Cutting Edge

材料・デバイス開発の新手法「マテリアルズ・インフォマティクス」

AI技術を活用して、まだ世界にない材料を!

2020年3月4日

写真左から、蟹谷 裕也(ソニー株式会社 R&Dセンター・Tokyo Laboratory 27)、冨谷 茂隆(ソニー株式会社 R&Dセンター・Tokyo Laboratory 27)、白沢 楽(ソニー株式会社 R&Dセンター・先端技術部)。3人の後ろに映っているのは、世界最高レベルの原子分解能電子顕微鏡。

10年かかっていた材料探索を1週間で-。そんな魔法のような可能性を秘めた技術が、冨谷らが研究を進める「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」です。これは材料開発に関するデータをもとに、人工知能(AI)を使って新しい材料を探索する技術。その利点を冨谷はこう説明します。「従来、材料開発は研究者の仮説をもとに実験・検証する、いわば原因から結果を推定するアプローチでした。一方MIは、既存の実験データやシミュレーションデータをAIに学習させることで、欲しい物性を持つ新材料をデータから導き出す、つまり結果から原因を推定するアプローチです。経験と勘に頼った従来の開発より、開発時間を大幅に短縮できると世界的に注目されています※ 」。

※第4のパラダイムシフトともいわれるマテリアルズ・インフォマティクス

2009年、Microsoft Researchが編集した「第4のパラダイム」にてジム・グレイ氏(米国の計算機科学者)が、データによる問題解決のアプローチ(マテリアルズ・インフォマティクス)を第4のパラダイムとした。

マテリアルズ・インフォマティクスのアプローチ

冨谷らは、現在このMI技術を用いて、次世代イメージング・センシングデバイス用の材料開発に携わっています。世界的にもMI技術の活用が進む中、ソニーの強みはどこにあるのか。白沢が答えます。「MIはデータから結果を導く技術なので、良質なデータであるほど探索精度が上がります。ソニーがこれまでの材料開発で蓄積してきた独自のデータを使うことで、他では真似できない探索が可能になるのです」。さらに現在、蟹谷は新たな実験データの取得にも取り組んでおり、ここでもソニーの強みがいかされています。「われわれの扱うイメージング・センシングデバイスは、原子レベルでの欠陥が致命傷になり得ます。この点、私たちは世界最高レベルの分解能を持つ電子顕微鏡を用いて原子レベルのデータを獲得することができます。ハード面の充実も私たちの強みの一つです」。

ただしMIは「ただ質の高いデータが揃っていればいいわけでもない」と冨谷は言います。「新しい材料を探索するには、物理や化学の正しい知識をもとにAIを使いこなすことが大切です。私たちは、物理や化学分野での材料解析、シミュレーション、AIとそれぞれの専門家が一体となって活動しており、実際、先日も新しい材料の探索手法を見出すことができました。専門的な知見を結集できることこそ、私たちの最大の強み。今後もMIの活用を通じて新材料を開発し、次世代のイメージング・センシングデバイスに必要な材料を開発していきたいですね」。

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