あらゆる人に起業の機会を提供し、アイデアと人を結びつける「Sony Startup Acceleration Program」とは。
自分のアイデアが形になる。興味が湧きませんか?
ソニーには、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に、社内外の新規事業やスタートアップの課題解決、新たな企業間連携スキームの構築を含むオープンイノベーションを促進するためにつくられた「Sony Startup Acceleration Program (以下SSAP)」というプログラムがあります。2014年にSeed Acceleration Program(以下SAP)として始まり、2018年からは社外にもサービス提供を開始しました。アイデアの実現をどのようにサポートしているのか。SSAPを立ち上げ、以降数々の新規事業の創出に携わる発案者の小田島さんに、人の才能の開花・新たな価値の創造に対する熱意を伺いました。
- 渡部 優基
「天才」を待つのではなく、新しい価値が生まれる「仕組み」をつくる。
── 2014年のSAP発足時、厳しい経営状況にあったソニーでは新規事業の創出において「天才」の登場を待ち望む声があったと聞きました。そのような状況に対し、小田島さんはどのような課題意識をお持ちでしたか。
当時のソニーは厳しい経営状況が続いていて、どうにか脱却しようと頑張っていました。なかなか打開できない中で、天才が現れないと、新しい価値が生まれないのではないかという声を聞くようになりました。しかし、本当に必要なのは実は「天才」ではなく「仕組み」ではないかと考えたのです。
── 小田島さんはなぜそのように考えるようになったのでしょうか。
ソニーで役員もしていたOBにヒアリングをしたところ、「天才」に頼っていたわけではなく、組織やマインドセット、そして社員の地道な努力の積み重ねによって成長していたことがわかったのです。加えて、ソニーと社歴も近く継続して成長している海外の企業に目を向けたところ、新しい事業が次々と生まれ、若い世代がどんどん台頭できるような仕組みが整備されていることがわかりました。これらを通じ、継続的に新しい事業を創り出すために、ソニーでもそのような仕組みが必要だと思うようになりました。
── それから「仕組み」をつくることに取り組まれたのですね。なぜ会社が厳しい経営状況の中でも仕組みづくりに取り組むことができたのでしょうか。
仕組みができれば、厳しい経営状況にあっても会社全体に活気が出てくるのではないかという予感はありました。また、後のSAPにつながる企画書を提出する段階では、自分が現場の課題をヒアリングした100人以上の社員が協力に前向きだったので、新しい取り組みに対する期待とエネルギーも感じていました。
「イノベーションは、アイデアと情熱の掛け合わせ」。人が持つ情熱に、起業のノウハウと経営力を育てるための場を提供する。
── エネルギーをもって起ち上げられたのですね。これまでSSAPを通じて社内外で数々の事業が創出されていますが、新規事業創出の仕組みを整えるうえで難しかったことはありますか。
財務的・環境的な壁を取り払い、事業創出に挑戦できる環境を提供するだけでは、アイデアがなかなか育たないという点です。プロジェクトメンバーは自分のアイデアや事業に対する強いビジョンを持っていますが、それを高いレベルに引き上げるスキルはまだ備わっていないことが多いです。しかし、製品・サービスとして売り出すためには一定以上の品質にしなければならないので、向上させるためのサポート体制を整えました。例えば、事業化に必要なさまざまなノウハウを提供し、メンバーたちに伴走しながらサポートする存在として「アクセラレーター」(加速支援者)を導入しました。また、事業に携わるメンバー自身が大企業でゼロから事業を創る力やマインドセットを鍛えるため、SSAPの実体験を生かしたイノベーションアカデミーという学びの場も設けました。
── アイデアを形にする仕組みだけでなく、学びの場まで提供されているのですね。SSAPを通してどのように成長してほしいと思われていますか。
やはり経営力を身につけてほしいと思っています。事業全体をコントロールするためには、個人としての能力だけでなく、全体を見渡す力が必要です。経営は、シンプルにいえば課題を見つけて、対策を施して、対価を得ることです。このサイクルを大人数で提供するようになると、一つのビジネスになる。SSAPを通して実際に製品やサービスを立ち上げることで、ビジネスの大きな流れを知り、経営に関する知見を深めてほしいです。
── 実際に起業する経験は、経営について学ぶ貴重な機会になりますね。SSAPで新規事業を支援するアクセラレーターにはどのような人が向いていますか?
SSAPの「あらゆる人の発想を実現させ、豊かで持続可能な社会を作り出す」というPurposeに共感する人や、相手が知らないノウハウを伝えて応援したい意欲がある人は大歓迎です。社内の人材に加え、ソニーに専門性がない領域では、経験者採用も積極的に行っています。また、新卒の方に対しては自分の情熱に素直でいることや、斬新なアイデアを発想し、好奇心を持って取り組む姿勢があること、高いエネルギーを職場に与えてくれることを期待しています。イノベーションは、アイデアと情熱の掛け合わせなのです。
あらゆる人がやりたいことをやれる環境をつくる。目を輝かせて新しいことに挑戦する人との仕事は、やはり楽しい!
── アイデアと情熱、どちらもとても大事な要素ですね。SSAPを立ち上げること自体も新規事業創出だと思いますが、小田島さんご自身がチャレンジしようと思われたきっかけは何ですか。
まず、SSAPのような仕組みをつくってソニーを、世の中を良くしたいという思いが私の中にありました。やるべきことを、やる気のある人ができて、みんなが自分の強みを生かせるような環境をつくりたかったのです。また、行動を起こすことで得られるものも多いので、ゼロから全てをつくる経験を一度自分でやってみて、新規事業創出の本質をつかんでしまおうとも考えていました。
── 自分のやりたいことができる環境の実現に大きな価値を置いているのですね。
人間にとって情熱、エネルギーはとても大事な要素です。実際、SSAPを通じて事業を創っているメンバーを見ると、みんな目を輝かせています。それぞれがすごく情熱を持って、仕事に熱中しています。これは、やるべきことが自分のやりたいことになっているからだと思います。事業をけん引するリーダー型の人や、ある特定の領域が得意なサポート型の人など、さまざまなタイプがいますが、SSAPを通じて新規事業創出に関わるメンバーの情熱に火をつけたいです。
── 新しいことに挑戦する方たちの情熱は計り知れませんね。そのように目を輝かせて新しい事業にチャレンジしている方と一緒にお仕事をするのは楽しいですか。
とても楽しいです。やはり情熱やエネルギーはどんどん周囲に広がっていくものです。強いエネルギーを持つ人と一緒に仕事をしていると、自分も元気付けられます。ただ、大本のエネルギーは外からもらうものではなく、自分の中から湧いてくるものなので、興味があり、かつ求められていることをやるのが一番良い。そうなると、やはりSSAPのような仕組みを通して、その人のやりたいことができる環境をつくることはとても大事だと思います。
あらゆる人が目を輝かせる社会をつくる。SSAPの目指すゴールとは。
── とても魅力的で、私も興味が湧いてきました。SSAPが目指すゴールとは具体的にどのようなものなのでしょうか。
個人的には、事業づくりのための人材を育成し派遣するシステムのようなものをつくってみたいです。自分の強みや興味をどんどん生かせるような環境を社会につくっていく。特に今の日本にはあまりそういう環境がないのが現実です。今のSSAPは、私が目指したい姿に対してまだ20%も達成できていないと思っています。
── 実現できたらとても素敵な社会になりますね。足りない部分を補っていくために必要なものは何でしょうか。
一つは人材です。事業領域の数だけスキルとノウハウが必要なので、SSAPが持つスキルやノウハウだけではいろいろな新規事業を支援するにあたり十分とは言えません。そのため、SSAPに携わる人材を積極的に募っています。そしてもう一つはシステムです。数々のスキルやノウハウを、より効率的かつシステマチックに事業に結び付けるために、システムを整備する必要があると考えています。
── SSAPの今後がとても楽しみです。小田島さんご自身は今後どのようにキャリアを形成していきたいですか。
やはり今後もSSAPを通して人や社会を豊かにしていきたいです。あらゆる人が目を輝かせるような環境をつくりたい。新しい事業を生んで、社会を豊かにするやり方は、世界中で多くの人が研究しています。そこに携われているのはとても面白いですし、新しい価値を生み出して、それを持続可能な事業にすることは、今の日本にとって本当に必要だと考えます。
私には、SSAPの仕事を通じて、ライフワークが見つかったという感覚があります。大変なこともありますが、とてもやりがいを感じますし、天職だと思っていますね。
<編集部のDiscover>
「イノベーションは、アイデアと情熱の掛け合わせ」という言葉通り、アイデアと情熱を持った人々をサポートし、数々のイノベーションと事業を起こしてきたSSAP。その発起人である小田島さんも、大きな情熱と確かなビジョンを持った方で、お話を聞いて私自身もエネルギーをいただくと同時に、自分の本当にやりたいことは何かを見直すきっかけになりました。小田島さんの目指す、あらゆる人が目を輝かせている社会がとても楽しみです。