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「技術情報の発信」が実現する
人や企業、研究分野の成長

2024年3月4日

AIに関するスペシャリストであり、これまでも技術情報の発信を社内外問わず行ってきた小林由幸。取り組みがきっかけとなり、2023年2月にはソニーグループのエンジニアがさまざまなテクノロジー領域について発信する学びの場「Sony’s Tech Academy Channel」(以下、STAC)がスタートしました。
STACの取り組みや、エンジニア自らが情報発信する意義、今後の展望を聞きました。

  • 小林 由幸

    ソニーグループ株式会社
    Distinguished Engineer

情報を届けることには“価値”がある

──小林さんは社内外・公私問わずさまざまな技術情報の発信をしていますが、きっかけとなった出来事はありますか?

高校時代、自作のプログラムを当時のコンピューター雑誌に投稿したのですが、その時にポストからあふれるほど大量の手紙が日本中から届き、驚きました。この体験を通じ、個人レベルでも情報を広く届けることによって、新しい価値を生み出せると感じました。ソニー入社後もその考えは変わっていません。

さらに、インターネットの普及で、誰でもいつでもそれが可能になりました。また、動画配信の選択肢も生まれ、プラットフォームも「一部の人が完成したコンテンツをアップする場」から「誰もが日常的かつカジュアルにコミュニケーションのために使う場」に進化しています。私は、YouTubeが世の中で使われ始めた当時、自作のソフトのデモの公開に活用していましたが、いまや、企業の研究開発においても動画による発信は欠かせないツールだと感じています。

──これまでどのような動画コンテンツの発信に取り組んできたのでしょうか。

2017年に研究開発者個人の立場からも技術情報の発信を行う「Neural Network Consoleチャンネル」を立ち上げました。その後、2021年にはソニーのディープラーニングのライブラリー開発メンバーによる「nnabla(ナブラ) ディープラーニングチャンネル」も始まりました。企業としての情報発信は、様々なステークホルダーを考慮する必要がありますが、現在もこの2つのチャンネルは、社内外から実際にエンジニアのレベルアップに活用いただいているという実施効果やポジティブな反響をいただいています。

──2023年に始まった「Sony’s Tech Academy Channel(STAC)」について詳しく教えてください。

こうした活動が後押しとなり、2023年にスタートした動画シリーズが「STAC」です。STACは、さまざまなテクノロジー領域の学びの入り口として、その分野のプロフェッショナルであるソニーのエンジニアが教育コンテンツを発信しています。会社としても新しい取り組みのため、まずは大学や社内研修での講義内容をもとにした企画を始めるのが最適だと判断しました。どのコンテンツも基礎的な情報をベースにしており、有識者にとっては「当たり前」の情報です。例えば、私の担当するAI分野は、インターネットやコンピューターと同じく誰もが活用できる時代が目前に迫った、まさに過渡期にあります。非常に多くの方がAIに興味を持っていることから、大学生が理解できるくらいの難易度で、できる限り幅広い層に情報を届けることを意識しています。

誰もが気軽に投稿できる情報過多の時代だからこそ、分野を知り尽くす専門家ならではの分かりやすい解説を、専門家の目線を交えながら届けること。これには大きな意味があると感じています。

視聴者・エンジニア・企業の「三方良し」に

──「STAC」をはじめ、技術情報を発信するメリットは一体何でしょう?

「視聴者」「エンジニア」「企業」それぞれにメリットがあると考えています。
まず視聴者のメリットとしては、自分の勉強教材として活用できる点が挙げられます。実は私も「STAC」を重宝している一人です。コンテンツを通して自身の専門ではない領域を学び知識を広げることが、「その分野×AI」というコラボレーションの検討、新しい価値創出の可能性につながっています。チームで動画を共有し技術に関する理解を深めたという話も耳にしました。他にも、就職活動中の学生にとっては、情報や知識だけでなくソニーで働く人々を知るきっかけにもなると思います。発信された技術情報の使い方や活かし方は、無限です。

次にエンジニアのメリットです。例えば、大学講義や対面のセミナーなどの場合、一度にアプローチできるのは、多くて100〜200名くらいです。それに対して、インターネットや動画プラットフォームを使った発信は、一つのコンテンツで最終的に数千人あるいはそれ以上に情報を届けることができます。“1人”対“複数人”、“1度”対“複数回”で発信が可能となり、効率的な技術教育の拡散ができるのです。

動画のように繰り返し見ていただける形で、自らの声で発信することは、自身の研究者としての考えや実績を世に届ける手段として有効だと感じています。私自身、動画での発信を重ねてきたことで、事前に自分のパーソナリティや専門性を知っていただき、社内外でのコミュニケーションを円滑に進められることがあります。こちらからアプローチせずとも声をかけていただいたりすると、やはり嬉しいと感じます。

最後に、企業側においては、自社や技術を活用した自社のサービスについて、より幅広い方々へ知っていただく機会になります。過去には、ソニーで展開している「Neural Network Console」について、YouTubeの動画をきっかけにサービスへ興味を持ったとの声もいただきました。また、現在ソニーグループには約11万人の社員がいますが、世界人口は約80億人。自社だけに閉じず世界中の専門家とつながり、仲間を集め、技術開発を加速することが、企業の成長にもつながると信じています。

このように、技術情報の発信は“三方良し”な取り組みだと思うので、世の中でも同様の取り組みが広がっていくと嬉しいです。

自分の人生が変わるような発見の場に

──「STAC」の今後の展望をお聞かせください。

継続的にさまざまな分野の動画を発信しながら、より専門的かつ最先端な動画もお届けできればと思っています。また、動画は「企業やエンジニア」から「視聴者」へのコミュニケーションの一つ。もう少し出演するエンジニアの個性がにじむようになると、より会社の雰囲気も伝わると思います。そして、技術情報を発信するメリットをエンジニアの皆さんが享受できる仕組みを整えることで、さらに多くの場面で大きな価値が生み出すことを目指していきたいと思います。

──学習者に向けたメッセージをお願いします。

「STAC」の一番の魅力は、ソニーの技術のスペシャリストたちの話を、時間や回数を気にせず気軽に聞けること。世の中で注目度の高い技術を学ぶ第一歩として、また自分の興味のある分野を見つけ可能性や視野を広げるツールとしても活用いただきたいです。「STAC」で自分の人生を変えるような発見が見つかることを祈っています。また、「何を学ぶべきか」悩んでいる学生に向けては、ひとまず僅かでも興味関心のあるところから始めてほしいということを伝えたいです。いずれ「もっと深く知りたい、他にも知りたい」と感じる瞬間が訪れるはずです。そして、そんな時に、専門家の分かりやすい解説と正しい情報に出会える、皆さんの「知りたい」に応えられる場へと、「STAC」を育てていきたいと思います。

※YouTube “Sony - Technology”へ移動します。

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