菅原 玲子
ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング株式会社 プロセス技術部門
家族の介護に奮闘しながら、エンジニア時代の技術と経験を生かし、エンジニアのサポート業務を行っている菅原玲子さん。
菅原さんのマネージャーの竹田雅晴さんを交え、毎日どのように介護と仕事を両立させているか、
また両立をうまく行うためのポイントについてお聞きしました。
菅原:私が家族の介護をするようになったのは、子どもが先天性の病気を患っていたことがきっかけでした。生まれてすぐ手術が必要な状態でしたが、すべて成功し、その後の成長は順調でした。育児休職期間内に復職でき、仕事が軌道に乗り始めた矢先、自宅が全焼。再び休職することを余儀なくされました。その後、生活を立て直し、なんとか復職できたものの、子どもの病気が再発。再び手術と介護が必要になったため介護休職を取得しました。その頃、持病があった義母に加え、心労から義父も体調を崩し、同時に3人の介護をすることに。さらに、子どもは医療行為を伴う介護が必要なため保育園に預けることができず、休職期間が終了しても復職できませんでした。病院の先生や看護師さんのご尽力のおかげで、やっと子どもを保育園で預かってもらえる体制が整い、会社が定める1日4時間の介護短時間勤務制度を利用して、ようやく復職することができました。
現在は、子どもも義父も通常の生活ができるレベルまで回復したため、義母の介護がメインです。日々の介護は朝昼晩30分から1時間程度、その他に1時間くらい処置が必要な日もあります。介護は命にかかわるということに加え、こちらの思い通りにならないことが私の精神的な負担になっています。特に、義母に注射を打つことが辛かったのですが、最近は夫が手伝ってくれるようになりました。通院も1カ所ではないので大変ですが、義父と夫と協力し合いながら行っています。何度も心が折れそうになった介護生活ですが、会社の制度や仲間の助けがあると、がんばれますね。
菅原:私は入社以来、半導体のウェットプロセス(液体の薬品で材料の洗浄などを行う工程)エンジニアとして働いてきましたが、家で同時に3人の介護をすることになったとき、仕事に十分な時間が割けなくなるから他の業務に変えてほしいと願い出て、現在の部署に異動させてもらいました。現在はエンジニア時代に得た知見と経験を生かし、複数のエンジニアのサポート業務や部門プロジェクト内の取りまとめなどを担当しています。基本的に個人で仕事をするエンジニアの仕事とは異なり、サポート業務は結果が数値で表れない分、臨機応変な対応が求められて大変ですが、やりがいも感じています。担当するエンジニアの業務がスムーズに進み、各担当者の技術課題が解決できたという話を聞くと、自分のことのようにうれしく思います。
竹田:菅原さんにはいわゆる製造プロセス開発のアシスタントではなく、品質管理や試作品の進捗管理などをエンジニアとともに行い、品質や作業効率を上げるための企画の立案・推進といった全エンジニアの仕事に関わり、良くしていく仕事を担ってもらっています。エンジニアの業務内容はもちろん、その気持ちがわかるということもあり、良きサポーターという印象。選手全員の心情を知り、選手と一緒になってトレーニングを考えたりするような、高校野球のチームでいえばマネージャーみたいな存在です。ご自身が、介護との両立で大変なのに、妥協することなくアウトプットを出してきてくれるのは、エンジニアとして培った仕事に対する責任感が表れているのだと思いますね。
菅原:介護と両立することになったとき、職場には、介護の悩みを話してはいけないという雰囲気がまったくなかったので、包み隠さず状況を説明して相談することができました。なんでも話せて親身になって相談にのってくれる同僚と上司がいる、恵まれた環境だったと思います。また、エンジニアの仕事から離れることになったときは、同僚や上司から「エンジニアの業務にいつでも戻ってきていいから」と温かい言葉をかけていただき、心が救われたのを覚えています。
竹田:現在の部署で菅原さんをマネジメントすることになったとき、フルタイムで働ける状況ではないものの、本当に業務量をセーブしてほしいと思っているのか最初は疑問でした。菅原さんは元々プロセスエンジニアなので、業務負荷を大きく減らすとモチベーションが下がってしまうだろうし、自分ができる限り会社に貢献したい気持ちは変わらないだろうと思いました。そこで、菅原さんの要望を深いところまで聞いて、意向をしっかりと把握した上で、仕事や責任の重さを考慮し、会社に貢献できる業務をアサインしました。
菅原:介護と両立するために、介護休職や1 日4時間の短時間勤務制度、ライフ休暇など、会社の使える制度はすべて利用しました。仕事をやめたくない一心で、すがるような思いで人事の方に相談し、使える制度を調べてもらいました。自分一人ではどうしていいかわからず、両立を断念していたかもしれません。育児介護在宅勤務と有給休暇の時間使用は、現在も利用しています。朝昼晩と介護が必要になるので、1日の時間をフレキシブルに使って仕事の合間を活用できる制度は、とても助かっています。
菅原:介護との両立で、職場や周りに協力してもらうために心がけていることは、依頼された仕事を誠実に行うこと。周囲からまず信頼してもらえるように、介護を理由に依頼をすぐに断ることはしないようにしています。どうしても無理な場合もありますが、一旦は受け入れて、できる方法を考えるようにしています。介護を完璧にやろうとしないことも大切。最初は理想を掲げて臨んでいましたが、苦しくなって家族にあたってしまうこともありました。今は、手を抜けるところは抜いて、自分でできることをしようと考えるようになり、気持ちが楽になりました。
家族の介護を続けていく上で、まず自分自身が心身ともに健康でいることが一番大切だと思っています。そのためには、まずストレスを溜めないこと。ショートステイや訪問看護などの介護サービスを利用して自分のための時間を作り、大好きなバスケットボールや魚釣りを子どもたちと一緒に楽しんで、ストレスを発散させています。
菅原:介護に関しては、さまざまなことが重なって過酷な時期もありましたが、仕事を辞めるという選択肢はありませんでした。子どもの介護費用や将来のためという経済的な理由もありますが、仕事を続けている一番の理由は、社会とのつながりを感じられる環境で、自分の存在意義を確認したいということです。介護は他者のために行うことなので、だんだん自己犠牲的な考えに陥ってしまい、「自分は何のために生きているのか?」と悩んだこともありました。自分の人生が自分のためにあることを実感できないと、介護生活は行き詰まってしまうと思います。私にとって仕事は、自分のための人生を実感できる大切な時間です。
また介護生活は、孤独になるとネガティブな考えから抜け出せなくなるものです。介護をしている多くの人が悩みをかかえていると思いますが、誰にも話さずにいるとマイナスなことしか考えられなくなります。私の場合は、なんでも話せる同僚と上司、医療関係者の方々に恵まれ、本当に幸せでした。また、介護をするようになって、同じ悩みを抱えている人に会う機会が不思議と増えた気がします。悩みを話すことで「自分は孤独ではない」と感じ、勇気や元気をもらえます。今、介護で悩んでいる方に伝えたいのは、「あなたは決して一人ではない」ということ。一人で悩まずに、まずは誰かに話してほしいです。