がりました。
大塚:他部署と連携してCXを向上させるには、お互いを理解し、尊重することが必要だと思います。私は現在、新人オペレーターが研修を終え、現場デビューしたあと早期に戦力となれるよう、全国の各オペレーター拠点との連携による生産性向上プロジェクトを進めています。どの拠点でもソニー損保として必要とされる対応ができるようにするには、拠点間で説明内容に差異が出ないようにすることが重要です。しかし、各拠点にはそれぞれ歴史や特徴があり、その中で培ったやり方を続けていくと、全体で差異が生じることがあります。そこで、まずは各拠点にどんな人がいて、どんな文化があり、どんな歴史を歩んできたのかを理解し、各拠点のやり方を尊重したうえで、実施してほしいことをしっかり伝えるようにしています。
高橋:ソニー損保には、社員が別の部門に一定期間異動することができる「社内留学制度」があります。私自身も、この制度を利用して2年間、損害サービス部門の事故サポート部に留学しました。同部門では、事故受付業務やロードサービスに関わる業務に従事しましたが、実際にお客様がトラブルに遭われている場面に接することで、カスタマーサービス部門の業務や契約保全業務の重要さを以前よりももっと実感することができました。損害サービス部門で業務を体験したことで知識がつき、その後のキャリアを考えるうえで視野が広がりました。この経験は、カスタマーサービス部門で顧客対応をするうえでも大きな礎になっています。
川上:CXの質を高めていくには、多様な人材の意見を取り入れていくことも必要です。ソニー損保には、立場が違っても意見を言い合える雰囲気があると思います。私は、CXの施策を始め、年次の若いうちから重要なタスクを任せてもらいましたが、経験の浅い私が発した突拍子のない発言も、周りの上司や同僚は根っから否定せず、よく聞いてくれたうえで、正しい方向に導いてくれていたと感じています。おかしなことを言っても即否定でなく、丁寧に教えてくれる雰囲気が意見を言いやすい環境を作っていると考えています。
高橋:意見を出せる雰囲気を保持することも、環境管理の一つだと認識しています。私が担当しているチームでは、オペレーターの皆さんから表計算ソフトなどのチーム内管理ツールの使い勝手や対応方法について意見をもらい、ツールの改善やルールの再整理に活かしています。結果的に、顧客対応時の確実性や、工数削減による対応時間確保につながり、CXの質も高まっていると感じています。
大塚:私も、ソニー損保は非常に意見の言いやすい会社だと思いますね。私の上司は、自分の意見を押し付けるのではなく、私たち部下の意見を真摯に聞いてくれ、良い意見は採用してくれました。こちらが理解できていないときには、腹落ちするまで、時間を惜しまず説明してくれました。また、意見を上げやすい仕組みも整っています。一例として現場からの意見を募る「ご意見投稿」という仕組みがありますが、実際にお客様対応をしている担当者からの意見も数多く寄せられています。私はトークガイドの改訂を担当していますが、寄せられた意見一つ一つに目を通して、お客様の近くにいるからこそ見える修正の提案や変更に関する意見を、できるだけ反映できるよう心がけています。
大植:多様な人材がそれぞれの能力を存分に発揮できる企業風土や職場環境も整っていると思います。例えば、私の周りでも、産休を取得したり、勤務時間を短縮して働いている方も、多くいます。子どもが小さいときは、急な休みも増えますが、お仕事が溜まることがないようチームでサポートできる体制が整っていると感じます。またソニー損保には、子どもが2歳になる誕生月まで有休休暇を5日取得できる「パパママ休暇」があります。育児中の男性社員の助けになる制度だと思います。
美濃:私の部署でも、休みのときには不在対応等でお互い助け合う環境がありますね。休暇自体が取得しやすいので、育児だけではなく、プライベートとの両立もしやすいと思います。不在対応時の担当者は特に決まっていませんが、そうした対応をすることも大切な仕事だと思っているので、電話には積極的に出るようにしています。また、周囲で後輩が電話対応で大変な状況に陥っていたら、できる限り声をかけるようにしたり、相談には親身に応じるように心がけています。
廣橋:私は双子の子どもがいて、現在も短時間勤務制度を利用していますが、出産しても仕事を続けられる環境を会社が用意してくれていることには、とても感謝しています。事案担当者として現場で勤務していたときは、短時間勤務の中、上司や周囲がそれぞれの立場で役割分担やフォロー体制を整え、サポートをしてくれました。これからも、出産しても仕事を続けたい社員や、家族の介護に直面する社員もいると思いますので、時流に合った制度に進化し続けていくべきだと思います。
川上:現在はカスタマーサービス部門で使用するシステムの再構築にあたり、システム企画部と共同でシステム設計を行っています。カスタマーサービス部門でCX向上に取り組んでいたときは、システムの制約で幅の狭い改善策しか検討できないことがありました。今、システム的な業務を学んでいますので、ゆくゆくはシステム改修も含めた幅の広い改善策を検討できるような役割を担い、一人ひとりのお客様によりよいサービスを提供できればと考えています。
大植:これからは、もっと手軽で簡単に保険金が請求できることが求められると思います。お客様との関わり方も多様になり大きく変化すると考えられるので、電話以外のツールの強化や、WEB保険金請求サービスの精度を高める必要があります。強化されていくシステムツールをより多くの人に便利に使っていただくために、お客様と関わる部署にしかできない視点でアピールしていく方法を模索していきたいです。
美濃:AIを活用した新しいシステムや多様な連絡ツールを導入することで、よりスムーズな事故解決ができるようになると思います。システムやツールの利用によってできた時間は、細かいフィードバックや解決方法の模索にあてることができるので、さらなるCX向上にもつながっていくと思います。これまでは物損事故案件の担当として多くの事案に関わってきましたが、これからは人損事故案件の対処方法も覚えて幅広い知識を身に着け、お客様への質問等に「人」だからこそできる対応をしていきたいです。
大塚:私は、海外留学時にさまざまな国籍・人種の人々と触れ合う中で、相手の考えが自分と違っていても敬意を払うことの重要さを知りました。また、前職のラジオ局では、文化背景を含めて考え方や感じ方が異なる人と一つのものを作るには、相互理解が本当に大切だということを学びました。こうした経験から、自分と相手の意見が違ったとき、どうすれば相手のことが理解できるかを考えるようになり、顧客対応において「お客様のため」を意識することにつながっています。これからは、お客様との共感性がますます大切になり、「人間力」が問われると思います。人間力を高めるために必要な「思いやりの精神」を持ち続けられる集団へ導くために、周りを巻き込んだ行動を起こしていきたいと思います。
廣橋:お客様の意向を把握すること、解決方針を示すことなど、さまざまなCX向上施策がありますが、担当者一人ひとりがそれを理解し、取り組み、自分らしさを強みにしていくことが大切だと思います。そして、目の前のお客様に対して、どれだけ親身に誠実に対応できるか、いかにお客様に寄り添って物事を考えられるか、そうしたソニーのダイバーシティの考えにも通じるマインドを持った担当者を育成し続けることが、ソニー損保にとって何より大切なことだと考えています。
高橋:現在、カスタマーサービス部門で展開しているプロアクティブな施策は、お客様からの質問に回答するだけではなく、お客様の潜在的な疑問やニーズをくみ取り、積極的に対応することを目指すものですが、CX向上においてとても大切なことだと感じています。今後はお客様の利便性をさらに高めるような施策も展開されると思いますので、機会があれば関わってみたいです。「面倒なはずの手続きを、ソニー損保がこんなに簡単に済ませてくれた!」という喜びをお客様に感じていただけるようなサービスを提供していきたいと思います。