Collaboration

ソニーグループに仲間入りしたPixomondo、
バーチャルプロダクションの新章へ

2023年9月11日

2022年10月、バーチャルプロダクションやビジュアライゼーション、VFX(視覚効果)を手がけるPixomondo(ピクソモンド)がソニー・ピクチャーズ エンタテインメントの傘下に入り、ソニーグループの一員となりました。Pixomondoは今年4月、フランス・カンヌで開催された映像コンテンツの国際イベント「MIPTV」にソニーグループとともに登壇するなど、両社のシナジーは形になりつつあります。

Pixomondoが手がけるバーチャルプロダクションとは一体どのような技術なのでしょうか。同社の新機軸や今後の展望について、CEOのJonny Slowに話を聞きました。

  • Jonny Slow

    CEO of PXO

クリエイターやライター、プロデューサーの構想に命を吹き込む

──まずは、Pixomondoの事業内容について教えてください。

主に私たちが取り扱うのは、バーチャルプロダクションやビジュアライゼーション、そしてVFXです。注力しているのは、クリエイターやライター、プロデューサーの頭の中の構想を形にすること。最新技術を駆使し、現実には存在しないビジュアル要素を高いクオリティで映像の中に表現します。Pixomondoは約23年前にVFX事業を開始し、そのサービスの幅を広げることで、現在ではクライアントの制作過程の早い段階から携わっています。

Pixomondoには成長の転機となった作品がいくつかあります。その一つが、2011年に公開された映画『ヒューゴの不思議な発明』(マーティン・スコセッシ監督)です。CGを駆使した3D映画で、アカデミー賞では視覚効果賞を含む5部門で受賞。これにより、Pixomondoの名は業界に広く知られることになりました。



設立以来、Pixomondoはドラマシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』をはじめ、
ドラゴンの登場する映像を多数手がけている。

また、Paramount+のドラマシリーズ「スタートレック:ディスカバリー」や「スタートレック:ストレンジ・ニュー・ワールド」などにも携わっています。本作では、LEDスクリーンを使った撮影を導入すべくプロデューサーを後押しし、結果的にバーチャルプロダクションにおけるPixomondoの信頼の獲得につながりました。



Pixomondoが携わった『ヒューゴの不思議な発明』と、「スタートレック」シリーズ

最近は、制作過程の初期の段階からクリエイティブ・コンセプトを可視化したいと考えるクライアントとコラボレーションする機会も増えています。技術が進歩したことで、クリエイターやプロデューサー、さらには役者も、以前より早い段階でバーチャル素材を確認できるようになりました。こうしたなかで、私たちが果たすべき役割とは、映像の設計と制作をサポートし、実写とバーチャル映像をシームレスに統合すること。そして、究極の目標は、完成映像を見た視聴者が実写とバーチャルを区別できないぐらいのレベルに仕上げていくことです。

Pixomondoの強みは、幅広いサービスをワンストップで提供できることです。私たちは質の高い映像制作のスキルはもちろん、スタジオにおける物理的な撮影支援も得意としています。例えば、テクノロジーを効果的に使うためのハードウェアを設計して組み立てることなどもその一つです。つまり、VFX制作における豊富な経験と、制作した素材をスタジオで投影し撮影するための実践的なノウハウ、その両方を取り揃えているということです。

ゲーム業界との連携

──Pixomondoが採用しているテクノロジーについて、もう少し詳しく教えてください。

近年、スタジオ内で背景映像を投影して撮影することができる、バーチャルプロダクションが台頭してきています。従来は、役者やセットの後ろにグリーンバックを置いて撮影し、背景は撮影後のポストプロダクション過程で合成する、という手法が主流でした。これに対し、私たちは、撮影セットの周りを270°にわたって囲む、天井つきの大規模なLEDスクリーンを構築。これにより、事前に用意しておいた背景映像を、撮影中にリアルタイムでLEDスクリーンに投影する「インカメラVFX(ICVFX)」として知られる手法が可能になりました。

LEDスクリーンはそれ自体が光源となるので、光の反射や屈折を人工的に再現できる。「そうした理由もあって、インカメラVFXを一度経験すると、以前の撮影手法には戻りがたいというクリエイターが多い」(Jonny Slow)

リアプロジェクション(背面投影)自体は古くから存在する技術ですが、私たちはゲームエンジン「Unreal Engine」を使ってさらにリアルな映像に仕上げています。3次元環境で映像を構築することで、2次元の場合よりも深い没入感が生まれます。また、撮影中はスタジオのカメラの動きを追い、スクリーン上の背景映像と同期させることで、擬似的な視差をつくって立体感を演出しています。

この手法に関してPixomondoは、「Unreal Engine」を開発したEpic Gamesと提携してリアルタイムレンダングの技術をいち早く採用。このような革新的な制作プロセスによって、私たちは数々の映画やドラマ、コマーシャルなどを制作してきました。



カナダのサッカークラブ「Caledon United FC」のCM撮影のメイキング映像。LEDスクリーンを使って撮影している。



実際のコマーシャル

Pixomondoとソニーの親和性

──昨年10月、Pixomondoはソニーグループの一員となりました。現在までの印象や思いをお聞かせください。

ソニーグループに加わることができて、とてもうれしく思っています。ソニーはエレクトロニクスやゲームといった分野で代表的な企業であり、Pixomondoの社員のなかにもソニーという会社やブランドのファンという人が数多くいます。

もちろん、ソニーは単なるエレクトロニクスメーカーではありません。私たちが傘下となったソニー・ピクチャーズ エンタテインメントはもちろんのこと、ソニー・インタラクティブエンタテインメントはゲーム技術の開発で強い影響力を持っています。私たちが採用している技術の多くは、もとを正せばゲーム向けのものでしたが、テレビや映画といった領域でも有用だと実証されました。さらに、ソニーは「Unreal Engine」を開発しているEpic Gamesに出資しており、そのことも私たちにとって意義深いつながりを生み出しています。

今年4月、映像業界のイベント「MIPTV」に登壇したJonny Slow。同社の制作プロセスや最新技術への思いについて、世界各国のクリエイターを前に語った。

私個人としても、ソニーのPurpose(存在意義)に共感しています。「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」。初めて読んだとき、「これがそのままPixomondoの行動指針だったとしても違和感はない」と思いました。それはまさに、私たちにとってもクライアントや視聴者のために目指していることの本質であり、Pixomondoとソニーは親和性が高いと確信しています。

さらなる新技術を求めて

──今後、Pixomondoで注力していきたいことは何ですか?

私たちは現在、より効率的で持続可能な制作のための新規技術の導入に力を入れています。技術の進歩は目まぐるしく、興味を引く技術はたくさんありますが、その中でもどれが最も重要で、本格的に取り組む価値があり、導入準備が整っているのか、を見極める必要があります。

また、今後も楽しみなプロジェクトの数々が進行中です。米国の人気テレビアニメ『アバター 伝説の少年アン』の実写版が2024年にNetflixで配信予定であるほか、ソニーのPlayStation ®ソフトから生まれた映画『グランツーリスモ』が日本で9月に公開予定です。米国HBO社の長編ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』にはシーズン2から携わってきて、シリーズ前日譚にあたる『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』においても、特にドラゴンのCG制作を担ってきたのですが、現在は『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』シーズン2を鋭意制作中です。

ソニーグループに加わってからはソニーと密に連携する機会も増え、VFXやバーチャルプロダクションで素晴らしい成果をあげるべく取り組んでいます。ソニーの協力のもと、この分野で世界を代表する企業となり、クライアントにますます寄り添った仕事をすることが私たちの目標です。それとともに、Pixomondoのクリエイティビティをより進化させる新製品の開発を推進し、業界全体にとっても有益なイノベーションを起こす力になれればと思います。



映画『グランツーリスモ』予告編

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