SONY

障がいを意識しない職場で、個々を生かすチームをつくる

作本 建一
ソニー株式会社 コーポレートIS部 コーポレートIT戦略グループ
兼務)ソニーグローバルソリューションズ株式会社 Strategy部門 Strategy-JP部 EA Strategy課 統括課長

経営工学を学んでいた大学時代、不慮の事故に

大学では、経営工学を専攻しました。経営というと文系の経営学が思い起こされますが、経営工学はコンピューターを使って企業や組織の経営システムを科学的に研究する学問。この道に進んだのは、高校生のときに教えてもらっていた家庭教師の方がきっかけでした。大学で経営工学を専攻していた彼から授業の話などを聞いているうちに、こういう工学の世界もあるのだと惹かれました。また、当時は企業のIT化が急速に進んでおり、情報処理の知識や能力が将来役立つだろうという予感もありました。大学の授業ではさまざまな業種の経営課題を数学的に分析したり、より無駄のない生産管理システムを構築するなど実践的な授業が多く、そのときに学んだことは今の仕事に大変役立っていると思います。

そんな充実した大学生活を送っていたある日、バイク事故で頸椎を損傷し、車椅子生活となりました。そのときは本当に目の前が真っ暗になるほど落ち込みましたが、そんな状況のなかで助けてくれたのが友人たちです。授業後や休日に、毎日のように見舞いに来てくれました。リハビリ終了後に大学に戻っても、友人たちは私の障がいをまったく気にせず、以前と同じように遊びに誘ってくれました。それは非常に嬉しかったです。また、大学の教員や事務員の方々もいろいろと配慮してくれ、障がい者用トイレを新しく設置したり、授業をなるべく1階の教室で行うなどのサポートをしてくれました。そういった皆さんのサポートのおかげで、安心して大学生活を送ることができました。

独創的なものづくりに惹かれて、ソニーに入社

就職先としてソニーを考えるようになったきっかけは、ソニー製品のデザインが好きだったこともありますが、それ以上に目が離せない存在だったからです。例えば、当時のソニー製の携帯電話にはダイヤルを回して押すジョグダイヤルという操作機能が搭載されていたのですが、私は当初、「確かにユニークな機能だけど、果たして世の中に受け入れられるだろうか?」と半信半疑でした。しかしその後、ジョグダイヤルは世の中に浸透し、一世を風靡しました。そういう常識にとらわれない、独創的な観点からものづくりを行うソニーはとても気になる会社でしたね。面接ではソニー製品に対して「自分ならこうする」と生意気な意見を言ってしまったのですが、面接官の方は面白がってくれたようです。そして入社して配属されたのが、情報システム部門。そこで、半導体などのデバイス事業部門の情報システムの構築・運営を担当しました。

ソニーで働いていて実感するのが、障がいの有無を感じさせない職場だということ。入社当初、情報システム部門の同期入社が20名ほどいたのですが、研修などではみんな自然体で接してくれ、手伝ってほしい場面では当たり前のようにサポートしてくれました。実際の業務においても、上司や先輩からは、障がいの有り無しに関わらず仕事を任されますし、特別扱いされたことはありません。また、感心したのが障がい者に配慮したオフィスの設備設計です。一般的なオフィスビルでは、障がい者用のトイレは各階に1箇所、なかにはビル全体で1箇所という場合も多いなか、ソニー本社ビルでは各階に2箇所あります。各地域にあるソニーの事業所でも障がい者用トイレは充実していて、各所にスロープが設置されています。これは、障がいのある社員がそれだけ多く活躍していることの表れではないかと思います。国籍や性別など、さまざまな個性のある社員が職場で活躍し、一方で会社は働きやすさを追求するからこそ、バリアフリーに対する意識も自然に高まっているのだと感じています。

車椅子ユーザーにも配慮したソニー本社のファシリティ

障がいの有無にかかわらず、仕事を任せる企業風土

ソニーは、エレクトロニクスやエンタテインメント、金融など幅広い事業領域を展開しており、さらにエレクトロニクス領域においては、事業部門、生産部門、販売部門、情報システム部門などいろいろな組織があります。しかし、各部門の壁を感じることはほとんどなく、業務を行うにあたって自由な職場だと思います。例えば、部門間をまたぐ大きなプロジェクトの場合は、各部門のメンバーが持つ多様なスキルや経験を生かし、活発に意見を交わしながら力を合わせて仕事に取り組みます。そこでは、障がいの有無や国籍の違いなどはまったく関係なく、求められるのは自分の信念に基づいて意見を言うこと。上下関係などの立場を意識せずに意見を言い合える、とても風通しのよい企業風土だと感じています。

これまでの業務経験で印象に残っているのは、ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社(以下、SOMC)での仕事です。SOMCはスマートフォンなどのモバイル事業をグローバルで展開しており、それを支える情報システム部門は海外出張が非常に多く、長期出張の頻度も高い部署です。実はもともと海外での仕事に興味があり、ゆくゆくは海外赴任も希望していたので、上司からSOMCへの転籍を打診されたとき、いい機会だと思い快諾しました。障がいのある社員の場合、健常者と2人1組で出張させる企業もあるようですが、SOMCでは、私の健康状態を確認したうえで出張を全面的に私一人に任せてくれました。この経験によって、私自身、大きく成長できたのではないかと思います。

海外出張中、現地の同僚たちとランチを楽しんだときの一コマ

チームをまとめ、より大きなプロジェクトに挑む日々

現在はソニー本社に籍を置きながら、ソニーグループ全体のITシステムを支えるソニーグローバルソリューションズ株式会社の戦略部門の課長を兼務しています。企業の情報システム全体をデザインするエンタープライズアーキテクチャー(EA)を担当し、トップマネジメントが示すソニーのビジョンをもとに、将来を見据えたソニーグループ全体の情報システムを構想しています。さらに、現場から離れ、チームの舵取りをする課長としてマネジメントという新たな仕事にも試行錯誤しながら取り組んでいます。

課長になってから、自分の視座が変わりました。以前は難しいプロジェクトに挑戦することが好きで「自分が、自分が」というタイプでした。しかし、今はまったく違います。一人ひとりの力は限界がありますが、メンバーの力を合わせれば、より大きな成果にアプローチできるという、チームで仕事をする面白さを実感しています。常日頃大切にしているのが、メンバーの個性や力を引き出し、それを一つの方向に導き、成果を出していくこと。私のチームには、年上や外国籍のメンバーもいるのですが、まず各人の経験や能力をリスペクトし、皆のモチベーションを上げるため、コミュニケーションを頻繁にとるようにしています。

通勤は車椅子仕様の自家用車で。家族キャンプでも、私が運転します

プライベートも充実させながら、もっと成長していきたい

プライベートでは、数年前から障がい者がメンバーにいる水泳チームに入り、週に2、3回練習したり、大会に出場したりしています。会社ではデスクワークが多く、運動不足になりがちなので、体力や健康維持のためにはじめました。また、私が取り組んでいるのはプールで泳ぐ競技ではなく、自然の海や湖などで行われるオープンウォータースイムという競技。自然のなかで泳ぐことで日々のストレスが発散され、とてもよいリフレッシュになっています。

これから仕事で挑戦してみたいことは、やはり海外赴任です。日本とはまったく違った環境で、自分がどこまでできるのか挑戦してみたいですね。特にアメリカは、インフラ面での整備が進んでいて、バリアフリーが当たり前の社会です。障がい者に対する意識も日本とはまったく違っていて、サポートが必要かどうか自然に話しかけてくれて、手伝ってくれます。車椅子ユーザーにとって暮らしやすそうで、赴任してみたい国の一つです。世界にはいろいろな人がいて、さまざまな価値観がある。それに触れることで、人間的にもっと成長していきたいと思います。