「10年先の世界観を示し、ともに創りたい」 十時社長が語る「Creative Entertainment Vision」
5月中旬に開催されたソニーグループの経営方針説明会では、10年後のソニーのありたい姿を描いた長期ビジョン「Creative Entertainment Vision」が発表されました。その狙いと今後の期待について、社長 COO 兼 CFOの十時 裕樹が社内向けトークライブ番組「T time」で語りました。社内で配信されたプログラムの内容をダイジェストでお届けします。
出演:十時 裕樹 ソニーグループ(株)社長 COO 兼 CFO
司会:沼田 嶺一、春名 薫 ソニーグループ(株)広報部
一番意識したのは10年の時間軸
沼田:Creative Entertainment Visionをなぜ策定しようと考えたのか、その狙いをご説明いただけるでしょうか?
十時:今回10年という時間軸を置いて、「こういった世界観を作り上げたらどうか」というものを議論して、映像にまとめることにチャレンジしました。グループ各社の若手の社員を中心に、2年くらい時間をかけて議論を進め、その過程では、Corporate Distinguished Engineer(DE)※の方と「10年ぐらい先のテクノロジーとして、どういうものが使えるようになるか」といったロードマップの議論もしました。具体的なビジョンを掲げると好奇心や想像力が刺激され、それによって自分の考えがまとまったり、こういうことをやってみたらどうかというアイデアが生まれると思うんですよね。そういう触媒になればと思いました。
沼田: 社員からは、Purpose (存在意義) 「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」とCreative Entertainment Visionはどのような関係性かという質問が寄せられています。Creative Entertainment Visionの位置づけはどのようなものですか?
十時:Purposeは時間の制約を設けない羅針盤のようなもので、永続的なものだと捉えています。そのPurposeのもとで、10年という時間を区切ってどういう世界観に到達したいかというのを示したかった、という背景があります。今回の経営方針説明会では、このビジョンを示して、足元でこれに向かってどういうことをやっているかを説明する構成にしました。今回一番意識したのは時間軸です。
※ソニーは、変化の兆しを捉え、ソニーの持続的な成長のために、技術戦略の策定及び推進と 人材の成長支援を行う技術者を「Corporate Distinguished Engineer」として認定しています。
多様な事業から生まれる新しいコンテンツが可能性を広げる
春名:Creative Entertainment Visionでは、世代を超えて無限に続く感動を生み出すIPの創出、育成、拡大と深化について、「Creativity Unleashed(IPの創出を示し、世界中のクリエイターの創造性を解き放つこと)」「Boundaries Transcended(IPの育成を示し、多様な人々や価値観をつなげ、コミュニティを育むこと)」「Narratives Everywhere(IPの拡大と深化を示し、一例としてロケーションベースエンターテイメントというようなワクワクするストーリー性のある体験を世界中に広げること)」という三つの言葉で表現されており、ウェブサイトでその内容が詳しく説明されています。
十時:インターネットの普及や配信技術のコモディティ化により、新しいクリエイティブやコンテンツに触れる機会が増えて、共感を得たものが流行っていくという現象が起きています。だからこそ、我々はもっとクリエイターの感性を解き放ち、もっと届けやすくする方法を考えなければなりません。また、私たちはゲームや音楽、映画、アニメという多様な事業を持っており、世界中を見ても稀な企業だと思います。この力をシナジーとして組み合わせ、新しい形のコンテンツを生み出せるようになると、企業としての可能性を高めると思います。
沼田:ゲームIPの映画化が行われ、これまでの領域にとらわれないコンテンツのシナジーが生まれています。
十時:会社としてのリーダーシップとプロジェクトは重要です。一方で、社員が自ら事業機会を見いだし、グループの社員とつながり、新しいプロジェクトをボトムアップでたくさん生み出していくというのが、理想的な姿だと思います。というのも、ビジネス的に考えると、ボトムアップでいろいろなものが作られるというのは真似しづらく、それが他社にとって参入障壁になる可能性があります。投資額の多い少ないで結果が決まるビジネスもありますが、それだけでない世界を作れると我々の可能性が広がると思います。
AIで重要なのは「どうやって使うか」
沼田:エンタテインメント事業では、特にAIの役割について関心の高い社員も多いと思います。
十時:AIのトレンドについては、学習のフェーズから推論のフェーズに移り、どう使うかが重要なフェーズになっていると認識しています。どうやって使うかというのは極めて重要なテーマです。著作権の侵害の問題もあるので、毅然とした態度でルールを守ってもらう必要はあります。どう使って、どういう風に役立てていくかというのもクリエイティビティです。だから、我々は想像力を発揮して、どう使うと、我々の顧客や潜在的なユーザーに対して感動が届きやすくなるかを考えていけるとよいと思います。
半導体技術抜きには語れない世界観
沼田:半導体技術がどのようにCreative Entertainment Visionの世界観と関わってくるのか、といった声も寄せられていますが、どう考えればいいでしょうか?
十時:Creative Entertainment Visionは半導体技術を抜きには語れない世界観です。VRもソニー・インタラクティブエンタテインメントはPlayStation®VRを出していますし、世の中にはARグラスについても様々な議論があり、コンセプト自体はすごく昔からあります。ただ、普通の人がちゃんと手に入るような値段で、体験がすごく楽しいっていうものじゃないといけないので、ビジョンを失わないで続けていくことが大事だと思います。センサーとセンシングの融合したようなテクノロジーで、新しい世界観を見せていくことができたら、一番いいんじゃないかと思います。
パッションを持ちバウンダリースパナーとしてチャレンジして欲しい
春名:グループ内の各事業会社が異なる目的を持ちながらもコラボレーションを実現するには、何が必要かという質問も寄せられています。
十時:それぞれの事業が継続的に進化して、チャーミングであり続けてくれることが大事だと思います。事業が魅力的じゃないと、人は近づいてこないと思うので。更に、グループとして持っているものに機会を見いだして、新しいビジネスを立ち上げるとか、新しいコンテンツを作り出すということに、パッションを持って欲しいと思います。新しいことはなかなか続かないので、「バウンダリースパナー(異なる組織の間のコミュニケーションや協力を促進する個人)」には熱量が求められますが、そういうパッションを持ち続けて成し遂げたことへの満足感は高いと思います。ぜひ皆さんにもそうしたチャレンジをしてほしいと思っていますし、それに対しての支援は惜しみません。ぜひ頑張ってくださいと伝えたいです。