「教育で、300年先の未来をつくる」一つの思いが、一つの会社に育つまで。
皆さんは、ソニーと聞いてどのようなことを思い浮かべますか。エンタテインメントのコンテンツ、オーディオやカメラといった商品などさまざまかと思いますが、「教育」や「起業」という言葉を思い浮かべた方はあまりいないのではないでしょうか。実は私も、当初抱いていたソニーのイメージとは、なかなか結び付きませんでした。
今回は、一つのプロジェクトから会社にまで発展し、教育サービスの開発・提供を行う株式会社ソニー・グローバルエデュケーション(以下、SGED)の池長さんにお話を伺いました。ソニーの中で起業することについて、また教育にかける熱い思いにも迫ります。
テクノロジーで、日本の将来を支える教育を
── 一般的なソニーのイメージと「教育」という分野が結びつきにくい読者も多いと思いますが、なぜ教育に関連した事業に取り組まれているのですか。
戦後間もない頃、ソニーの創業者のひとりである井深大が起草した「設立趣意書」の中で、会社創立の目的の一つとして「国民科学知識の実際的啓蒙活動」が掲げられています。ここから、日本が発展を遂げるにはきちんとした理科教育が重要であると考えていたことが読み取れます。実際に、ソニーはソニー教育財団を通じて1950年代から教育には関わっていました。一方、デジタル機器の普及にともない、教育業界自体が変革期を迎え、事業としてのチャンスがあると考えたことがきっかけです。
── 「日本の発展」というのはまさに、SGEDのビジョン「300年先の未来をつくる教育」にも表れているように感じました。
そうですね。現在の教育システムは、約300年前の江戸時代に整えられた寺子屋システムをもとにしたものだと言われています。このシステムのように、300年先の未来の教育にも良い影響をおよぼす教育システムを提供したい、次の300年を見越したイノベーションを教育業界に起こしたいという思いから「300年先の未来をつくる教育」というビジョンが生まれました。SGEDとしてさまざまな事業に取り組んでいますが、教育を通じて未来をつくることが最終的なゴールです。
ソニーで起業したからこそ、よりよいものづくりにコミットできる
── 社内のプロジェクトの一つだったSGEDが、会社として法人化するに至った経緯を詳しく教えてください。
私は、元々ソニーコンピュータサイエンス研究所(以下、ソニーCSL)で教育関連のネットワークサービスを開発していました。世界規模で競い合える「世界算数」というオンラインの算数大会を始めたところ、世界の80カ国、30万人の方にご参加いただけて、今後も展開し続ける意義があるのではと感じました。そこで、本格的に教育業界に参入するため、法人化を決めました。
── ソニーCSLでのプロジェクトと法人化した後の大きな違いは何でしたか。
一つはとても基本的なことですが、さまざまな業務を自分たちで行う必要があることですね。設立当時のメンバーは私も含めてエンジニアがメインだったのですが、開発以外の業務、例えば人事や法務、経理、マーケティングなど、それまで経験したことがなかった業務も行う必要がありました。
その一方で、事業やメンバーの働き方等に沿った独自に制度設計ができるという点は魅力に感じました。例えば、当社には子育ての真っ最中という社員が多いので、仕事と子育てを両立するためにフルリモートで働ける環境を整えています。このように、自分たちに合った制度をイチから設計できたため、事業の意思決定スピードも上がりました。
── 起業というと、会社を退職して独立という形ではじめることを想像される方も多いと思いますが、ソニーという企業の中で起業することの良さはありましたか。
大企業とベンチャーのそれぞれの良い特徴を併せ持っていることですね。大企業だからこその良さでいうと、法務や経理などの専門的な知識を要する分野はグループの力を借りて進めることができます。他にも、我々の商品・サービスは子ども向けということもあり、子どもたちが見るだけで遊びたくなるようなデザインにするために、ソニーのデザイン領域を担当しているクリエイティブセンターのデザイナーにも助けてもらったりしましたね。
ベンチャーならではの良さについては、先ほどもお話ししたように我々に合った制度を策定できるところが最も大きいと思います。昨今は、ネットワークサービスが普及し、変化に合わせてこまめなアップデートや素早い対応が求められています。だからこそ、自分たちの環境に合った働き方ができることが、より迅速かつ柔軟な対応につながっているのではないかと考えています。
自分の経験を子どもたちに還元する
── SGEDで開発・提供されている、商品やサービスを教えてください。
これまでに10以上のサービスを展開したのですが、中でも「KOOV®」は特に多くの方に使っていただいているサービスの一つです。「KOOV」は、プログラミングを体系的に学べるキットで、7種類の形のブロックと電子パーツでさまざまな形や動きを表現できるという、シンプルさと表現力を兼ね備えているところが大きな特徴です。また、ブロックのデザイン性にもこだわりました。一般的なロボットプログラミング教材はメカっぽいデザインのものが多く、「とっつきづらいイメージがある」という声がありました。ちょうど小学校におけるプログラミングの必修化の話が出てきた頃だったので、ジェンダーニュートラルなデザインをとことん追求した結果、あらゆる方に使ってもらいやすいプロダクトになりました。
── 一つの製品に、こんなにもたくさんの開発者の皆さんの思いが込められているのですね。他にも、池長さんが事業責任者を務めているサービスがあると伺いました。
はい。「LOGIQ LABO®」という、タブレットでの学習サービスを担当しています。小学生向けのタブレット教材は、一般的に算数/国語/理科/社会を学ぶサービスが多いのですが、この教材は理数トレーニング教材とテクノロジーを使った探究教材の両輪で、子どもたちの「テクノロジーを使いこなす理数脳」を育むことができます。
── テクノロジーを使いこなす理数脳に特化した教材なのですね。「LOGIQ LABO」をこのように企画された経緯を教えてください。
私の子どもの学習を見ているときに、今の教育で本当によいのだろうか、この子が大人になったときに本当に必要な力は何かと思ったのです。考え抜いた結果、正解を論理的に導く力と、正解のない答えを探究する力ではないかと思い、この2つをバランスよく育むことのできるサービスを企画しようという考えに至りました。
── ご自身の経験から生まれたサービスだったのですね。
はい。これまでSGEDで生まれてきたサービスの多くがメンバーの経験から生まれたものです。先ほど挙げた「KOOV」も、私の上司の経験に基づく発案でした。このように、我々が子育てをする中で実際に感じたことをサービスとして形にしているので、ただつくるだけでなく実際に保護者の皆さんにも需要のある教材になっているのではないかと感じます。
私自身、元々教育事業にはあまり興味がなかったのですが、自分が実際に子育てをするようになってから特に教育について考えるようになりました。働きながら子育てをすると、長時間子どもと一緒に過ごすことはやはり難しく、親と一緒に過ごしていない時間でも子どものためになるサービスを提供しようという思いが強まりました。SGEDには、このような熱意をもって働いている社員が多くいるからこそ、ここまで続けられてきたのだと思います。
未来は自分の力で変えられる
── 池長さんの描く、理想の教育とはどのようなものですか。
すべての子どもたちが夢を持ち、それに向かっていける環境を作りたいですね。今は昔よりも、個人が世界に大きな影響を与えやすい環境になったと感じています。だからこそ、子どもたち自身が自分の可能性に気づき、それに向かって進んでほしいと思います。その上で自分が興味を持った分野を学び、何か新しいものを生み出せるような環境をつくることに貢献したいです。
── 最後に読者にメッセージをお願いいたします。
やりたいことを見つけて、仕事にしてほしいと思います。楽しく働きながら世界に新しい価値をもたらすことが働くことの意味にもなると考えているので、何か自分の興味・関心を仕事につなげていってほしいと感じます。
また、このような感覚に共感してくれる方であれば、ソニーは非常に馴染みやすい職場環境だと思います。ゼロから新しいものを作り出すことが得意な会社であり、さらに挑戦する人を応援する文化が根付いているので、新しいものを自分で考えて企画したいという方はぜひ応募してほしいです。
<編集部のDiscover>
池長さんの教育にかける熱い思いを強く感じ、胸を打たれる瞬間が多々ありました。また、新規事業に携わる社員の皆さんの熱意やそれらを支えるソニーならではの環境が揃ったからこそ、このように画期的な事業が生まれるのだと感じました。みなさんもぜひ、自身のやりたいことについてあらためて考え直してみてはいかがでしょうか。