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ビジネス、テクノロジー、クリエイティビティを融合させ、
人間中心設計の力を最大限に発揮したい

甲林 勇輝
ソニー株式会社

人間中心設計(HCD)の手法を用いてメンバーの認識をひとつにする

私はソニーグループ全社の人間中心設計(Human-Centered Design : HCD)を推進する組織に所属し、テレビのUI/UXデザインを担当しています。また同時に、HCDに関する知識やノウハウをチーム内に導入する取り組みも行っています。HCDに基づいて開発を行うには、メンバー全員がプロダクトの目標をしっかりと理解することが重要です。そこで、HCDの手法を用いながらプロダクトが目指すべきビジョンを策定し、チーム内の認識を合わせていく活動をしています。また、目標をしっかりと顧客価値と結び付けられるように、KPIを設計する取り組みも行っています。

  • UI:ユーザーインターフェース、UX:ユーザーエクスペリエンス

人に近づき、深く理解することの大切さと楽しさを知る

大学では経営、工学、デザインの3分野からモノづくりについて学びました。授業で企業とコラボレーションすることが多く、提示された課題に対してユーザーリサーチ、課題発見、プロダクト等の発案、デザイン、販売計画、プロモーション計画、収支計算まで、ビジネス(B)、テクノロジー(T)、クリエイティビティ(C)の3要素(BTC)の観点から検討するという実践的なものでした。授業を通して気付いたのは、チームメンバーとの議論のみではユーザーを理解した気になるだけで、実際の顧客価値や行動とは、ずれが生じてしまうということ。ユーザーに会って対話や観察を重ねると、プロダクトの価値やヒントになる新しい発見がありました。その瞬間はダイヤの原石を見つけるようなワクワク感があり、「人に近づき、ユーザーを深く理解すること」の大切さと楽しさを知りました。
就職活動では、ユーザーを深く理解しながらモノづくりに携われる会社を中心にアプローチ。UXデザインを得意としているイメージがあったソニーのインターンシップに参加しました。実際に社員が働く様子を見ていると、ユーザーの声を深く理解することを大切にしていることがよくわかりました。また、HCD専門の部署があったことは自分にとって大きな魅力だったので、ソニーに入社したいと思うようになりました。

学生時代にバックパッカーをしていたとき、さまざまな国で日本製品が使われているのを見て、世界にブランドを発信できる日本企業で働きたいと思いました。海外でも愛されるソニーは魅力的で、入社したいと思った理由の一つです。

100人以上の声を聞き、リサーチのスキルと自信を得る

これまでのHCDの取り組みの中で一番印象に残っていることは、入社2年目に年間21件のUXリサーチおよび100人以上のインタビューを実施したことです。学生時代からリサーチは行ってきましたが、企業で行うリサーチは関係者の数が圧倒的に多く、全員が納得できるリサーチを行い、プロダクト開発に生かせる結果をまとめるためには、自分にはまだ実務での経験が足りないと感じていました。そうした悩みを上司に相談したところ、経験を積む機会を与えてもらいました。まさにリサーチの千本ノックでしたが、チームやプロダクトの状況に合わせた結果のまとめ方を学ぶことができました。また、この経験で学んだことは、テレビの開発チーム内でHCDを推進する活動にも役立っています。
特に印象に残っているのは、あるインタビューを見学に来ていた経験豊富なベテランの企画担当者から「我々の知りたいことをうまく引き出してくれていたので、安心して聞くことができました」というコメントをもらったことです。また、調査の依頼者からは「よくまとまったレポートで、すぐに次のアクションにつなげることができました」というコメントをいただきました。リサーチに対するスキルと自信がついたと思える出来事でした。

人間中心設計(HCD)はユーザー中心のモノづくりを進めていくための「共通言語」

私は、チームメンバー全員でユーザー中心のモノづくりを進めることが、製品・サービス開発のあるべき姿だと考えています。チームには、エンジニアやデザイナーなど、さまざまな立場の人がいます。HCDは、立場が違う人たち同士がユーザー中心のモノづくりを進めていくための「共通言語」であり、最大の武器だと思っています。全員がユーザーを中心に考えてモノづくりに取り組むにはどうすればよいのかを常に意識しながら日々の業務に取り組んでいます。
また、職種によって思考特性が異なるので、それぞれに合わせてHCDを推進することも大切にしています。例えば、一般的にエンジニアにはソリューションを考える傾向があると思うのですが、「ソリューションを考えることは顧客価値ではない」と否定してしまう時期がありました。しかし、エンジニアのそういった特性を、顧客価値について考えるきっかけにしてもらうのが良いのではないかと考えるようになりました。今はソリューションを考えることを否定するのではなく、「その課題が実現することで、ユーザーにはどういったうれしさがあるのか?」といった対話をしながら、一緒にユーザー視点で考えられるよう心がけています。

「人に近づく」ために人間中心設計(HCD)の大切さを伝えていきたい

モノづくりの上流でHCDの力を発揮できるようにしたいと考えています。「どうすればユーザーにとって使いやすくなるのか」という観点に加えて、「誰にどういった価値を届け、ビジネスとつなげていくのか」という問いについて、もっと考えていく必要があると感じています。
その部分こそがHCDの力を最大限に発揮できる領域であり、ビジネス、テクノロジー、クリエイティビティ(BTC)の3分野とHCDをつなぐスキルが必要です。大学時代に得た知識と経験を生かし、3分野とHCDを融合することを自分の得意領域にして、ユーザー中心のモノづくりをさらに推進していきたいと思っています。
また、ソニーグループでは、「人に近づく」ことを経営方針としています。個人的に、「人に近づく」には、お客様の視点に立って考えるというHCDの取り組みが大きな力になるのではないかと考えています。まずは自分ができる範囲から、一人でも多くの人にソニーファンになっていただけるように取り組んでいきたいです。そして、そのために社内の誰もがHCDという武器を使ってユーザー中心のモノづくりを進められるように、HCDを伝えていくことにも注力していきたいと思います。