『Sony Design:
MAKING MODERN』
出版記念トークショー
『Sony Design:MAKING MODERN』の出版記念イベントとして、東京・銀座ソニービルにて展示会を開催。このイベントに先駆け、2015年4月28日にトークショーを行いました。ゲストにはデザインスタジオOEO のクリエイティブディレクター Thomas Lykke氏、ナビゲーターにはTRI+の取締役である関 康子氏をお招きし、ソニーデザインを統括する長谷川 豊とソニーデザインのスピリットやプロダクトの魅力について語っていただきました。そのトークショーの模様をダイジェストでお届けします。
コペンハーゲン、サンフランシスコにてファッション・デザイナーとして務めた後、デザイン業界に転身。15年以上にわたり、世界のトップ企業を担当。OEO Studioを共同設立し、クリエイティブディレクターに就任する傍ら、現在もデザインワークのプレゼンテーターとして、常にフロントに立つ。
デザインエディター。デザイン誌『AXIS』編集長を経て、フリーランスのエディターとして活動。2001年、TRI+(トライプラス)を共同設立。子どもの「遊び、学び、デザイン」のための商品開発、展覧会・出版、ワークショップなどの企画制作にもあたる。女子美術大学非常勤講師。
センター長
ソニー株式会社入社後、1994年に米国に赴任、サンフランシスコデザインセンターの立ち上げに携わる。1999年に帰国後、R&Dデザインをはじめ、プロダクト、コミュニケーション、ユーザーインターフェースデザインなど幅広い経験を経て2014年より クリエイティブセンターのセンター長を務める。
ソニーが大切にしてきたのは、
体験の原型をつくること
関:本日のトークショーでは、長谷川さんとトーマスさんに選んでもらった一番好きなソニー商品のお話を伺いながら、ソニーデザインのスピリットやプロダクトの魅力に迫りたいと思います。
長谷川:私が選んだのは、父親に買ってもらったICF-5800、通称「スカイセンサー」という商品です。このプロダクトは、国内外の短波放送が聞ける「BCL(Broadcasting Listening)」という新しい体験を一般ユーザーにも楽しんでもらえるようにしたものです。プロフェッショナリズムをいかに一般ユーザーに伝えるか、ということが徹底して考えられていて、プロダクトの隅々まで触り心地や使い勝手がデザインされています。
取扱説明書もコックピットをイメージして制作されていて、新しいユーザーエクスペリエンス(UX)を体感させるような世界観をつくっています。こうしたデザインの考えかたは、今のソニーにもしっかり受け継がれていて、新しいプロダクトの原型をつくるなかに、モノだけではない体験の原型をつくることをとても大切にしています。
関:スカイセンサーなどのアナログな時代からデジタルの時代へと体験の意味も大きく変わってきたと思いますが、ソニーは一貫してUXをどういう形で表現しているのでしょうか。
長谷川:ソニーでは新たな体験をつくるために、ユーザーと密接につながり、その心に響くようにデザインしています。たとえばプレミアムなサウンドを聴いてもらうためのプロダクトと、テニスセンサーのようなスポーツを楽しんでもらうためのプロダクトでは全く異なります。同じように、すべてのプロダクトを共通のデザイン言語でつくるのではなく、それぞれの時代においてユーザーを深く知ることによって生まれてくるプロダクトの形を追求すべきだと考えています。
関:それぞれの時代で常にユーザーニーズに寄り添いながらデザインするということですね。
長谷川:はい。過去の形にとらわれず、常にユーザーに響く新しい体験を提供していきたいと思います。
まるでひとりの人間であるかのように、
プロダクトに魂を感じる
関:では、トーマスさんが選ぶ一番のソニー商品は何でしょうか。
トーマス:ひとつに絞るのは非常に難しかったのですが、あえて選ぶとしたら12才の頃に買ったスポーツウォークマン®です。このプロダクトを手にしたとき、外にいても、移動していても、遊んでいても音楽を体験でき、まさに表現の自由を体現していると感じました。
関:私もウォークマンは自分の青春と重なっていて、このデザインを見ると、当時の体験とリンクして、そのときの感動や喜びなど、人生を走馬灯のように思い出します。ソニーデザインがプロダクトの形だけでなく、体験をデザインすることを求めてきた結果ではないかと思います。
展示会場には他のさまざまなソニー商品が並べられていますが、トーマスさんはソニーデザインの魅力はどこにあると思われますか。
トーマス:どのソニー商品を見ても、そこにソニーらしいキャラクターがあって、まるでひとりの人間であるかのように、プロダクトに魂が宿っていると感じます。テクノロジーとプロダクトがユーザーに響くかたちで融合しながら、そこに人間味を残している。それがソニーデザインの魅力ではないかと思います。
ソニーは新しいプロダクトにおける
タイポロジーの発信地
関:今回の展示を見て、ソニーは現代のデザインにつながる試みをしてきていると改めて感じました。たとえば、子ども向けオーディオ機器の「My First Sony」は80年代後半だと思いますが、まだ世の中が子どもに目を向けていなかったときに、こうした子ども向けのプロダクトをつくっている。一世を風靡した「AIBO」などでも実験的な試みをしていて、このやんちゃ性がソニーの魅力ではないでしょうか。
長谷川:そうですね。成功も失敗もいろいろありますが、ソニーは常に新しい原型をつくってきたと自負しています。そうして学んできたことが今のプロダクトと融合していますし、またそれが何らかの形で、いま世の中にあるデザインにも影響を与えているのではないでしょうか。
トーマス:ソニーというのは常に新しいプロダクトにおけるタイポロジーの発信地であり続けていると思います。今回、この書籍によって、ソニーデザインの歴史を見つめ直すことが、さらなる未来への進化につながると思います。
長谷川:この書籍の出版は、過去から現在、そしてこれから私たちがどのように進化していくべきか、私たちのデザインプロミスは何なのかを改めて考えるきっかけにもなっています。
関:そういう意味で、ソニーのプロダクトを俯瞰して見られる書籍ができたことは、大きな意味があるのではないでしょうか。
ソニーデザインをあらためて定義し、
新しい体験を発信していきたい
長谷川:今回、ソニーデザインとは何かを再定義し、それを『Bold Typologies』というキーワードで映像にまとめました。これをスタートラインとして、単にプロダクトをつくるだけでなく、実験的な試みにもチャレンジしながら、新しいユーザー体験を世の中に発信していきたいと思っています。
トークショーの最後に
関:最後になりますが、長谷川さんとトーマスさんからひとこと。
長谷川:ここに並べられた実際のプロダクトと写真の一枚一枚に、私たちの意志が込められています。展示会場にぜひ足を運んでいただき、ソニーデザインの進化を感じていただければと思います。
トーマス:これからはテクノロジーでの差別化が難しく、デザインによってユーザーとどこまで密接につながれるかが勝負になってくると思います。もしデザイナーとしてソニーと一緒に何かできるとしたら、素材や技法など何百年も受け継がれてきた日本ならではの伝統と、ソニーが培ってきたテクノロジーを上手く融合したデザインに挑戦したいですね。
関:ありがとうございます。ソニーは来年創業70周年を迎えます。この展示を見て、戦後の混乱からこれだけのプロダクトを作ってきたことに感動しました。まさに“夢見る工場”ですね。これから先もユーザーを驚かすプロダクトやサービスをつくり続けて欲しいと思います。