Collaboration
[前編] テクノロジーの力で引き出す、IPの底知れぬポテンシャル
ソニーは知的財産(IP)ビジネスの強化を戦略に掲げており、多様なIPを活用したイノベーションの推進や新たな視聴者へのリーチ拡大に取り組んでいます。ソニーのIP活用はどのようなものか、2回にわたって探っていきます。前半となる本記事では、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントのGuy Wildayに、没入体験がストーリーテリングをどのように強化するかについて、話を聞きました。
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Guy Wilday
IPが持つパワー
──まず基本的なことから伺いますが、ソニーはどのようなIPを保有し、それらは会社全体の戦略にどう貢献しているのでしょうか?
ソニーは、映画、テレビ、ゲーム、音楽など、多岐にわたる分野で幅広いIPを保有しています。ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(SPE)は映画やテレビ、ソニー・インタラクティブエンタテインメントはゲーム、ソニー・ミュージックは音楽のIPをそれぞれ創出しています。これら多様なIPは、ソニーが新たな成長と革新の道を切り拓くための広範なポートフォリオを形成するうえで、重要な役割を果たしています。
ソニーのミッションは、テクノロジーを通じてクリエイターにパワーを与えることです。このミッションが、新しくエキサイティングなIP活用を発見するための原動力となっています。
──ソニーにとって、IP活用が重要である理由を教えてください。
SPEの観点からお話しすると、私たちはIPを、さまざまなメディアを活用してストーリーを伝える「トランスメディア」の機会として捉え、その可能性を探求しています。具体的には、映画やテレビのIPを、ゲーム、バーチャルリアリティー(VR:仮想現実)、ロケーションベースエンタテインメント(LBE)などの他の分野で活用することです。ソニーが持つIPのリーチを広げることで、ソニーのコンテンツをより没入感のある新しい体験として観客に提供し、エンゲージメントを高めることができると考えています。
IPとテクノロジーが生み出すイノベーション
──IP事業を強化するために、ソニーではどのようにテクノロジーを活用していますか?
リアルタイム技術を活用することで、新たなユースケースを探求し、ストーリーテリングとコンテンツ制作の可能性を広げています。監督でありプロデューサーでもあるJason Reitman氏およびゴースト・コープと最近取り組んだプロジェクトを紹介しましょう。このプロジェクトは、リアルタイム技術で何ができるのかを探る目的で、ソニー社内でのPoC(概念実証)としてスタートしました。従来であれば長い時間をかけてオフラインでレンダリングしていたコンテンツを、リアルタイムで制作できないか、映画の視覚効果のショットをリアルタイムに制作できないか、もしこれらが可能なら、この技術を使って短編映画を制作できるのではないか──と考えたのです。
──今後、このようなコンテンツの需要は増えるとみていますか?
クオリティーの向上、そしてゲームと映画技術の融合といった要因により、リアルタイム技術への需要は高まっています。ソニーは、ゲームと映画の両分野で専門知識を有しており、このようなトレンドに応じることができます。ゲームと映画のクロスオーバーは、ソニーにとって新しいエキサイティングな可能性をもたらすことでしょう。
今後、VRとAR(拡張現実)はコンテンツを消費するための重要な技術になると考えています。PlayStation VRなどのプロジェクトを通じて、ソニーはバーチャルリアリティーでは確固とした実績を築いてきました。ソニーのSpatial Reality Displayのような技術は、没入型体験の限界に挑戦するという私たちのコミットメントを示しています。
テクノロジーの力で感動を呼び起こす
──米国のテクノロジー見本市「CES 2024」では、インタラクティブ技術を披露しました。この展示について教えてください。
CESではブースを4つのエリアに分け、エリアごとにユースケースを展示しました。バーチャル・プロダクションとクリエイター向けに特化したエリア、ゲームとそのサポートに特化したエリア、センサーとモビリティーに焦点を当てたエリア、そして私が関わった新しいエンタテインメント体験のためのIP活用に特化したエリアです。
CESの展示の目標は、来場者が感動体験に浸ってもらうことでした。私が担当したエリアは、ゴーストバスターズの短編映画をテーマに、来場者がストーリーに囲まれて没入する機会を提供することで受動的な視聴体験を超えた、感動的なつながりを生むという構想で構築しました。Haptic Floor Technologies、マーカーレスモーションキャプチャー、モバイルモーションキャプチャー「mocopi」など、さまざまなソニーのテクノロジーを活用することで、来場者の感動を呼び起こし、より深く、より意味のある形で引きつけることを目指しました。
“感動”は、これまでも、そしてこれからも大切なものです。感動は人間に備わる基本的なものであり、人と人とのつながりを生みます。特にストーリーテリングは、人々を感動の旅に導き、共感を生み出し、感動を呼び起こすことができる手法です。
実際にブースを体験した人たちの反応を見られたことは、とても素晴らしい経験でした。CESが開幕し、我々のブースを体験しようと行列ができているのを見た時、本当にエキサイティングなことができたと胸が熱くなりました。私は出口付近に立っていたのですが、ブースを体験した来場者が笑顔で帰っていくのを見ることができました。私たちが作り上げた体験に人々が本当に夢中になっている──これはこの上ない体験でした。
将来展望:コラボレーションとイノベーションの活用
──ソニーのIP事業の可能性と、その実現に向けたグループ各社の連携についてお聞かせください。
ソニーは可能性の限界を押し広げることに全力を注いでおり、テクノロジーとIPの融合が、今後何年にもわたってエンタテインメントのイノベーションを牽引し続けると確信しています。
このようなエキサイティングな開発分野のひとつに、LBEがあげられます。ソニーは、コンテンツIPにはじまり、インタラクティブ体験、ディスプレイ技術、ハプティクス技術、モーションキャプチャー技術などの最先端技術に至るまで、必要な要素をすべて備えており、この分野で独自のポジションを築いています。ソニーの強みはこれら各分野における経験と専門知識であり、さまざまな要素を組み合わせることで、これまでにない新しい没入型ロケーションベース体験を創造することができます。
このような体験を実現するのに、コラボレーションは不可欠です。技術を保有することは重要ですが、それだけでは成功できません。プロジェクトが成功するかどうかは、異なるグループ間でいかに効果的に協力できるかにかかっています。CES 2024のLBE技術のデモンストレーションは、その好例です。私たちはPixomondo、ソニー・ヨーロッパ、ソニーのR&Dチーム、ソニーPCLの各メンバーと協力することで、素晴らしい感動体験を実現することができました。今後も、次なる成功に向けて、ソニーグループ内および社外のパートナーとのコラボレーションを進めていきます。
本記事は、ソニーグループのIP活用を掘り下げる2部構成シリーズの前編です。後編のSony EuropeのJohan Hanssonとソニー株式会社の横山諒が語るIP活用の可能性はこちらの記事をご覧ください。