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積み重ねてきた信頼を受け継ぐための「ルール」

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ソニーグループの全社員の基本的な行動指針となるソニーグループ行動規範が、6年ぶりに改定されました。「信頼を築く」、「世界と地球に貢献する」などの7つの章からなる新しい行動規範の冊子には、ファウンダーの一人である盛田昭夫の「人間に人格、人徳というものがあるように、会社もやはり人から愛され、リスペクトされる存在であり続けてほしい」という内容のメッセージが新たに添えられています。また、社会全体やソニー自体の変化を反映しつつ、より使いやすく、より分かりやすく、より行動に落とし込めるように、項目や内容を見直しています。
絶え間なく続く変化の中で、積み重ねてきた信頼を受け継ぎ、会社や社員を守るルールとするには—。改定作業を率いたソニーグループ株式会社 エシックス&トラスト部 エシックス&ポリシーグループの服部陽子に、改定に込めた思いとその狙いを聞きました。

「今」に合った行動の指針をみんなにわかりやすく、落とし込んで動けるように

ソニーグループ行動規範は20年近くの歴史があるものですが、あるべき基本的なルールが全て書かれており、わかりやすさにも配慮されたものでした。しかし、前回改定時の2018年から現在までの6年間だけでも、テクノロジーの進化など、さまざまな社会の変化がありました。

「たとえば宣伝や販売と一口に言っても、昔のテレビCMの時代と、今のデータを使ったデジタルマーケティングでは、やっていることが全然違います。技術もどんどん変わり、どこまではやってよくてどこからがダメなのかは、実際のビジネスのやり方にも大きく影響します」

こうした変化を踏まえて、「今」に合ったソニーの行動の指針になるよう、世の中の動向や技術の潮流などを反映していきました。昨今議論となっている、先端技術が及ぼす倫理的な影響も意識し、「責任をもって技術を活用する」という新しい項目も加えるなど、全体的な見直しも行いました。

時を重ねて変化したのは、ソニーの事業ポートフォリオも同様です。最初の行動規範が策定された2003年はエレクトロニクス中心でしたが、現在では、エンタテインメント領域が売り上げ構成比の半分以上を占めています。世界中のどの事業体の社員が読んでもわかりやすく、適切に行動できるようにするために工夫を加える中でメンバーが向き合ったのは、ソニーの事業の多様さでした。

「起草時の名残もあって、エレクトロニクスを思わせる書きぶりになっていた箇所がありましたが、時が流れ、6つの事業を中心とする形になっている今は、そのバランスをうまく表す必要があります。どの事業の人にも自分事として捉えてもらえるように、表現に注意を払いました」

服部はさらに、企業コンプライアンスにおいては昨今、ルールは何かが起こった時に会社と社員を守るよすがにはなるものの、あるだけでは駄目で、社員が使いやすく、分かりやすく、自分で動けるようなものに…という潮流があり、ルール全体がシンプルになってきていると説明します。そのため、各地域・事業のコンプライアンス担当や関連部署の全面的なサポートを得ながら、密に議論を重ね、何度も表現を書き換えていきました。

「大事な基本原則を示しつつ、それぞれの事業の現場で迷ったときに行動できるような補足情報を加えよう、という話になり、『広告宣伝やマーケティングについて、判断に迷うことがあれば法務部門に相談してください』と書くなど、より適切なガイドの仕方を検討していきました」

信頼を大切にしてきたカルチャーを引き継ぐ

行動規範が策定される2年前に入社した服部は、強く憧れていた当時の法務担当役員が、執務室で自ら行動規範を執筆する姿を覚えているといいます。

「『その方みたいになれるなら、法務の仕事はすごく楽しいだろうな。こういう方になりたい』と思っていた方が書かれたものだったので、このタイミングで改定の業務に携われたことは、巡り合わせであり、すごくありがたいと思っています」

そうしたものを改定するにあたり、意識したのは「継続性」でした。
「行動規範は2003年に策定されましたが、それはあくまでも文書化されたタイミングがそこだっただけ。ソニーブランドへの信頼や、倫理を大切にしてきたソニーのカルチャーは、もっと前からあるんです」

2003年に策定された行動規範(左)と2018年改定版(右)のブックレット

その「継続性」を伝えるために検討を進める中で見つけ出したのが、盛田の言葉です。1990年の社内報「タイムズ」に掲載された、盛田の社内向けスピーチとの出会いは、このプロジェクトの中でも思い出深い瞬間の一つだったと服部は振り返ります。

Our History of Ethical Culture 〜創業者の言葉から〜 ソニーはCBSレコードやコロンビア・ピクチャーズを買収し、今や日本の会社の代表であると同時に、最も進んだハイテクの会社として世の中から見られるようになってきた、知名度が高くなってきたということは、いつでも公に批判を受ける立場にあるということである。ソニーの知名度の高さを認識し、会社の広告、宣伝、パブリシティー、製品、サービスなど、自分たちの行動が今までどおりでいいのかどうか、反省をしなければならない時代が来ていると思う。 過去40数年の地道な努力の積み重ねによって、私たちのソニーが世界中から高く信用されるようになったのだということをもう一度よく考えていただきたい。会社の財産として蓄積されるものでなければビジネスとは言えない。製品、売り方、アフターケアに至るまで、一つひとつに細心の注意をはらっていかなければ、世界中に広がる見えない大衆の中に信用を築くことはできない。そう思ってこれまで努力してきたし、それを会社のポリシーとしてきた。その結果、今日ソニーの名声が世界中に確立され、多くのソニーファンを持つことができたのである。良い評価は簡単には作られないが、評価が悪くなるのはたちどころに起こる。人間に人格、人徳というものがあるように、会社もやはり人から愛され、リスペクトされる存在であり続けてほしい。 1990年7月10日社内報「タイムズ」 各事業トップの集まる年次グローバル会議での盛田昭夫のプレゼンテーション記事より抜粋 行動規範の冊子に掲載された、盛田昭夫のメッセージ

「ファウンダーが倫理的な文化についてなにかしら発言しているに違いないと思い、調べてみたら見つかったのがこのスピーチでした。どの言葉も、コンプライアンスを担当している者としては、とても身に染みるものです。もちろん、ソニーの今が大事で、未来に向かって進んでいかなければいけないけれど、昔から続く、前向きなエネルギーに溢れるソニーのカルチャーにも、行動規範を通じて是非注目していただきたいです」

改定こそがスターティングポイント

エシックス&トラスト部の業務には、ソニーグループにおける不正の防止が含まれます。法務・コンプライアンス領域でキャリアを重ね、社内外を含め多くの事例に触れてきた服部は、不正防止に向けた強い思いを持っています。

「グループのどこかのだれかがやったことが、ソニー全体のブランドを大きく棄損することがあり得ます。そんなことは絶対に起こしたくない。ただ、そのために『あれをしちゃ駄目、これをしちゃ駄目』と制限するのは、私たちのカルチャーとしては違和感があります。ソニーのPurpose & Valuesにもあるように、ポジティブなパワーとクリエイティビティを糧にしている会社なので、ソニーが大事にしてきたブランドへの信頼や倫理といった価値観を、前向きなエネルギーととともに行動規範で伝える方が、社員の行動につながると思っています」

また服部は、改定を終えた今こそが、スターティングポイントだと強調します。

「行動規範を読み、その内容について考えてもらうことで、新しい議論が生まれ、ブランドへの信頼や倫理の大事さがより身近に感じてもらえると思っています。社員の皆さんには、是非行動規範の中身を読み、自分自身はどうしていくのがいいのかを考える機会にしていただきたいです。また、社外の皆様には、私たちがこうした価値観の下、皆様からの信頼を重視し、長く関係性を築いていけるように留意して行動していることが伝わることを願っています」

服部 陽子(はっとり ようこ)

ソニーグループ株式会社 エシックス&トラスト部
エシックス&ポリシーグループ ゼネラルマネジャー
2001年にソニー株式会社(当時)に入社し、委員会設置会社の設立、情報開示などコーポレート関連の法務業務ののち、製品の技術規格アライアンス、取引契約や合弁・M&Aサポートその他事業にかかる法務業務全般に従事。
2019年よりコンプライアンス関連の業務を扱う部署(現エシックス&トラスト部)に所属。グローバル・エシックス&コンプライアンス・ネットワークにおけるグローバル・ストラテジー・リーダーを務める。