好奇心とこだわりを持って「わが子」の成長を見守る、商品企画という仕事。
ソニーグループ(以下、ソニー)は、さまざまなカテゴリの製品を世の中に出していますが、本記事では、製品づくりに欠かせない職種の一つである商品企画にフォーカスします。話を聞いたのは、2024年5月に発売された「ULT POWER SOUNDTM」シリーズ※(以下、ULTシリーズ)の商品企画を担当したお二人。スピーカーを担当した滝本さん(写真右)、ヘッドホンを担当した北尾さん(写真左)です。ソニーの製品はどのようにして生まれるのかに迫ります。
※ULT POWER SOUNDシリーズの詳細は「ULT WEAR スペシャルサイト」「ULT FIELD 1 スペシャルサイト」をご覧ください。
商品企画担当は、製品について一番知っている人
── お二人は商品企画担当とのことですが、お仕事の内容を教えていただけますか。
滝本:一言で言えば、製品を生み出すための企画から市場に向けた発売まで、全てに関わる仕事です。まず、どのような製品をつくるのか案を考え、デバイスや設計に関わるエンジニアやデザイナーと製品の詳細を考えます。製品ラインナップ等まで決まった後は、セールスやマーケティングの担当と相談して、市場に向けた販売戦略を検討します。仕事の流れは製品によって多少異なりますが、私たち商品企画の担当者は、基本的には「その製品についてなんでも知っている人」として関わっています。
── 聞くだけでも関係者の多さが想像できます。お二人はなぜ、商品企画のコースで入社したのですか。
北尾:大学でプロダクトデザインを専攻していたこともあり、学生の頃から研究の一環でプロダクトの企画に関わっていました。その中で、新しいものを考えて調査することにやりがいを感じていたため、商品企画の仕事をしたいと考えていました。また、技術力が高ければ高いほど、製品の企画の幅も広く、楽しいと感じた経験もあり、そういった視点からもソニーに入社を決めました。
滝本:私は大学ではサービスデザインを、専門学校では服飾やグラフィックデザインについても学んでいたことから、企画の仕事に興味を持っていました。また、会社では、自分にはない知見や技術力を持った方々と、一人の力で作れないものを作りたいと思っていました。ソニーはさまざまな技術やコンテンツIPを持っていて、できることが幅広そうだと思ったこと、またコース別採用を行っているので、入社後の姿が想像しやすいことに魅力を感じて決めました。
届けたい体験をかたちにする
── 今回お二人が担当されたULTシリーズについてお伺いしたいのですが、この製品を企画することになった経緯を教えてください。
北尾:音楽ライブの会場にいるからこそ感じられる音のパワフルさを提供したいという思いを以前から持っていました。最近では楽曲配信サービス等の発展により、個人が好きなときに、好きなように音楽を聞く機会が多くなりましたが、依然としてライブが人気であることに着目し、ライブと同じような音楽体験を届けたいという思いが今回の企画の起点となりました。
── 音のパワフルさがポイントですね。ソニーでは近年、複数の製品カテゴリにまたがったシリーズが多く発売されているイメージがあります。
滝本:最近はシリーズものも多いかもしれませんね。ただ、企画する段階でシリーズで出したいと意識していることは少ないと思います。企画する際にその製品を通してどのような体験を提供したいかという観点から考えることが多いです。
北尾: ULTシリーズでは、ライブの持つパワフルさを表現できる製品として、スピーカーとヘッドホンをつくりました。カテゴリの枠を超えて展開したことで、より幅広いシーンで活躍できるシリーズになったと思います。実際に私もULT WEARとULT FIELD1を使い分けて楽しんでいます。
── では、ULTシリーズについてお気に入りのポイントをそれぞれ教えてください。
滝本:音圧と低音の迫力がとても気に入っています。海外のお客様の意見を取り入れるために世界各地のソニー社員を集めて、それぞれの国・地域でよく聴かれているジャンルの楽曲をかけてスピーカーの音質について意見をもらう機会もつくりました。
北尾:ボタン一つで低音のバランスを変えられるところは、特にこだわりました。このボタンを搭載するために、設計に関わるエンジニアやデザイナーだけでなく、アプリケーションやソフトウェアに関わるエンジニアとも話し合いを重ねました。実現できて本当に良かったです。
マニュアルはなくても、経験の蓄積がある
── ULTシリーズの企画を通して、北尾さんの苦労したことや印象に残っていることを教えてください。
北尾:印象に残っているのは、パッケージデザインの部分です。ソニーの製品として、他の製品とも共通したデザインは残しつつ、ULTシリーズの独自性としてロゴや使用感がわかるような写真を入れたいという気持ちがあり、デザイナーの方と相談を重ねました。企画内部でもさまざまな意見があり、頭を悩ませたこともありましたが、結果的に満足のいくものが出来上がったと感じています。
── パッケージのデザインにも関わるのですね。幅広い業務を担当することについて、不安になったりはしませんか。
北尾:分からないことの方が多いです。ただ、身近なことはチューターや同僚、上司に質問したり、技術的なことについては設計の担当者に教えてほしいと気軽に頼めるので、環境は整っていると感じます。
滝本:製品のカテゴリや、発売段階での市場の状況によってプロモーションなどの施策も異なるため、商品企画においてはマニュアルがありません。一方で、製品を担当すればするほど他部署の社員と知り合う機会も多くなります。そうしたつながりから、自分一人では分からなくても、あの人に聞いたら分かるかもしれないとすぐ行動して確認することができ、その経験がまた勉強になります。究極のOJT(On the Job Training)と言っても良いかもしれませんね。
── 経験を通して成長していくのですね。続いて、滝本さんの印象に残ったことを教えてください。
滝本:市場調査のためにインドを訪れた際、現地の方のお宅にお邪魔したり、ホームパーティーに参加させていただいたことが特に記憶に残っています。ULTシリーズの大きなスピーカーは、ホームパーティーなどで集まって大音量の音楽をかけて踊るような文化のある海外のユーザーをターゲットに企画しました。企画段階において、調査データなどからユーザーのことを理解できているつもりでしたが、実際に現地の文化やライフスタイルに触れることで、あらためてこの製品の意味や、製品に求められる機能を理解しました。本当に良い経験だったと感じています。
── 日本だと日常的にホームパーティーを行う文化がない分、海外では新たな発見も多そうですね。
滝本:本当に多かったですね。スピーカーは現地の方の生活に欠かせないものだそうです。データからは得られない、現地で直接聞いたからこその発見から、良い製品を作ろうという気持ちがより高まりました。
── 皆さんは企画の際、このような調査で海外に行かれるのですか。
北尾:製品のターゲットとなる地域やユーザーを現地で調査することは多いです。新しいコンセプトやシリーズの立ち上げでは、定量的なデータにとどまらず、定性的な意見を直接聞くという姿勢は特に強いと思います。
── だからこそ、多くの人に選ばれる製品が生まれているのですね。商品企画の仕事のやりがいは、どんな時に感じますか。
滝本:企画した製品が市場に出て、ユーザーの方々に私たちの思いが届いたと感じるときです。製品のことを「この子」と呼んでしまうほど愛着を持って関わっているので、発売以降SNSなどに書き込まれた製品に対するレビューは必ず確認しています。そのときに、私たちのこだわりが伝わり、喜んでくださっているコメントを見たときには本当にうれしくなりますし、このときの喜びが、また次の商品企画へのパッションにつながっています。
好奇心とぶれない思いで、新しい製品を世に
── 商品企画の仕事に向いている人とは、どのような人だと思いますか。
北尾:「聞く」と「伝える」が使い分けられる、相手に合わせたコミュニケーションを取れる人だと思います。また、多様なソニー製品を扱うので、もともとプロダクトが好きな方や好奇心のある方もこの仕事に向いていると思います。
滝本:どのような状況でもゴールを見失わずにプロジェクトをリードできる人でしょうか。例えばデザイナーとエンジニアがそれぞれ違った提案をした場合、どちらもよいなと結論が出せずにいるとプロジェクトを止めてしまいます。そうならないためにも、商品企画担当者は、チームの目指すべき方向を定める重要な役割を担っていると感じますし、みんなの意見を踏まえてプロジェクトを推し進められるような人が特に向いていると思います。
── コミュニケーションスキルの重要性をひしひしと感じますね。今後つくってみたい、あるいは関わりたいと思っている製品はありますか。
滝本:まずは、立ち上げたばかりのULTシリーズをもっと多くの方に知っていただけるような施策に取り組みたいと考えています。また、これに関連して、ヘッドホン以外での音楽の聴き方を伝えられるようなプロモーションも考えてみたいですね。
北尾:私は関わりたいと思っていたゲーミングヘッドセットの企画に今実際に関わることができているため、次に何に取り組むか悩んでいます。ただ、今の世の中にないような新しいものをつくりたいという思いは一貫して持っているので、これまでとは全く異なる体験が提供できる製品にチャレンジしてみたいですね。
── 面白くて、新しいもの。楽しみに待っています。最後に、読者へのメッセージをお願いします。
北尾:商品企画の担当は、文理問わずさまざまなバックグラウンドを持つメンバーがいます。たとえ大学で学んでいることや今までのキャリアが直接関係していなくとも、挑戦しやすい職種であるところが面白いと思います。そして、学生のときに取り組んでいたことや、個人的な趣味が仕事につながることも多いので、ぜひさまざまなことに挑戦していろいろな経験をしてほしいです。
滝本:技術、マーケティング、デザインについて多くの方と検討し、一つの製品に落とし込む中でたくさんの発見があり、一人ではできないことができるというのはすごく楽しい仕事だと感じます。そして、ソニー製品の魅力や込められた思いを届けられるのは、この商品企画という仕事の醍醐味だと思います。私たちの話を通して、ソニーの商品企画の魅力が伝わっていたらうれしいです。
<編集部のDiscover>
撮影の際に着てくださった「ULT」とプリントされたTシャツは、北尾さんがデザインされたそうです。これまでの経験を仕事に生かす機会があるのもソニーの魅力だとあらためて感じました。また、1つ質問をするといくつものエピソードを返してくださるお二人のコミュニケーションスキルの高さを感じた取材でした。何よりも、企画した製品に対するお二人の熱い思いがひしひしと伝わってきて、なんとも人間味あふれる商品企画という仕事の魅力を感じました。今後もお二人の企画される製品を楽しみに待ちたいです。