最終回となる第7回では、コロナ禍でも社員が健康・安全に業務を続けられるようさまざまな施策を打ち出してきた、
ソニー(株)人事企画部および
HQ(Headquarters)総務部の方々に話を聞きました。これまでの対応と取り組み、
海外グルーブ会社との連携に加え、今後の新たな働き方への想いについてもお届けします。
ソニーグループ(株) エレクトロニクス人事部門
人事企画部 労政グループ
髙田 直樹
ソニーグループ(株) エレクトロニクス人事部門
人事企画部 労政グループ
市川 隼
髙田:昨年、1月下旬ごろに中国での感染が拡大する中で、外務省の海外安全情報を参考にしながら海外出張の原則禁止を順次行い、その後国内出張も原則禁止としました。
2月下旬ごろには国内でも感染が拡大しつつあったため、社内で感染者が出た際の対応方法を検討し始めました。もちろん、未知の感染症である新型コロナウイルスへの対策マニュアルなどは社内に存在しないため、重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)、新型インフルエンザなど、過去に発生したウイルスへの対応マニュアルを参照する形で、ソニーグループ(株) 専務 人事、総務担当の安部 和志さんや各ビジネスの人事責任者、HQ(Headquaters)総務部や産業保健部とも連携しつつ、厚生労働省の指針も確認しながら、一からマニュアルを作成することにしました。
国内グループ各社と連携した対応マニュアルが必要になると考え、3月初旬に国内グループ各社の人事担当者に対して、対応マニュアルを共有、説明する場を設けました。海外では国によって状況が違っていたこともあり、各社でそれぞれの国・地域に即した指針を出して対応をしていました。
市川:ソニーグループは当初から迅速に社員の健康・安全のための対策を打ち出せていたと思います。
髙田:トップマネジメントが初期段階で、「何よりも社員の健康・安全を一番に考えよう」という方向性を出しており、そうした指針のもとで関係部署や人事が連携して動けたことが迅速な対応につながったと思います。
髙田:ソニーグループ(株) 副社長 兼 CFOの十時 裕樹さんのもとで設置された、新型コロナウイルス危機管理本部にエスカレーションされ、一件一件対応を行いました。ピーク時には危機管理本部の定例が毎週開催されており、定例以外でも必要に応じて密にコミュニケーションが行われていました。
また、大きな方向性がトップから出された後は、現場で判断を行える裁量権を与えられていたので、危機対応時にもそれぞれのリーダーが自立して判断をするソニーのカルチャーが出ているなと思いました。
市川:一担当者の意見であっても、必要だと判断されたアイデアや提案に関しては、全員で議論しながら具体的な施策に昇華させていくことが多々ありました。一人ひとりの意見がさまざまな場面で尊重されるという点で、ソニーの強みを身をもって実感する経験でもありました。
市川:当初は、新型コロナウイルスの感染経路などが不明だったこともあり、産業医や総務とも相談しながら、社員の健康・安全を守るために、フィジカルディスタンスの距離を長めに設定するなど、国のガイドラインよりも厳しいレベルで、安全に配慮したマニュアルを作成しました。現在も国内外の状況や現場の実情などを確認しながら、適切な対応を取れるようガイドラインの改定を重ねています。
髙田:産業医が所属する医学会で議論されている内容を共有してもらいながら、社員の安全を第一に議論を進めました。こうした対応が、ソニーにおける新型コロナウイルスの感染拡大の防止につながっていると思っています。
市川:従来、在宅勤務の終日利用回数は月10回まででしたが、2月中旬からコロナ禍での特別対応として、その上限回数を廃止しました。「原則在宅勤務」というアナウンスを早期に出したことも、感染リスクの低下につながっていたのではないかと思います。
髙田:原則在宅勤務としたことから、在宅勤務ができるインフラ整備も急務の課題でしたが、ソニーグループのITインフラ中枢を担うソニーグローバルソリューションズ(株)の強力な支援のもと、事業を継続するために必要なリモートワークの基盤であるネットワークなどを整備しました。
髙田:ソニーでは2008年から在宅勤務制度を導入しており、2018年に現在のフレキシブルワーク制度として刷新しました。そのため、以前から在宅勤務が可能な状況でしたが、社員およびマネジメントの中で、「本当に原則在宅勤務で業務ができるのか」といった不安もあったと思います。しかしながら、社員一人ひとりが試行錯誤しながら、自身の業務をいかに在宅でできるか工夫したことで、大きな混乱もなく業務を継続できているのではないでしょうか。その結果として、誰しもがコロナ禍で「新しい働き方」を体感できたのではないかと思います。
一方、課題としては、「部下と上司間でアウトプットや質に対する認識に差が生じている」といった声があがっています。また、出社時には周囲に同僚がいることから、「自分を認知してもらえている」という心理的安全性が担保されていますが、在宅勤務だと孤立感や孤独感を感じてしまうこともあると認識しています。改めてメンタルサポートの重要性を感じています。
市川:やはり、慣れない環境で心身ともに負荷がかかっている社員もいると思いますので、そうした方には産業保健部を紹介しています。また、人事からも定期的に「ウェルビーイング(Well-being):身体的・精神的・社会的に良好な状態」に関する社内メールを出すなど、さまざまなアプローチを行っています。
市川:チーム間でのコミュニケーションの取り方や、コロナ禍での働き方に必要なtipsをガイドラインやマニュアルとして全社員へ発信する検討も進めていました。ただ、ソニーには多様な事業があり、多様な働き方があるため、そういったものを本社が一律で制定するのではなく、各個社でそれぞれのやり方にあわせたガイドラインを出しています。
髙田:ソニーグループには、多様な事業があり、それを支える多様な社員がいます。多様性を生かし、社員一人ひとりが自立的に考え行動するカルチャーが根付いており、それは創業以来から受け継がれています。こうした組織風土とソニー社員一人ひとりの個の力が発揮されたからこそ、今回の危機に立ち向かえているのだと思っています。また、トップマネジメントだけでなく、マネジメント全員が社員の健康安全を最優先に考え、日々変化する国内の感染状況をふまえて臨機応変に対応できたこともあって、感染拡大を抑えられていると思います。
髙田:新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着いて平常時に戻ったとしても、コロナ禍以前とまったく同じような働き方に戻ることはないのではないかと考えています。今後はどのような形で出社と在宅勤務を組み合わせるかなど、それぞれの職場の状況やマネジメント、社員の意向などを総合的に判断し、恒久的な人事制度を作っていかなくてはいけないと思っています。
ソニーグループ(株) HQ総務部
サイト総務グループ
矢澤 亜紀子
ソニーグループ(株) HQ総務部
RMグループ
大塚 修弘
矢澤:昨年、1月末にはアルコール消毒液の設置を始め、2月には食堂での提供方法見直しや、感染者が発生した際の消毒作業方法・消毒範囲の想定、社員に対する周知の準備などを行いました。
3月に入ってからは、在宅勤務に切り替える職場が増え始め、フラッパーゲート通過人数をベースとした毎日の在館者数レポートをスタートしました。出社人数の変化をチェックし、それに応じて食堂の提供メニュー数や準備数を調整することによって、食堂運営における食材やコストのロスを抑制しています。また、総務業務や建物設備業務は、社員が業務を行う上で止められないサービスも多いため、総務の現場を担う(株)NSFエンゲージメントのサイト総務チームでは、万一に備えて出勤社員の勤務場所を分離する分散勤務なども行いました。在館者数レポートは、現在は出退勤時の混雑を避けるための情報として、社員にもMicrosoft TeamsやIPA(日々の情報収集と付帯業務をサポートするマイポータル)を通じて情報提供しています。
矢澤:原則在宅勤務に切り替わった4月には、緊急事態宣言下でも出社して業務を行う必要がある社員をいかに守るかが課題になりました。発熱者の入館を抑止するため、当時はまだ発売直後だったAI検知による検温機器を4月下旬に各拠点へ導入しました。今はいろいろな場所で見かけるようになった検温機器ですが、当時はまだこのような機器が普及しておらず、大人数をいかに短時間で安全に検温するかが大きな課題でした。夏場には外気温が検温機器に影響を及ぼすことがわかったため、厚木テクノロジーセンター(TEC)正門にはプレハブの検温所を設置するなどの対策も行いました。
また、それと並行して、緊急事態宣言解除後に社員に安心して出社してもらうための社内の感染対策にも着手し、フィジカルディスタンス確保を前提とした会議室・エレベータの利用人数制限や食堂の利用可能席制限、飛沫感染防止用パネルの設置(一部)、アルコール消毒液や消毒シートの追加設置などを行ってきました。
その後も、拠点ごとの業務特性や出社社員数、施設の利用状況などを確認しながら、必要な対策の見直しを続けています。
矢澤:髙田さん、市川さんのお話にもありましたが、中国での感染拡大が始まった1月末に人事・総務・産業保健の対策チームが立ち上がり、三者一体となって課題共有・対策協議を行い、産業医による医学的な見解も踏まえながら必要な対策の検討を行ってきました。また、上位会議体として、経営層による新型コロナウイルス危機管理本部定例会議が招集され、ソニーとして社員に対してどのような感染対策を行うか、トップマネジメントによるディスカッションも重ねられました。現在のフィジカルディスタンスを前提としたオフィスは、それらの議論を通じた課題認識や各組織の出社人数規模、発生コストなどを加味して、一つひとつ決めてきています。
たとえば、すべての座席や会議室に飛沫感染防止パネルを立てるということも可能ですが、在宅勤務が中心となっている今の働き方では、その投資が無駄になってしまう場合もあります。利便性とコストのバランスを意識した仕様になっていますので、フィジカルディスタンスを前提とした場所の利用にあたっては、その場所のガイドに応じた利用にご協力をいただいています。
大塚:ソニー総合防災本部にて、国内社員向けの1か月分としてマスク200万枚を備蓄し、ゴムの劣化や変色等が発生していないか、定期的に確認しながら厚木TECで保管していました。1月に武漢が都市封鎖された直後、当局からの指示で中国事業所の操業条件が示され、全員マスク着用も条件の一つだったことから、中国リージョンの総務機能統括組織から備蓄マスク支援の緊急依頼がありました。社員の健康と安全、中国事業所の生産活動を止めないために、(株)NSFエンゲージメントと連携しながら複数回に分けて約50万枚のマスクを輸送しました。最初の輸送時は、現地の混乱にともなうトラブルの可能性も懸念していたため、通関手続きを無事に通過し到着の報告があったときは、関係者一同で安堵しました。中国各事業所のビジネス早期再開や、社員の健康と安全の確保に大きく寄与できたと思っています。
その後、感染拡大に伴い、国内グループ会社を始め、アジア、ヨーロッパ、アメリカの各グループ会社からもソニー総合防災本部に依頼があり、最終的に120万枚以上のマスクをソニーグループ向けに輸送・支援しました。
中国事業所へマスクが無事に届いた様子
大塚:現在は、中国事業所で社員用マスクの生産が開始され、社内で使用されています。ソニー総合防災本部では、このマスクを今後の備蓄マスクとして新たに採用することにしました。このマスクが安心・安全・安定調達に資すると考えています。また、今回のパンデミックで得られた教訓を踏まえて、ソニー総合防災本部の備蓄マスクを、全世界のソニーグループ会社向けの備蓄マスクとして位置づけ、そのための準備(スムーズな通関手続きなど)を進めています。
大塚:ソニーグループでは、インシデントが発生した際にソニー総合防災本部に緊急報告が入り、必要な関係者と情報を共有する仕組みがあります。今回はグローバルかつ甚大な影響が生じたので、ソニー総合防災本部で全地域担当者とコミュニケーションを取りました。感染が徐々に拡大していく段階では頻繁にメールや電話、オンライン会議などで情報共有を行っていましたし、現在も地域ごとの状況に合わせて週次・月次の情報共有・議論を続けています。
大塚:パンデミック初期は新型コロナウイルスが未知の病気・ウイルスだったため、まず情報が不足していました。国や公的機関からの対策指針やガイドラインを参照しながら、不明な点は各国・各地域の情報を地域担当者と情報交換しながら、対策に反映していくことが重要でした。現状、事業所やオフィスにおける感染予防対策の具体的な内容は、国・地域の感染状況や文化・生活習慣によって違っています。国や地域(アメリカでは州単位)によってそれぞれのガイドラインがあるため、コンプライアンスの観点から各社の基本施策は各社に任せています。たとえば、ヨーロッパでは社員同士の感染に繋がるという考え方からフリーアドレスは推奨されていません。またヨーロッパ・アメリカともに、できるだけ接触を減らすためにオフィス通路は一方通行が基本になっていたりもします。そうした施策の違いを相互に共有し理解することで、地域ごとの対策の見直しや合理性の確認に役立っていると感じます。
矢澤:在宅勤務が定着し、在宅勤務の継続を希望する声がある一方で、対面でのコミュニケーションを取る必要性や、在宅勤務による身体的影響や業務効率の面から、自宅に近いエリアにあるオフィス環境で業務ができるようにしたいなどのニーズも聞かれるようになってきました。対面による会話や通勤時の感染などのリスクを抑えた上で、事業活動をサポートできるオフィスのあり方については、現在まさに議論を行っているところです。今はまだウィズ・コロナ期の真っ最中ですが、この先のアフター・コロナもイメージしながら、これから先のソニーグループのオフィスと拠点のあり方を意識し、いくつかのパイロット事例を作っていきたいと考えています。
また、比較的出社率が低い事務系の職場を中心に、フリーアドレス・ABW(Activity Based Working)のトライアルも始まっています。コロナ禍以前には、一般的に座席を固定しない働き方は難しいと言われていましたが、在宅勤務の経験を通じて固定席でなくても働けるということが再認識された結果だと思っています。職種ごとの多様性も尊重しながら、働きやすさ・感染対策・スペース効率などのニーズを支援できるオフィスづくりを考えていきますので、社員一人ひとりの声も反映していければと思います。