ソニーでは、社員の多様な働き方をサポートするため、
男性社員に対しても、育児休暇や休職制度の積極的な活用を促進しています。
特に日本では、制度が整っていても、実際の活用がなかなか広まらないと言われています。
そのような中で、最近制度を利用した3人に、利用のしやすさや取得中の生活、仕事復帰後の状況について、
ソニーの新しい未来を創造するための人材育成の場「PORT」で意見交換をしていただきました。
佐藤:私は子どもが2人いまして、今回、下の子が生まれるときに有給と育児休暇を利用して、約2カ月間の休暇を取得しました。上の子が生まれたときは、数日間の有給休暇を取っただけでしたが、今回は上の子がちょうど「イヤイヤ期」で、さすがにこの状態では、出産後の妻の負担が大きすぎるため、休暇を取得したいと思っていました。そこで上司に相談したところ、二つ返事で承諾してもらい、すぐに仕事の引き継ぎができるように話を進めてくれました。私が働くイメージセンサーの商品設計チームでは、周りに育児休暇や休職を取得している男性社員が増えつつあり、同僚のみんなは「仕事のことは心配しないで、子育てをがんばれ」と言ってくれ、協力的な雰囲気の中でスムーズに取得できたと思います。
楠井:私は3人目の子どもが生まれたときに、約半年間にわたって育児休職を取りました。当初は、半年間とは考えていませんでしたが、私の所属する放送局用ビデオカメラの機構設計チーム全体の繁忙期と妻の出産時期が重なってしまい、短期間ではかえってチームの業務に支障が出かねず、思い切って半年間子育てに専念しようと考えました。上司に相談したところ、すぐに状況を理解して引き継ぎに動いてくれました。私のチームではこれまで育児休職を取得した人がいなかったので、メンバーにどう伝えるか悩みましたが、素直に話したところ、「カバーするから、気にするな」と。現在は、私の後に続いて、4人の同僚が育児休職を取得しました。
北川:私は第1子が生まれるタイミングに合わせて、約1カ月間の育児休暇を取得しました。我が子の出産にはじめて立ち会う経験は人生で一度きり。それを体感して父親になりたいと強く思ったのが取得の理由です。私が働いている広報・CSRは女性社員の割合が多いこともあり育児休暇への理解や実績があって、休暇を取得しやすい部署だと思いますが、実は同時期に同じ課のメンバーが育児休暇を取得予定だったため、若干取得にためらいもありました。上司には日数を調整しようかと相談したのですが、「一生に一度のことだから、遠慮せずに休みを取りなさい」と言われて、出産に立ち会い、約1カ月間我が子と過ごすことがきました。
佐藤:育児休暇中は、上の子どもとずっと過ごしていました。それまでは私の帰宅時間が遅いため、平日に子どもと触れ合う時間はあまり持てなかったのですが、休暇中は子どもと毎日長い時間を一緒に過ごすことができ、その成長を肌で感じられて嬉しかったですね。同時に、子育ての本当の大変さも学ぶことができました。実は、出産後に妻が緊急手術を受けることになって退院が遅れ、その数週間、上の子どもと二人で過ごしたのですが、子どもの面倒を一人きりで見ることの大変さは想像以上のものでした。そのとき、日々の妻の苦労が身にしみて分かり、その後は夫婦で同じ感覚を分かち合いながら会話ができるようになったと思います。現在は子どもが二人になり、育児の負担がさらに増えたので、親としてやるべきことを率先して行うようにしています。
楠井:私も佐藤さんと同じように、半年間子どもたちと一緒に過ごせたことは、貴重な時間になりました。うちは共働きで、そもそも日常生活が家事や育児に追われて綱渡りで、それまでは妻とゆっくり食事をしながら会話をする機会も少なかったように思います。しかし休職中は、昼ごはんを食べながら、晩ごはんの献立を一緒に考えるなど、他愛もないことで、妻や子どもたちとたくさん会話でき、家族の尊さや大切さを実感できました。さらに良かったのは、これまでの自分と、これからの家族との人生について、深く考える時間が取れたこと。自分は何のために働いているのかを考える中で、今後の生き方の選択肢も広がったような気がします。育児を通して、そのような経験までできたことは嬉しく思っています。
北川:私の場合は第1子の誕生でしたので、夫婦の時間を大切にしながら、自分も「父親になる」という気持ちを高め、準備をしていました。しかし、実際に生まれたら、父親らしいことなんて一つもできませんでしたね。泣いている我が子を前に、お腹が減っているのか、オムツを替えてほしいのか、何をしてほしいのかが分からずオタオタするばかり。当たり前ですが、子どもと自分は違うことを考えていて、しっかり相手を見ることで何を求めているのか考えなければなりません。1カ月という期間、育児に向き合ったことで、少しずつ父親になっていったとともに、「相手のことを思う」というコミュニケーションの根底にも改めて気付くことができました。
佐藤:私は育児休暇を取得して、仕事への取り組み方、特に時間の使い方が変わりましたね。もちろん仕事のクオリティーは変わらないように心がけていますが、案件ごとに優先度を付けて、より効率的にこなしていくことで、少しでも早く帰宅して平日に子どもと触れ合う時間を増やすようになりました。さらに、ソニーのフレキシブルワーク制度の在宅勤務も利用するようになりました。自宅ですので、横から子どもがキーボードを打ってしまったり、オンライン会議中に子どもの声がオフィスの会議室に響き渡ったりするなど、同僚に若干迷惑をかけてしまう場面もありますが、家の都合などで必要となる際は気軽に利用させてもらっています。
楠井:私も時間の使い方が変わって、仕事の満足度とともに、人生の満足度も意識するようになりました。そのような観点から、遊ぶときには、子どもの楽しみだけに合わせるのではなく、私自身が楽しめることも大切にしています。例えば、週末のレジャーは子どもたちだけが楽しめる場所ではなく、自分や妻も楽しめる場所に行こうと意識しています。やはり、私たち親も楽しまないと続かないですし、父親というより、一人の人間として子どもたちに楽しんでいる姿を見せることが大事だと思っています。また、私も在宅勤務を利用していますが、オンライン会議は人数構成などによって議論に加わりにくいという場合もあり、月に一度か二度の利用にとどまっています。今後、会議のやり方などを工夫して、もっと利用したいと思います。
北川:私も職場に復帰してから、仕事に対する姿勢ややり方が変わったと思います。早い時間に帰宅するためには、仕事量を減らすのではなく、アウトプットのクオリティーを短時間でいかに高めていくかという視点から、仕事のやり方を見直して、一層の効率化や工夫を図るようになりました。子どもの体調が悪くなった場合など、急な保育園の迎えが生じたときは、有給休暇を時間単位で取得していますが、職場の同僚も「早く行ってあげて」と理解してくれ、非常に助かっていますね。また、私も在宅勤務を活用しています。緊急時には携帯電話での連絡対応もできますし、資料作成などのデスクワークは自宅のほうが集中しやすいという利点もあります。
佐藤:これから育児休暇や休職を取ろうとする男性社員の方に伝えたいことは、上司だけでなく、パートナーともよく話をすることです。パートナーは夫が育児休暇・休職を取るというと「助かる」と思う反面、「夫が職場に迷惑をかけないか、取得中の収入はどうなるのか」などと心配に思うものです。うちの場合も妻に心配され、ソニーの育児休業制度の説明から、自分の職場がどういう状況で、他に取得している社員はこれくらいの人数がいて、キャリア面でも収入面でも問題ないということを伝えました。まずはパートナーときちんと話をして、自分の家庭ではどれくらいの期間を取得するのがベストなのかを決めるのがいいのではないかと思います。
楠井:私と佐藤さんは、ソニーグループの「多様性推進プロジェクト DIVI@Sony*」の活動メンバーでもあり、自分の経験を活かして、社員が育児休暇や休職の取得を推進する「ちちおや育休セミナー」を主催しています。そこでも取得するかどうか悩んでいる男性社員をたくさん見かけるのですが、その悩みの理由を聞くと、やはり「仕事が心配」と言います。確かに仕事は大事ですが、出産は女性が命がけで行い、しかもその後は、24時間待ったなしで生まれた我が子の世話が始まります。時間を作って一緒にその大変な時期に関わることは、人としてもう一つの大切な仕事なのではないかと私は考えています。会社の組織は、支え合うためにあるもので、誰かに支えてもらったら、次は自分が誰かを支えてあげればいい。一生を築いていく家族の一番大変な時期を支えるために、この制度をどんどん活用してほしいと思います。
北川:私も、もし取得を迷っている人がいるのであれば、取った方が良いと率直に思います。自分もはじめは、せっかく男性社員の育児休業制度があるなら、第1子の出産の機会に活用したいという程度の気持ちだったように思います。しかし、今は取得して本当に良かったと思います。生まれて間もない赤ちゃんの1カ月の成長スピードは圧倒的に早いし、日々表情が変わる姿を見られたことは感動でした。あの体験はまとまった期間を休める育児休暇でしか味わえません。さらに、自分は短期間でも集中して育児を経験したことで、父親としても人間的にも成長できたように思います。もし、私と同じような男性社員の方がいましたら、ぜひ、育児休暇や休職の取得をおすすめします。