Cutting Edge

ハプティクス

五感の一つ、「触覚」を刺激する技術 —ハプティクスでの挑戦

2020年12月2日

現実世界を超越した感動体験を

ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は、人が物に触れた感覚をデジタルで再現し、実際は触っていなくてもまるで触っているかのように感じさせるハプティクス技術をプレイステーション®5(PS5™)用コントローラーDualSense™に採用。リアリティ溢れる体験と驚きを、より多くの人にお届けします。

プロフィール
  • 小西 由香理

    ソニー・インタラクティブエンタテインメント
    グローバルR&D 東京部門 開発1部

PS5™の新ワイヤレスコントローラーDualSenseに対する
ハプティクス技術の実用化

──ハプティクスとはどのような技術でしょうか?

人間は、振動、圧力や肌触り、温度などさまざまな刺激要素を通じて“触れる”感覚 ──五感の一つでもある「触覚」を得ます。ハプティクスとは、この触覚を刺激する技術です。私は学生時代からこのハプティクスの研究をしてきました。入社したタイミングでちょうどDualSenseの製品化に向けた開発が加速したこともあり、DualSenseに対するハプティクス技術の実用化に携わることになりました。

──DualSenseについて簡単に紹介してください。

DualSenseはPS5ならではの体験を実現する、新機能を搭載したワイヤレスコントローラーです。ユーザーの皆さまやクリエイターの方々から高い評価を受けている、プレイステーション®4用ワイヤレスコントローラー(DUALSHOCK®4)からさらなる進化を遂げています。これまで以上にプレイヤーの五感に訴えかけるゲーム体験の実現をめざし、クリエイターが「触覚」を通じて没入感をさらに高める方法を模索可能な環境を提供します。

──具体的には、どのような特長があるのでしょうか。

「ハプティックフィードバック」と「アダプティブトリガー」という二つの新しい機能の搭載によって、リアルで臨場感のある触覚フィードバック提示が可能となりました。表現力豊かに感触を伝えるハプティックフィードバック技術により、車が泥道を走るときの重いずっしりとした感触や、コツッと物がぶつかる軽い衝撃から銃の衝撃など、ゲームプレイ中にさまざまな感覚を表現できます。また、DualSenseのL2ボタンとR2ボタンには力学フィードバックを行えるアダプティブトリガーが搭載されており、弓矢を引き絞るときのような緊張感のある動作の実感が可能です。他にもゲームクリエイターの発想次第で、映像や音の演出、ゲームのギミックと組み合わさった多様な表現を可能にするポテンシャルも備えています。

(画像左から)PS5 / PS5用新ワイヤレスコントローラーDualSense

クリエイターがハプティクスを
負担なく取り入れられる環境を整備

──DualSenseの実用化にあたり、特に注力された点はどういったところでしょうか?

DualSenseの登場で、ユーザーの皆様は今まで以上にリアリティに富んだゲーム体験が可能になった反面、クリエイターが高品質な振動をつくるための時間やノウハウが必要となりました。この負担を軽減するため、誰でも簡単に使えるハプティック振動波形のデザイン環境を整備しました。インパクト感があり、自然な心地よい振動波形を少ないステップでデザインできるツールを開発し、さらにゲームの効果音からほぼ自動で振動パターンが生成される自動生成手法も実現しました。

──途中、難航する場面もあったそうですね。

自動生成手法はディープニューラルネットワーク技術に着目して開発を行いましたが、この技術を画像や音声ではなく触覚に応用した先行研究は少なく、当初は生成されたデータを悶々と見つめる日々が続きました。その後、学びを重ね、専門家のアドバイスも受けながらさまざまなアルゴリズムを検討することで、クリエイターが手動で作成したかのような、高品質な振動波形をある程度自動で生成できるようになりました。

現実を忘れるような感動体験創出をめざして

──日々の研究開発の中で、どういったところにやりがいを感じますでしょうか。また、ソニーグループで働く魅力についても教えてください。

SIEのR&D部門では、ある程度自由に自分で決めた研究を行うことができます。そこで成果が出れば、製品化を行う部門への提案や、特許出願はもちろんのこと、論文発表や社内の技術交換会への出展など、アピールの機会が多くあります。若手のうちから責任ある大きな案件を任されることも多く、研究開発のモチベーションがとても高いです。なにより、全世界で1億以上のユーザーの皆さまが遊ぶ、プレイステーションプラットフォームに展開されることが一番のやりがいです。また、ソニーグループにはさまざまな人材、専門家が揃っており、横断的な開発や企画が立ち上がり、シナジー効果が生まれているところが魅力だと思います。女性エンジニアはまだまだ少ないと感じますが、働く上での障壁は一度も感じたことがなく、柔軟な働き方をするための制度やインフラが整備されています。当たり前のことですが、その当たり前を実現しているソニーグループを、社員として誇りに思います。

──最後に、小西さんが将来実現したいこと、成し遂げたいことについて聞かせください。

将来的には、「ゲームの中に入り込んで違う自分になる」という幼少期からの夢の実現に、一歩でも近づけるような技術やコンテンツを開発したいと思っています。ソニーがこれまでに培ってきたオーディオやビジュアル技術、VR技術は別の世界に没入するための重要な技術です。そこに、ハプティクスや他の新しい技術もどんどん複合させて、現実世界を越えた、もしくは現実を忘れてしまうような、五感と心が震える、感動の体験を創り出したいです。

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