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UXリサーチで追求する、
製品とユーザーの「以心伝心」体験

ライアン・バーカタキ
株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント

グローバルな連携で、普遍的な人間中心の製品を追求する

ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)のグローバルチームの中で、日本を拠点とするUXリサーチャーを務めています。また、ソニーグループにおける人間中心設計(Human-Centered Design:HCD)専門家としても認定されており、SIEにおけるHCD活動をリードしています。
人間中心設計とは、その名の通り、人間を中心に置いて設計することです。製品開発において、UX(ユーザーエクスペリエンス)を重視し、デザイン性を追求するだけではなく、ユーザーがいかに心地よく操作できるか、使いやすくなるかにこだわります。
SIEにおける私の担当は、PlayStation®のプロダクト開発で、ワイヤレスコントローラーなども含まれます。HCDの観点から、PlayStation®のセットアップをいかにスムーズに行えるかなど、細かな調査を重ね、プロダクト開発に貢献してきました。
グローバルに連携しながら、ユーザー調査から試作まで幅広い役割を担い、ユーザーの声から得た情報を、製品に落とし込んでいきます。SIEの製品はグローバルに販売されていますので、文化や慣習の違いにかかわらず、普遍的な“人間中心”の製品とは何かを引き出すことを大切にしています。

大学院で「デザインの中心にいるのは自分ではなくユーザー」だと学んだ

UXリサーチャーとしてのキャリアの原点には、ロンドンの大学院で学んだ工業デザインと、ヒューマン・コンピューター・インタラクションがあります。
学生時代には、自分が手掛けた作品をほかの学生に見せ、フィードバックを得るプロセスが非常に重視されていました。そのおかげで、「自分をデザインの中心に置かず、使ってほしい人のためにデザインしなくてはいけない」と学びました。それは確実に、今につながっています。
大学院修了後は、ロンドンの複数のエージェンシーや、東京で医療や自動車関連分野でデザインの仕事を手掛け、2017年にSIEに入社しました。
ソニー製品に囲まれて育った私にとって、ソニーグループで働けるチャンスに巡り会えたことはとても幸運なことです。ウォークマン®、ディスクマン、PlayStation®、ヘッドホンなどのソニー製品に触れながら、優れた実用性とデザイン性を兼ね備えている点にいつも興味を引かれていました。また、SIE製品は、最先端ゲームを通じて世界中のユーザーに共通の体験を生み出しています。PlayStation®の話をすれば、多くの友人と同じ思い出を語り合うことができます。それだけ幅広い人の心と身体に影響を与えている製品はそうあるものではありません。
入社後、ターゲットユーザーの心に響く製品を生み出そうと同じ志を持ったメンバーに出会うことができました。それもまた、SIEで働く大きな価値になっています。

リサーチ手法にもHCDを適用させていく

子どもの遊びを支えるロボットトイ「toio™(トイオ)」の開発プロジェクトでは、HCDプロセスがいかに幅広く求められるかを実感しました。
特定のユーザー層を対象にした製品の開発では、そのユーザーにとって最適な方法でテストを行う必要があります。適切なフィードバックを得るためには、リサーチ自体の体験もHCDを適用して検討しなければいけないのです。
toio™のユーザーインタビューは4~5歳の子どもたちが対象です。そこで、彼らがのびのびと話ができるように、私たち大人は白衣を着て、まるで「おもちゃの発明家」のように見せることにしました。ソニーシティ1階のCreative Loungeに「発明家たちの研究所」のようなスペースを作り、おもちゃをたくさん買ってきてテーブルの上に並べたところ、子どもたちは夢中になって遊びながら、自然に感想を口にしていました。
SIEがいいなと思うのは、こんな突飛なユーザーインタビューのやり方を誰も否定せず、「面白いね!やってみよう」と背中を押してくれること。このリサーチプロセスを経たことが、toio™開発の成功の一因だったと思っています。
この仕事の面白さは、ユーザーの反応を直接知れるところです。ネットでのレビューを見るのも、家電量販店や東京ゲームショウなどリアルな場で、子どもたちがデモ機で遊んでいる姿を見るのもうれしいです。一方で、修正できる点をメモすることも忘れません。ポジティブなフィードバックだけではなく、ネガティブな意見にも耳を傾け、より良くするにはどうすればいいのかを追求し続けています。毎日がリサーチの連続ですね。

最高のUXづくりに向け、HCDの力は欠かせない

SIEの製品とサービス、その両方を生み出す上でHCDは欠かせません。ボタンの大きさ、形、質感、素材、仕上げなど、リサーチで指摘された要素は、すべてHCDのプロセスの中で検証されています。アメリカには、PlayStation®5のあらゆるサービスや機能を継続的に検証しているチームがあり、最高のプレイヤー体験を提供できるよう、日々改善点のフィードバックが上がってきます。
例えば、私がHCDプロセスを手掛けたDualSense Edge™ワイヤレスコントローラーでは、国内外のプロゲーマーへのインタビューを重ね、幅広いカスタマイズが可能なコントローラーを実現しました。これまでにない体験を提供するためにどんなアイデアを取り入れるべきか。プロダクトマネージャーの意見やユーザーインタビューの声から、最高のUXにつなげていくことがUXリサーチャーの役割だと考えています。
SIEでは、アイデアを提案し、試してみることが常に奨励されています。リサーチの成果を活かすためのアイデアを周りから否定されることはほぼありません。挑戦のチャンスが拓かれていることで、私自身、とても開放的に働くことができています。

「以心伝心」の概念を、UXリサーチを通じて製品に生かしていきたい

日本における「以心伝心」の概念がとても魅力的で、製品に反映させたいと思っています。以心伝心とは、人と人の間にある、言葉にならない流れや暗黙知のようなもの。人の動きや表情などのボディランゲージから手がかりをつかみ、物事を理解するということです。それを反映させた製品とは、ユーザーが触れるだけで、説明書がなくとも、その製品のすべての機能を理解し、まさにテレパシーのように暗黙知を持つことができるというものです。同時に私たちは、より良いサービスを提供するために、ユーザー自身から継続的に学び、その製品での全体的な体験を改善する必要があります。説明書も動画もなく、ただ手に取るだけで誰もが使える製品づくりは、私にとって最大の目標です。