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ソニーのセンシング技術で未来の農業を創造する

「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」というパーパス(存在意義)のもと、ソニーの多様な社員が取り組む活動を「共創」の視点から紹介する対談シリーズ『SESSIONS』。

ソニーのクリエイティビティとテクノロジーをビジネスパートナーやクリエイターの取り組みと掛け合わせることで、どのような「共創」が生まれ、そこからどのような感動が広がっているのか。プロジェクトのリアルなシーンをソニーの担当者とパートナーとの対談を通して、シリーズでお伝えします。

今回は、2020年にスタートした北海道大学とソニーとの共同研究プロジェクトを取り上げます。北海道大学で環境生命地球化学を専門に研究に取り組まれている内田義崇准教授とソニーの環境再生型農業の実現に向けた取り組みとは。センシング技術やビッグデータ解析などテクノロジーを用いた、ソニーの「地球みまもりプラットフォーム(*1)」を活用して目指す持続可能な未来とは。

  • *1 ソニーの地球みまもりプラットフォームとは社内のプロジェクトで利用している呼称です。

【内田准教授が取り組む持続的な環境再生型農業】

近代農業には、窒素・炭素循環を大きく改変し、地球環境に影響を及ぼしてしまうという課題があります。この課題に対し、土壌・大気・水域における複雑な栄養素の循環をセンシング技術と予兆分析により効率よく捉え、環境負荷が小さく生態系の機能を最大限活用した、持続的な環境再生型農業の実現に向けた取り組みを、北海道内の牧場と連携して進めています。(北海道大学HPより)

【ソニーの地球みまもりプラットフォーム】

地球上のあらゆる場所をセンシング可能にする仕組みの実現です。異変の予兆を捉え、人々が知ることで、サステナビリティに繋がる行動を人々に促します。そうすることで、持続可能な未来を考え、具体的なアクションをとるための原動力にしたいと考えています。このコンセプトを「MIMAMORI」と呼んでいます。ソニーの「地球みまもりプラットフォーム」のカギとなる技術は、変化をとらえるセンシングと超低消費電力のエッジAI、変化を伝える超広域センシングネットワーク、変化を理解する予兆分析です。美しい地球を守るために、災害や環境破壊を未然に防ぐ、ソニーの技術を生かした持続可能な未来に向けたプロジェクトです。(※ソニーHPよりまとめ)

【地球見守りプラットフォーム構築を担当】
堀井昭浩(ほりいあきひろ)
ソニーグループ株式会社/R&Dセンター Tokyo Laboratory 14

【共創パートナー】
内田義崇(うちだよしたか)先生
北海道大学大学院農学研究院 准教授 環境生命地球化学専門

ソニーと北海道大学で地球環境の課題解決に取り組む

環境再生型農業について

——まず最初に、なぜ内田さんが「環境再生型農業」に取り組まれている背景について教えていただきました。

内田義崇(以下、内田):「私は、次世代のための農業を考えることがすごく重要だと思っています。私たちの次の世代が生まれたとき、例えばその頃には石油がなくなるのではないか。きれいな水がなくなり、おいしい食べ物が昔のように生産できなくなってしまうのではないかということを考えています。「環境再生型農業」というのは、近年いろんなところで出てきた言葉なのですが、いままでのいわゆる“普通の農業”は、石油燃料を広く使いながら食料を生産するというもので、資源を枯渇させてしまうんですね。そういったことに大きく依存した農業から何とか脱却し、次の世代が私たちと同じようにおいしい物を食べられるようにしたい。そういった思いで取り組んでいます」

ソニーの「地球みまもりプラットフォーム」で地球の様子を察知

——農業といった、ソニーにとって馴染みの薄い一次産業分野で今回の北海道大学との共同研究という共創に至った背景には、ソニーが持つ最先端技術を生かして、自然災害や環境破壊を未然に防ぐ、持続可能な未来に向けた取り組みであるソニーの「地球みまもりプラットフォーム」の存在がありました。

堀井(ソニー)

堀井昭浩(以下、堀井):「ソニーの『地球みまもりプラットフォーム』というのは、グローバルに世界中にセンサーを配置し、そのセンサーのデータを集めて分析し、予兆を感じ取ります。(分析したデータを)人々にフィードバックすることで、次の世代にこの地球環境を残すために、さまざまな使い方と、そこで活用を考えるというようなプラットフォームの開発を担当しています」

持続可能な社会の実現と地域コミュニティの共栄

——環境再生型農業はどうすればいいのか、課題を解決するためにソニーの先端技術をどのように活用するのでしょうか。

左:内田さん(北海道大学大学院農学研究院)
右:堀井(ソニー)

内田:環境再生型農業のコンセプトはいろいろあるのですが、その一つに「ソイルヘルス(soil health)」という言葉がありまして、土壌が健康であればそこに暮らす人々も健康であるし、食糧生産というのも安定するだろう、という概念です。その概念に基づいた農業が北海道、日本でどこまで実現可能なのか、どう進めたらいいのだろうか、それが私の今やっている研究です」

堀井:「ソニーは長らくCMOSイメージセンサー(*1)、いわゆるセンサー技術を開発してきました。そして長距離通信技術、そしてAIを使った分析技術、を組み合わせることで、土壌がどのように環境に最適化されているか、そういったものがセンシングできるならば、その状態を定量化し、そのデータを農家さんに見せることで、じゃあ次はどういうことをしたらいいのかと、その行動変容を促すということが可能になると思っています。私たちは農業の専門家ではなくて、そういう技術を開発する会社です。だから、先生のようなアカデミアのご専門の方々、農家さんと一緒に協業させていただいて、このセンシング技術、通信技術、分析をどう活かすことができるかを更に深めていくことが研究のテーマです。これはコラボレーションによってこれからますます生まれていくと思います」

  • *1 光を電気信号に変換する半導体。人間の眼の「網膜」の役割を担い"電子の眼"と言われる。
    スマートフォンや車などの多くの機器に用いられ、撮像した画像を見るためのイメージングに加え、さまざまな情報を取得・活用するセンシング用途の可能性が広がる。

——土壌が健康であることが我々の生活にどのような影響を与えるのか、内田先生に尋ねてみました。

内田さん(北海道大学大学院農学研究院)

内田:「例えば食糧は土で育ちますが、その食糧には土から吸収されたいろいろな栄養素が含まれています。その栄養素を体に取り入れて僕らは健康になる。それから、我々の肌や腸内には微生物が棲んでいますが、それらの微生物は私たちが住んでいる土壌を含む外の環境からもともと入ってきたものなんですね。土の中に我々の健康を助けるような微生物がいなければ、我々自身も健康になれない訳です。いわゆる『肥料をまかないと食糧が育たない土』というのは、薬がないと生きていけないような状態とも言えるので、植物が自身の力できちんと根を張る、もしくはその植物と土の中に住んでいる生き物が連携しながら自分たちで栄養素を吸い上げる。健全な土壌であればそれができるのです」

通信システムに"ELTRES™(エルトレス)"を用いた情報収集の可能性

——環境再生型農業の実現にあたり、データを取得する通信手段で活用が見込まれるソニーのIoTネットワークサービス「ELTRES™(エルトレス)」。データモニタリングによる生産活動の最適化や農業・畜産分野での業務の省力化、品質向上、全てのモノがつながるIoTプラットフォームとして課題解決への貢献が期待されているサービスについて話を伺いました。

堀井:「ELTRES™(エルトレス)という技術は、送れるデータ量は少ないのですが、低消費電力で長距離でも伝達できることが特徴になっています。私たち地球環境で考えますと、『電源インフラがない』『通信インフラがない』ところに様々なセンサーを設置して、地上において人力ではカバーできないエリアを衛星でカバーすることによって、様々なところからのセンサーデータをひとつに集めることができる。それを分析して皆さんにフィードバックするということが可能になるのではないか、そういうふうに考えています」

内田:「農家さんに負担をかけないでいろんなデータが取れるセンシング技術を活用することで、農家さんがいろんなことを勉強したり考えたりする機会を与えたいと考えています。食糧生産はそれほど危機的状況にあります。みんながもっと考えるきっかけとなるようなプラットフォーム、何かそのようなものに発展していくような気がしています。すごく期待しているところですね」

堀井:「いままでの勘と経験、そういった農業から、データに基づいて、「では何をすべきなのか」ということを自身で考えていこうと。つまり、人々の行動変容を促すプラットフォームを構築してみたらどうかっていうアドバイスだと思います。まさに我々が今目指しているのは、そのデータを見ることで、簡単に分かりますということだけではなく、その人自身が考え、その人自身が次に何をやるべきかを考え導き出すそれがこのプラットフォームであるべき姿だと思います」

共に研究開発を進めることの意義

——ソニーが内田先生や北海道大学と一緒に研究開発を進めることの意義について二人はどう考えられているのでしょうか。

堀井:「内田先生と共同研究をするということは、単に農業をICT(情報通信技術)化するだけではないんですね。ICT(情報通信技術)化して、さらに究極のゴールとして『環境再生農業というものに繋げる』と。つまり“環境を再生することが目的”です。環境再生しないことには、将来のソニーグループが提供するエンタテインメントも成り立たないわけですね。先生に期待するのは、その環境を再生するためにどういうものをセンシングして、どういうものを分析すれば、そのきっかけになるのだろう?というところを、物質循環学をやられている先生だからこそ見える視点があると思います。その物質を我々のセンサーを通して定量化すると、そこに期待をしています」

あなたにとって"共創"とは?

——最後に2人にとって"共創"とは何か?教えて頂きました。

内田:「お互いのことを知り合うことで、いろんなものを多面的に見られるようになるっていうことが非常に大事かなと思っています。」

堀井:「私が思う共創っていうのは共生そのものなんですね。先生といろいろな話をするなかで、微生物と植物がどういうふうに共生しているのか。養分をあげて、そして物質をまた戻していただく。そういう共生で、この世の中、地球環境が成り立っていると知りました。私たちはいろんな研究や、技術開発を通して得た知見を、どう環境のために生かしていくかというのが共創になります。いろんな視点を持った人が集まり、人間が集まって、エンジニアが集まって、先生方と一緒に地球環境をどうつくっていくのかと、どう戻していくのかということを考えることが、共生であり、共創であるというふうに思っています」