宇宙の視点を解放し、新しい感動を届ける
「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」というPurpose (存在意義) のもと、ソニーの多様な社員が取り組む活動を「共創」の視点から紹介する対談シリーズ『SESSIONS』。
ソニーのクリエイティビティとテクノロジーをビジネスパートナーやクリエイターの取り組みと掛け合わせることで、どのような「共創」が生まれ、そこからどのような感動が広がっているのか。プロジェクトのリアルなシーンをソニーの担当者とパートナーとの対談を通して、シリーズで紹介します。
第5回目となる今回は、宇宙をすべての人にとって身近なものにし、「宇宙の視点」を発見していくプロジェクト「STAR SPHERE」について。
ソニーがJAXAの支援のもと、東京大学と共同開発した超小型人工衛星により衛星の操作を通じて、自分だけの宇宙写真や宇宙動画が撮影できます。
このプロジェクトの構想、「宇宙の視点」、そして現在、取り組んでいる共創(セッション)について、元・JAXAで宇宙飛行士の山崎直子さんとソニーグループ株式会社 宇宙エンタテイメント推進室 事業企画リーダーの見座田圭浩 の対談により紹介します。
ソニーグループ株式会社
宇宙エンタテインメント推進室
事業企画リーダー
見座田 圭浩
宇宙飛行士 山﨑直子
【STAR SPHEREとは?】
ソニーはJAXAのプロジェクトとして東京大学と共同研究を実施。ソニー製のカメラを搭載した超小型人工衛星『EYE』を開発。2023年1月3日に無事に打ち上げられました。今後その衛星を使って教育や芸術などさまざまな領域での活用が期待されています。2023年春からは、シミュレータを活用することで人工衛星の操作体験を通じて宇宙とつながる世界初のサービスとなる 「宇宙撮影ツアー」と「宇宙撮影プレミアム」を開始予定です。
ソニー、JAXA、東京大学による合同プロジェクト
ーソニーはJAXAプロジェクトの一環として東京大学と共同研究を実施、超小型人工衛星を開発。2023年1月3日にアメリカ・フロリダ州のケープカナベラル宇宙軍施設 にて人工衛星『EYE』が打ち上げられました。
この『STAR SPHERE』プロジェクトはどのような内容か話を伺いました。
「皆既日食や流星群の話題が定期的にSNSなどで話題になるように、実は宇宙は身近なものではあるんですが、実際に「宇宙で何かしよう」となると、やり方が思い浮かばないのではないかと思います。宇宙を身近にして新しい感動体験を作り出すことで、ソニーが掲げる『クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。』というPurpose (存在意義) を宇宙にまで実現させていきたいと思っています」
ーソニーのメンバーがなぜ宇宙のプロジェクトを携わることになったのでしょうか。
見座田:「活動のきっかけは、ソニーの中で『宇宙で新しいことをやりたい、新しい感動を宇宙で作りたい』というメンバーが有志で集まって2017年にスタートしました。」
見座田:「ソニーにはエンジニアがたくさんいて、モノ作りのイメージが強かったと思います。一方で、音楽、映画、ゲームのようなコンテンツも生み出しているので、『宇宙を通してそういう新しいコンテンツも作りたい』というメンバーが集まり、有志での活動が始まりました」
ーJAXAや東京大学と一緒に取り組んでいるこの『STAR SPHERE』プロジェクトはどのようなメンバーで構成されているのでしょうか。
見座田:「このプロジェクトはJAXAの”J-SPARC”という枠組みの中の取り組みとして始まっていて、ソニーは人工衛星のミッション部と呼ばれるカメラ関連の部分の開発と人工衛星を操作するためのシステムを中心に開発をしています。東京大学には衛星の筐体の部分、いわゆるバス部と呼ばれる領域を開発していただいています。JAXAからは宇宙活動法、無線免許を取得するための方法など、衛星を開発するためのプロセスなどを中心にアドバイスいただいています」
山﨑直子(以下、山﨑):「ソニーの有志のみなさんが2017年からこうした構想を立てられていたということに正直驚きました。そして実際にはスタートして3年目にはプロジェクトとなって、そしてここまでこぎつけてきたというスピード感には改めて驚きました。」
誰もが宇宙から地球を見られる 「宇宙の視点」の解放
ー旧ソビエトの宇宙飛行士、ユーリ・ガガーリン氏が1961年に人類初となる宇宙飛飛行に成功、以来60年以上もの間、宇宙から地球を見ることができるのはごく限られた人にしか体験できないものでした。ソニーは『STAR SPHERE』で「宇宙の視点」を世界中の人に向けて広く解放しようとしています。
見座田:「ソニーが考える「宇宙の視点」というのは大きく2つの意味で使っています。一つは、実際に宇宙から地球や宇宙を見るっていう”VIEW”の視点。もう一つは宇宙ならではの物事の捉え方や考え方という観点、”PERSPECTIVE”の視点です」
山﨑:「私の場合は2010年4月5日にスペースシャトルで打ち上がり、8分30秒後に無重力の宇宙空間に到達をし、そこから窓を通して初めて宇宙空間から地球を見た時は地球が頭上に輝いていました。その時は地上から400km上空の場所でしたが、自分の方が地球よりも下の方にいて、地球が自分の真上に見えるという光景にびっくりしました」
山﨑:「これこそ絶対的な上下がない無重力空間なんだということを最初にガツーンと感じたんですね。そうして仰ぎ見た地球は青くて、朝日の光を浴びていて、海の青さと白い雲が際立っていて、本当に生きているかのようだったんです。それと同時に『地球の美しさというのは、私達も含めてみんなが一生懸命生きている、そんな命が集まった美しさなのかな』と感じました」
ー2010年、宇宙空間から「宇宙の視点」をすでに体験された山﨑さん。そのことで行動や考え方に変化はあったのでしょうか。
山﨑:「宇宙から地球を見た時に、大自然の力強さがとても際立ちますが、この地平線を覆う空気の層はとても薄いんですね。地球がリンゴだとすると、その皮くらいの薄さしかない。地球はある意味、儚い存在でもあるんだということにとても驚きました」
山﨑:「普段生活をしていると、地球はものすごく大きなものだと感じますし、母なる地球としてついつい甘えてしまうのですけれども、宇宙から地球を見ると、むしろ守らないといけない存在のように思えてきました」
『STAR SPHERE』でできること
ー『STAR SPHERE』による「宇宙の視点」の解放でどんなことができるようになるのでしょうか。
見座田:「以前、福岡県の柳川高等学校で「宇宙人に地球人の感性を届けるために人工衛星を使ってみよう」というようなコンセプトで実験をしました。そこで、生徒たちにはグループごとにいろんな切り口で『地球が創り出すさまざま色の美しさを教えてあげよう』や、『宇宙人が地球に来た時の水飲み場として琵琶湖を教えてあげよう』 などいろんなアイデアが出ました」
見座田:「地球人は自分達の生活の中で実は地球を少しずつ傷つけている、一方でそれをわかっているからこの地球を守ろうとしているんだよ、ということを表現する為にアマゾンのフィッシュボーンを撮る、といったことを生徒自らが考えていました。そういった写真をシミュレーター上で撮る体験そのものが、我々が実現したい物事の捉え方、考え方を宇宙レベルで解放するということを実現できたし、良い事例になったと思っています。」
山﨑:「面白いですね。地球上の課題解決はもちろん大切ですけれども、宇宙人の課題解決も考えるという生徒たちの視野の広さにびっくりしました」
ー『STAR SPHERE』を使ったクリエイターとの取り組みについても話を伺いました。
見座田:「人工衛星を使って「宇宙の視点」を解放することで、宇宙ならではの表現ができないかという話もしています。現代芸術家の杉本博司さんや他の世界中のアーティスト、クリエイターの方々とも話を始めています。例えば写真の表現であっても、どうしても地上から撮ったり、ドローンで空撮という風に表現として限界があるので、宇宙から写真を撮ることで表現の領域を広げようというような取り組みもしています」
見座田:「クリエイターの方々からは人工衛星を使ってこんなことができないかと色々な要望をいただいているんですが、それが我々のエンジニアチームにも励みになっています。クリエイティビティの力を借りて、我々のテクノロジーの力もさらにアップデートし、相乗効果が生まれているなと思っています」
山﨑:「私が宇宙に行った時には、(国際宇宙ステーションの中で)ナズナのような植物を育てる実験をしていましたが、室内に少しでも植物の緑があると心が和んだり、あるいは宇宙食を食べるにしても、それぞれの国からの宇宙食を持ち寄ったり、洋服などでもそれぞれ自分が好きなものを何点か持っていけるので、それで個性を表したり。少しずつ工夫をしながら日々過ごしているんです。ジュースやコーヒーなどの色を使って習字をしたり絵を描いたりと、いろいろな工夫が生まれていくんです。宇宙からの視点を体感したり想像したりすると、きっと良いインスピレーションが生まれてくると思います」
見座田:「クリエイターが考える宇宙を通した新しい表現によって、新しい感性を得られる 感動体験もあれば、大人が子どもの視点で地球や宇宙を見ることで地球を思う気持ちが変わるという感動体験もあると思っています。これまでにないような宇宙を通した新しい感動体験を、いろんな人達、クリエイターや子ども、企業など色々な人たちと一緒にコラボレーションすることで。新しい感動をどんどん作っていきたいです。」
「宇宙の視点」を解放する ソニーのテクノロジー
ー『STAR SPHERE』で「宇宙の視点」を解放することを可能した技術とはどんなものなのでしょうか。
見座田:「この人工衛星にはソニーのカメラが付いているのと、人工衛星そのものが上下左右回転が出来るので、宇宙空間から地球や宇宙といった自分の撮りたいものが撮影することができます。高感度のイメージセンサーを積んでいますので、地球の夜景など高感度でしか撮影できないものがきれいに撮れるというのが、ソニーの技術を使ったこの人工衛星の大きな特徴の一つです」
誰でも人工衛星を操作できるように操作性の高いシミュレーターを開発
ー「宇宙の視点」をいろんな人に解放するために、誰にでも人工衛星を地上から操作することができるようにする必要がありました。
見座田:「我々はなるべく直感的に人工衛星を操作したいと思っています。それを実現する為グラフィカルなユーザーインターフェースでシミュレーターを開発しました。人工衛星そのものが上下左右回転することも特徴なので、どういう姿勢を向いているのかというのも、このシミュレーターで設定できるようになっています。操作性の高いシミュレーターを作ることで、これまで人工衛星を操作できなかった人も含めて使っていただき新しい価値を生み出していきたいと思います」
山﨑:「こうしたインターフェースは本当に画期的ですよね。これまでの衛星ではあまりなかったんじゃないですか。
見座田:「例えば、クリエイターの方が宇宙から地球や宇宙を撮りたい時に地球と太陽の位置、地球と月の位置、地球と星の位置がどうなっているのかというのが必要なのですが、それらをグラフィカルに表現することで、星の位置関係もうまくわかるようになります」
見座田:「なるべくわかりやすい、やさしいユーザーインターフェースにしているので、子どもたちが人工衛星を操作して子どもならではの視点で地球や宇宙を撮影してもらいたいとも思っています」
山﨑:「私もこのシミュレーターを何度か体験しましたが、すごくリアルなんです。いろいろなオプションがあって、雲が見える時はどうなっているか、地球の大気を表すとどうなっているかとか。地平線の光の様子だとか、さらには夜空を彩る星なども正確にシミュレーションされていて、こういうユーザーインターフェースがあったら操作しやすいと思いました。他の人工衛星もこういうのがあったらいいと思います」
見座田:「実際にそういうお声もいただいていますので、いろんな人工衛星を作っている会社との今後のパートナーシップ、またはコラボレーションができていくといいなと考えています」
山﨑:「ソニーさんのようなクリエイティブであり、そして技術を持っていらっしゃる企業さんが宇宙の事業に参入されることは、他の皆さんにとっても、宇宙産業にとっても励みになることなのかなと思いました」
山﨑直子さんをガイドに迎えた「宇宙撮影ツアー」がスタート
ー『STAR SPHERE』では、事業サービスとして宇宙飛行士の山﨑直子さんをガイドの一人に迎えた「宇宙撮影ツアー」がスタートします。具体的にどのような体験ができるのでしょうか。
見座田:「地上から人工衛星を操作して、宇宙から写真が撮れるサービス、及び人工衛星が地球を回る軌道は毎回違いますので、その軌道をツアー仕立ててで楽しんでもらって、エンタテインメントとしても楽しめるようなサービスを考えています」
山﨑:「最初に『宇宙撮影ツアー』のお話をいただいた時に、とても素敵なプロジェクトだなと思いました。私も初めて宇宙に行った時、宇宙にいる感覚が懐かしいような感じがしたんですね。宇宙は遠いところのようにも思えるのですけれども、私たちの体も地球も元々は宇宙のかけら、星のかけらでできていて、故郷を訪ねに行くような感じがしました。そうした体験はみんなに共通することなので、それを共有できたらすごく素敵なことだろうなと思いました」
ー国際宇宙ステーションに滞在し、これまで様々なアングルから地球を見た山崎さん。もしご自身が「宇宙撮影ツアー」に参加されるとしたらどんなアングルで撮影したいのか教えていただきました。
山﨑:「昼間の地球であれば、大自然の海の青さであったり、海も様々な色彩がありますし、また地平線をずっと追うように光る青い空気の層と、そして太陽とのコントラストであったり。宇宙空間の黒と、地球を照らす太陽の輝きの光とのコントラストがとっても強烈なので、その辺の宇宙観、宇宙から見る地球観が取れると面白いかなと思います。タイミングが合えば、太陽が出る日の出であったり、また太陽が沈む日の入であったり、それからオーロラであったり、そうした自然現象も撮れると面白いだろうなと思います」
山﨑:「夜は人の営みの電気の明かりが煌々と輝く。これもまた温かさであり、人の力強さが感じられるところなので、夜の星空と夜景が同時に撮れたら、また面白いなと思います。本当に素敵なアングルたくさんあるので、皆さんそれぞれがピッと閃いたこの瞬間、この場所、時間を是非撮っていただけたら嬉しいなと思います」
山﨑:「映像写真を撮るっていうことはその空間なり、時間なりを自分の感性で切り取って記憶に残すということだと思います。そこには一人一人の物語があるわけですよね。その物語をツアーに参加した皆さんと共有することで『ああ、あの人はこんなことを思っていたんだな』っていう、絆や連帯感が生まれ周りのみなさんと共有することで 、それが広がっていくんじゃないかなと期待しています。よく地上で分断と言われますけれども、同じ宇宙の下にいるということはもう揺るがない事実なので、そういう思いをみんなが共有できたら、『違い』ではなく『共通すること』に目が向けられるような気がしています」
見座田:「実際に「宇宙の視点」を体験された山崎さんが地球を見て安心感を得たことや温かい気持ちになったことを同じように体験することで、色々な人たちとより共存し合おうとか、人を思う気持ちを育もうみたいなところまで広がっていくと、より良い方向に進むんじゃないかと思いましたので、是非そこをご一緒したいと思います」
山﨑:「感動とは、心が感じて、そして動くことですよね。宇宙から地球を撮影してそれで得た感動で、『明日から頑張ろう』とか『こんなこと今まで気付かなかった』とか『あの人はこんなことを思うんだ』とか、何か心が動いて、また何かに挑戦しようと、そんな気持ちにきっとなれるんじゃないかなと思うんですね。そうした流れをソニーさんが、STAR SPHEREの皆さんが作ってくれるということに期待しています」
- ※この記事は2023年2月16日時点の情報です。提供サービスは変更される可能性があります