Collaboration
[後編] 魔法のような体験を求めて
CES 2024でソニーは、没入型のストーリーテリングにおける新たなアプローチを披露。グループ内のさまざまなチームのコラボレーションによって実現しました。ソニーのIP活用の可能性について探るべく、Johan Hanssonと横山 諒に、IP活用の可能性について聞きました。
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Johan Hansson
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横山 諒
IPとテクノロジーの活用がイノベーションの扉を開く
──ソニーでの現在の立場や業務について教えてください。
Hansson:私はロケーションベースエンタテインメント(LBE)を扱うチームを率いており、ゲームエンジンなど、ソニーのテクノロジーを活用したインタラクティブな体験の開発に取り組んでいます。
私の所属する組織は、ソニーの研究開発部門の一つであるTechnology Infrastructure Center(TIC)の一部で、拠点はスウェーデンのルンドにあります。大規模なインタラクティブ体験を生み出すために、ゲーム開発者やデザイナーとコラボレーションしています。
横山:ソニー株式会社の技術開発研究所で研究者としてLBE向けのハプティクス技術を担当しており、この分野の研究を10年以上続けています。
限界を超えて——CES 2024での没入型IP展示
──CESのブースで展示した没入型体験は、どのようにして生まれたのでしょうか?
Hansson:CESでは、映画とゲームの中間に位置するような体験を披露したいと考え、物理的な空間を活用するLBE技術を採用しました。
私たちのチームは、ゲームエンジン用のLBE-SDK(ソフトウェア開発キット)を開発しており、これをソニー社内のクリエイティブチームと共有することを目指しています。LBE-SDKを使えば、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(SPE)やソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)のIPを活用した大規模なインタラクティブ体験を、より簡単に制作できるようになります。
ソニーのIPを使ったユニークな体験をどのように生み出すかについて、さまざまな技術を検討した結果、振動により触れているような感覚を作り出す「ハプティクス技術」、ビデオベースのモーションキャプチャー「マーカーレスモーショントラッキング」、そしてモバイルモーションキャプチャー「mocopi」を使うことにしました。映像や音に反応して床が振動するHaptic Floorや、従来のシステムを超える機能を備えたマーカーレスモーションキャプチャーは、広い空間で多くの人の動きを捉えハプティクス(触覚)に働きかけることで、没入感のあるフィードバック体験を提供することができると考えました。
──プロジェクトにおけるHanssonのチームの役割を教えてください。
Hansson:我々のチームは、LBE-SDKを使用して技術プラットフォームを構築しハプティクス技術などを用いて、既存のフレームワークを拡張しました。これにより、すべてのテクノロジーが同じシステム内で調和するようになったのです。そのうえで、インタラクティブ性を実装し、Pixomondoが提供するビジュアル、横山さんのチームとソニーPCLが提供するサウンドエフェクトを加え、最終的な体験を作り上げました。さらに、技術、体験の両面を考慮した空間デザインとテクノロジーの導入も担当しました。
コラボレーションで創造性とテクノロジーをつなぐ
──CESでのソニーのテーマは、 “Powering Creativity with Technology“でした。各チームはこのコンセプトをどのように表現したのでしょうか?
Hansson:私たちの目的は、映画『ゴーストバスターズ』のIPを披露するだけでなく、ソニーのテクノロジーが未来のクリエイターにどのような力を与え得るのかを見せることも重要でした。目指したのは、テクノロジーをストーリーに織り込むことでユーザーを惹きつけ、 “感動”の瞬間を作り出すことでした。加えて、ユーザーにソニーのテクノロジーを効果的に紹介することにも注力しました。
ユーザーは馴染みのない技術を体験したがらないことを、これまで何度も目にしてきました。そこでCESでは、メインの展示の前にユーザーがハプティクス技術について理解を得られる導入スペースを設置。このアプローチはうまくいき、ユーザーは積極的に参加するようになり、全体的な体験価値を高められました。
──このアイデアを実現するために、開発チームはどのような役割を果たしたのですか?
横山:基本となる枠組みは、主にルンドにいるHanssonさんのチームと、米ロサンゼルスにあるSPEのGuy Wildayのチームが設計しました。私たち開発チームの役割は、ハプティクス技術をこのコンセプトに適用できるかどうかを判断することでした。
CESでは、Haptic FloorとActive Slateという2種類の床型ハプティクスを使いました。両者は同じような目的を果たしますが、それぞれ表現できる範囲が異なります。また、過去にこれらを同時に使ったことがなかったため、それぞれのエリアのレイアウトをどうするかという点は苦労しました。
Hansson:横山さんの言う通りで、我々のチームにとって技術面での大きな課題の1つが、複数の技術をシームレスに統合することでした。通常、各技術は独立して機能することを前提に開発されています。そのため、複数の技術がそれぞれの強みを活かしつつ、調和した形で機能するようにすることは、大きなチャレンジでした。
──CESの展示から見えてくる将来の没入型IPについて、どのように考えていますか?
Hansson:CESの展示で、コンセプト実証用のゴーストバスターズの短編映画のような従来のメディアが、まったく新しい環境と空間で異なる体験を提供できることを示せたと思っています。ゲームでもなければ、映画でもない、まったく独自の体験です。このアプローチを取ることで、映画がゲームになったり、逆にゲームが映画になったりするように、IPを拡張できます。ソニーは、音楽、映画、ゲームなどをベースに物理的な体験をつくり、コミュニティーとの関係をさらに強くすることができるのです。インタラクティブな体験を通じて、ファンは自分の好きなIPの世界にかつてないほど没入することができます。
CESのデモンストレーションではゴーストバスターズの短編映画を使ってソニーのビジョンを紹介しましたが、このコンセプトはゴーストバスターズ以外の映画、ゲーム、音楽などあらゆるソニーのIPに応用できます。ソニーの目標とは、従来のメディアではできなかった新しい体験やつながりをファンに提供することです。
──CESでの成功を踏まえ、これから挑戦したいプロジェクトや分野はありますか?
横山:CESを通じてソニーグループ間での協力、コミュニケーションを深めることができたため、さらに協力し合うことで、より大きな成果が得られると確信しています。
コラボレーションしやすい環境を整えるために、Active SlateとHaptic Floorをルンドに設置する計画もあります。日本チームと同じ環境をルンドにもつくることで、継続的な共同開発を促進できると期待しています。
Hansson:私にとっての最大のチャレンジは、さまざまな技術を組み合わせて一体感のある体験をつくり出すことです。単に複数の技術を同時に実行するのではなく、意味のある方法で組み合わせてイノベーションを起こす。たとえば、CESの展示では、ボディートラッキングとフロアセンサーを融合することで、ユーザーがマシュマロマンのようなバーチャル要素とやりとりできるようにし、没入感を高めることができました。
技術と体験がシームレスに組み合わさると、魔法のような体験が生まれます。我々はそのような魔法を、もっと作り出したいと思っています。
本記事は、ソニーグループのIP活用を掘り下げる2部構成シリーズの後編です。前半のソニー・ピクチャーズ エンタテインメントのGuy Wildayが語るIP活用によるイノベーションはこちらの記事をご覧ください。