クリエイターの声に寄り添ったソリューションを。バーチャルプロダクション向けCrystal LED VERONAとバーチャルプロダクション事業戦略の商品・事業企画担当者の思いとは。
大型ディスプレイに映し出した3DCGなどの背景映像でスタジオ内に仮想空間を創り出し、その中で人物など実在の被写体の撮影と合成を同時に行う映像制作技術バーチャルプロダクション。クリエイターの創造力を広げる技術にとても心を揺さぶられますよね。
そして、ソニーには、高画質LEDディスプレイCrystal LEDが存在します。2023年9月には、バーチャルプロダクションによる映像制作向けに最適化したCrystal LED VERONA(以下、VERONA)を発表しました。開発するにあたり、どのようにクリエイターやユーザーの声に耳を傾けて取り入れたのか。そしてVERONAをはじめとしたソリューションにより、バーチャルプロダクション事業はどのように進化していくのか。VERONAの商品企画・バーチャルプロダクション事業戦略を担当する望月さんに、事業の魅力ややりがいも含めてお話を伺いました。
- 渡部 優基
もっと自由な表現を可能にするソリューションを。
── VERONAとはどのような製品なのでしょうか。
ソニーのLEDディスプレイであるCrystal LEDをバーチャルプロダクションによる映像制作向けに最適化した最新型の製品です(VERONAを使った実例についてはこちら)。そもそもバーチャルプロダクションは背景映像の仮想空間と実物の被写体を同時に撮影し、合成する制作環境を実現する技術ですが、それに適するよう従来のものからさらに画質を向上させました。また、多様な設置環境に応じてディスプレイを組み立てて、撮影が終わったら解体して次の場所に持っていくという運用形態を想定して設置性や操作性など、ディスプレイとしての性能のみでなく撮影ワークフロー全体の向上を主眼に置いた商品になっています。
── クリエイターの要望に寄り添った製品とのことですが、実際にどのようにクリエイターの声をくみ取っていたのですか。
国内外問わずいろいろな場所にサンプルを持ち込んでたくさんの方に見てもらい、良い点だけでなく、悪い点も含めた率直な意見のヒアリングを何度も繰り返しました。
バーチャルプロダクションを用いて撮影されるコンテンツは映画やCM、ミュージックビデオなど多岐にわたります。それぞれのスタイルで予算や制作期間などは全く異なりますし、撮影監督やカメラマン、照明技師、映像の加工(VFX)を担当する方など、制作工程に携わる一人ひとりが異なる角度の意見を持っています。それらの声をできるだけ拾い上げ、製品づくりに落とし込んでいます。
VERONA以外にも、監督や撮影監督などのクリエイターのビジョンに近づけるために、ソニーのデジタルシネマカメラ『VENICE』の各種カメラ設定を仮想空間上で事前にシミュレートし、LED画面をVENICEで撮影した場合の色を忠実に再現できるソフトウェアを開発・提供しています。クリエイターがクリエイティビティを最大限発揮できる環境を意識しています。
また、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントをはじめ映像コンテンツ制作やポストプロダクション※ などの最先端のクリエイターがグループ内にもいるので、彼らと積極的にコミュニケーションを取ることでユーザー視点からの意見を得ています。グループ内という身近なところからも意見をもらえる環境であることは、ソニーならではの強みだと思います。
※ポストプロダクション:映像コンテンツの制作過程において、撮影が終わった後の編集や修正などの仕上げ業務を行う/サポートする企業を指す。仕上げ業務そのものを総称する意味合いも持つ。
クリエイターと一緒に、業界を作っていく。
── クリエイターの声を製品づくりに落とし込む際に工夫されたことはありますか。
いろいろな意見や要望から、共通する根本的なニーズをくみ取ることを意識しています。何がなければいけない条件で、何があった方がよい条件なのか見極める。これはどの製品を担当するにしても必要だと思います。VERONAが他と異なる点としては、バーチャルプロダクション自体が比較的新しい技術で、業界が発展途上であるということが挙げられます。何が正解かをユーザー側も知らない部分もあるため、開発側とユーザー側が一緒になって業界を作っていくことを目指して開発しています。欧州や米国など世界中を飛び回りながら、最先端のクリエイターといろいろな話をして、助け合いながら製品を共創していくのはとても刺激的で楽しいです。
── グループ内に最先端のクリエイターがいたり、グローバルに飛び回って最先端の技術や製品を作り上げていくことができたりするのは、とてもソニーらしい強みですね。
そうですね。バーチャルプロダクションはVERONAのようなディスプレイだけでなく、カメラやソフトウェアなどさまざまな技術が集結してできているのですが、それぞれの分野で業界を引っ張ってきたスペシャリストたちがソニーに集まっているのも強みの一つです。スペシャリストのノウハウがすごくてついていけないくらいですが、私自身も法人向け商品・サービスの事業企画や事業戦略の経験や知識を生かして、連携しながら製品を作り上げています。一人ひとりがユーザーの声をとても大事にしていて、何かよいものを作ろうというモチベーションや挑戦心があるところが非常によいなと感じます。現場の声が大事だと私もずっと思っていたので、今の職場はとても自分の希望にマッチしていると思います。
一番大事なのは、やはりクリエイターの声。
── VERONAなどのバーチャルプロダクション向けの製品を提供するだけでなく、それらのワークフローをつなぐソフトウェアを開発されたとお聞きしました。
LEDで発した光をカメラで再撮影する際に、少し色が変わってしまうので、LEDの補正を行う必要があります。そのような色彩の調整や画角などを事前にシミュレーションし、撮影のワークフローを効率化するVirtual Production Tool Setと呼ばれるソフトウェアを開発しました。撮影現場に行く前にクリエイターが持っていたビジョンをそのまま再現する。これは、バーチャルプロダクションの要素技術をすべて持つソニーだからこそ作れるソフトウェアです。
このソフトウェアの開発においても、さまざまな制作現場に持ち込んで実際にツールを使って撮影してもらって、いただいた意見を製品に反映させることを繰り返しました。
── やはりクリエイターの声を大事にされているのですね。
業界に非常に近いところで開発を行えるのは法人向けビジネスならではの強みで、ユーザーの顔がわかるのです。そういう距離感の方々から忌憚ない意見をもらえるのは、とても貴重だと思います。それに、これは法人向けビジネスに携わる人ならみんな同じだと思うのですが、実際に製品を使うプロフェッショナルな方々に褒められたり評価されたりするのが一番うれしいです。一方で、最先端の制作現場で厳しいご意見をいただくこともとてもありがたいです。そうした声は期待しているからこそいただけるものだと思うので、企画者としてはそういう声も大事にしています。
── 先ほどユーザーと一緒に業界を作っていくというお話がありましたが、このVirtual Production Tool Setも業界に浸透させていきたいですか。
そうですね。基本的に展示イベントではVERONAだけでなく『VENICE』やソフトウェアなど、さまざまな製品を紹介して、情報を常に発信し続けています。他にも販売促進のためのビデオを制作したり、Virtual Production Tool Setの使い方のチュートリアルビデオを作ってYouTubeに掲載したり、活用方法を広める活動にも力を入れています。
周りの仲間とともに、より良いものを作っていく。
── このVERONAを今後どのように売り出していくのでしょうか。
これからもっと多くのクリエイターに使ってもらい、VERONAを使用して撮影した作品が世の中に出回り、それを見たクリエイターに自分もVERONAを使ってみたいと思ってもらい、波及効果のように市場を作っていきたいと思っています。VERONAはもちろん『VENICE』やVirtual Production Tool Setも一緒に広めていくことで、クリエイティビティあふれるクオリティが高い作品が世の中にたくさん生まれ、業界に良い影響を与えられるよう貢献したいです。
── 望月さん自身は今後どのような人材になりたいですか。
まずは業界のキープレイヤーといわれるクリエイターの方々に広く認識され、信頼される人になりたいです。また、私自身別の業界から転職してきた身なので、異なる視点から新しい事業やビジネスを作って引っ張っていけるようにもなりたいです。それが経験者入社である私の役割の一つでもあると捉えています。
何より、クリエイターに寄り添ってより良いものを作り出していく、社歴に関係なくアイデアを出し合って、仲間と一緒に最先端のものづくりにチャレンジしていく。そういったDNAがソニーにはありますし、それが大きな魅力だと感じています。周りのスペシャリストたちと一緒に世の中に良い影響をもたらせるようソニーの価値を上げていきたいです。
<編集部のDiscover>
クリエイターに寄り添うだけでなく、クリエイターと一緒に業界を作っていく。その言葉と、それを語る望月さんの姿を見て、私もワクワクを抑えきれませんでした。周囲のメンバーの高い技術力やチャレンジ精神をとても魅力的だと話す望月さんから、今の業務や職場に対する愛情がひしひしと伝わってきます。仲間と共に作り上げたものが、市場や業界を作り上げていき、世の中に良い影響を与えていくことを想像すると、とても胸が躍ります。社会に影響を与えられるようなものを作り上げられる、そんな人材にいつかなれるよう私も頑張りたいです。