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ソニーの「インクルーシブデザイン」とは?CEATEC出展担当者に狙いを聞く

10月17日から開催される「CEATEC 2023」では、ソニーのアクセシビリティに配慮した製品・サービスとインクルーシブデザインに関する取り組みを紹介します。ソニーがインクルーシブデザインに取り組むに至った経緯と目的について、ソニーグループ(株)サステナビリティ推進部の西川文に聞きました。

ソニーグループ(株) サステナビリティ推進部 アクセシビリティ&インクルージョングループ 西川 文(にしかわ あや)

規制対応にとどまらないインクルーシブデザインの導入

——現在の役割を教えてください。

ソニーグループ全体で、アクセシビリティと、アクセシビリティを追求する上で重要なインクルーシブデザインの取り組みを推進しています。

——アクセシビリティとは、どういったものなのでしょうか?

年齢や障がいなど個人の特性や能力、環境に関わらず、商品・サービス・コンテンツを利用できるようにすることです。ソニーは、すべての人に恩恵をもたらすものとしてアクセシビリティを捉えています。

——ソニーがアクセシビリティに取り組むようになった経緯は、どのようなものだったのでしょうか?

2010年に米国でアクセシビリティの関連法案が成立した際、複数のソニー製品が規制に該当していたため、それに対応する活動を始めました。

ただ、規制に則してアクセシビリティ対応を進める中、「規制に対応するだけでは本当に必要な人のニーズを満たせていないのではないか?」という疑問が生まれてきました。そこから、障がい当事者と共に企画設計段階から検討する、インクルーシブデザインの手法を取り入れ始めました。

——インクルーシブデザインの重要性について分かっていたのですか?

私自身、人間中心設計(Human-Centered Design:HCD)の専門家として、利用者視点を製品・サービスへ生かす取り組みに携わってきました。その後アクセシビリティに関わり、インクルーシブデザインの重要性と可能性に改めて気づきました。インクルーシブデザインの導入を検討する過程で、試験的な運用やワークショップを行ったのですが、これまで見過ごしていた多くのことに気づかされ、また、そこから創出されるアイデアの豊かさから、ソニーがアクセシビリティを高めるうえで、なくてはならない有効なアプローチと確信したのです。

「なぜインクルーシブデザインを導入するのか?」を共に考える

——実際にどのように導入してきたのでしょうか?

インクルーシブデザインの有用性の実証と啓発の両方を目的として、インクルーシブデザインを使った開発プロジェクトを研究開発部門とクリエイティブセンターとともに立ち上げ、イベントに出展しました。

開発した試作と実際のプロセスをセットにして、2018年・2019年に社内技術交換会のSTEF(Sony Technology Exchange Fair)、2019年3月にはテキサス州オースティンで開催された世界最大規模のクリエイティブ・ビジネス・フェスティバル「SXSW(サウス バイ サウスウエスト)」に出展しました。連日長蛇の列で、ソニーは、Best Use of Technology賞も受賞しました。障がいのある社員と共に開発したものを、障がいの有無に関わらず多くの方に実際に試して楽しんでもらうことが、一番説得力があると考えました。

今年9月に実施したサステナビリティ説明会でのデモンストレーションや、CEATECで体験いただける展示は、このような活動が社内全体で広がり、発展したものになっています。

また、2019年からインクルーシブデザインのワークショップを実施しており、参加者は2022年度までに1,000人を超えました。部署・役職・世代問わずチームになり、何らかの障がいがある人たちと一緒に街へフィールドワークに出て、グループでディスカッションをしながら一緒にアイデアをまとめ上げます。

——社員の反応はどうですか?

「気づきの連続だった」、「自分の周りにいる障がいのある人たちと今後もっと積極的に関わっていきたい」、「インクルーシブデザインをすぐ職場に持ち帰ってスタートしたい」といった熱いメッセージをたくさんもらいます。

社員一人ひとりのモチベーションが大切で、思いが原動力となります。ワークショップでは方法論はもとより、実際に当事者と街を歩き、対話をする時間を大切にしています。現在、世界の6人に1人は何らかの障がいがあり、そういった現実に向き合ってこそ、本当に「世界を感動で満たす」ことができます。

インクルーシブデザインを「体験」できる展示

——CEATECの展示について教えてください。

今回は10件の展示をしますが、すべての展示案件でインクルーシブデザインが実践されています。ここでは、ソニー・太陽(株)とXperia™チームが一緒に取り組んだインクルーシブデザインについて少しご紹介したいと思います。

Xperiaの開発チームが、ソニー・太陽に在籍する弱視の社員とインクルーシブデザインの取り組みを通じて、フォト撮影機能「Photography Pro(フォトグラフィー プロ)」使用時に、水平が保たれているかを音で通知する機能を開発しました。

ソニー・太陽は1978年に設立され、全社員の約6割を障がいのある社員が占めるソニーグループ(株)の特例子会社です。ソニー・太陽では、障がいのある社員が働きやすい職場環境を整備することで、障がいの有無に関わらず社員が活躍しています。そんなソニー・太陽の社員がソニーの商品開発にも加わり、インクルーシブデザインを行うコラボレーションが始まったのです。

——どのような手順でインクルーシブデザインは行われたのですか?

まずXperiaの開発メンバーは、弱視の社員と一緒に街を散策したり、仕事をしたりしている様子を観察し、対話を持ちました。

そこで、スマートフォンで頻繁に写真を撮影し、写真のズーム機能を拡大鏡代わりに使っていることに気づきました。ただ、画面全体の構図を確認しながらの撮影はしづらく、あとで写真を見返すと、被写体が傾いて写っているなど、うまく写真に収められていないことが多い、という課題が見えました。

こういった気づきや課題は一見特殊な事象に思えるかもしれませんが、誰しも同じ事象や気持ちになったことがないかを「自分ごと」として振り返ることで、普遍的で重要な課題が見えてきます。

——自分ごととはどういうことでしょうか?

例えば、誰でも画面を見ずに撮影せざるを得ないとか、画面を見ずに撮影できると嬉しいといった状況があるのではないかなど、同じような問題に陥ったことはなかったかを振り返ります。人垣があればスマートフォンを上に突き出して画面を見ずに撮影したい、子どもの運動会では肉眼で見ながら応援したいけど、スマートフォンにも記録としてちゃんと残したいなど、「画面を凝視せず撮影したいのに、できない」ことは誰もが経験していて、見過ごしていた自分たちの課題と気づきます。

普遍的で重要な課題と捉えられれば、ここからは自分ごと、つまり、「みんなの課題」として解決する手段が対話の中から生まれてきます。今回の「Photography Pro」の水準器は、視覚情報だけでなく音による通知も実装し、誰もが撮影画面を凝視しなくてもうまく撮影できる取り組みにつながりました。

これ以外の展示も、ソニーのクリエイティビティとテクノロジーの力でみんなの課題として広くとらえた提案になっているのが特徴です。きっと楽しみながらいろいろな気づきを得ていただけると思います。

——CEATECに来場される方へメッセージをお願いします。

今回は次の10個の展示をします。

  • PlayStation®5用Access™ コントローラー
  • 網膜投影カメラキット『DSC-HX99 RNV kit』
  • デジタル一眼カメラα™(アルファ)の「音声読み上げ機能」と「メニュー画面の拡大表示」
  • XRキャッチボール
  • ウルトラライトサックス
  • 4K液晶テレビ ブラビア®
  • におい提示装置
  • 障がいのある社員が活躍するソニー・太陽とXperiaチームとのコラボレーション
  • スマートグラスによる会話支援プロジェクト
  • 外出時歩行支援プロジェクト

展示は共通して、すべてインクルーシブデザインから生まれた製品や取り組みです。また来場者に実際に体験いただくことにこだわり、実物を見る、操作するなどができます。ぜひ多くの方にCEATECソニー展示ブースにご来場いただき、意見交換ができればと思います。そして、感動を分かち合える未来のために、インクルーシブデザインの取り組みが社会の中でさらに発展していく機会になればと思います。

西川文プロフィール
ソニーグループ(株)サステナビリティ推進部 アクセシビリティ&インクルージョングループ ゼネラルマネジャー。人間中心設計専門家として、グローバルでユーザー調査を行う社内スキームの運営・実施に従事。現在は、アクセシビリティ・インクルーシブデザインの全社推進に取り組む。