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障がいの壁を取り除くことを目指した新たなコントローラー、その細部に込められたこだわりに迫る。

Technology

ディスプレイの向こうに広がる世界に入り込み、自由自在に地を走り空を駆ける。その心躍る体験を、友人と語り合う。そこに障がいによる壁などあってはなりません。
ゲームに対する障壁を取り除き、誰もがゲームを楽しめることを目指し開発された「Access コントローラー」。交換可能なボタンやスティックキャップ、他のコントローラーや外部入力デバイス・周辺機器との連携など、ユーザーの多様なニーズに合わせたカスタマイズ性を有し、あらゆる人がより簡単に、快適に、そして長時間ゲームを楽しむことができるような設計が施されています。何度もリサーチを重ね、ユーザーの声に寄り添った製品づくりをする過程で、その開発担当者は何を思い、どのような試行錯誤をしてきたのか。Access コントローラーの細部にまで詰まったそのこだわりを、プロジェクトリーダーとしてハードウェア設計をリードした内田さんに伺いました。

※ Access コントローラーの詳細についてはこちら

内田 望
渡部 優基

標準のコントローラーではできないことを実現する。

── Access コントローラーは標準的なゲームコントローラーとは大きく形状が異なりますが、どのような特長があるのでしょうか。

Access コントローラー。見た目も形状も標準的なゲームコントローラーとは大きく異なります。

まず、障がいのあるユーザーが標準的なゲームコントローラーを身体に無理のある形で操作していることが分かりました。そこで、コントローラーがユーザーの身体に負担を強いるのではなく、コントローラー自体がユーザーの身体的ニーズに適応できるような製品を目指して、開発を行いました。例えば、大きめに設計されたさまざまな形の5種類のボタンを自由に着脱でき、使いやすい配置やマッピングに調整することが可能です。

開発を始める際、コミュニティやコンサルタントの協力の下、障がいのあるユーザーがコントローラーを操作する上での重要な課題を3つ抽出しました。1つ目は、腕や手の筋力が弱いため、コントローラーを持ちながら長時間の操作が難しいこと。2つ目は、ボタンが小さく密集していて、正確に押せないこと。3つ目は、アナログスティックの高さ、幅、向き、位置が固定されており思うように動かせないことです。実際にユーザーリサーチを行った際にも、これらの課題が浮き彫りになりました。

── 確かに、Access コントローラーなら置きながら操作でき、ボタンが大きくカスタマイズ性も高いなどの工夫が一目でわかります。開発にあたり、内田さんはどの部分を担当されたのですか。

プロジェクトリーダーとして主にハードウェア設計を担当し、商品仕様の検討から設計、そして量産までを導く役割を担っていました。この製品は2017年から米国を中心に企画構想がスタートし、PoC(概念実証)の検討が続けられてきました。私はPlayStation®5の周辺機器のローンチに向けた設計業務が一段落した頃、商品化を見据えた開発が始まるタイミングでお声がけを頂きました。

もともと、テクノロジーとエンタテインメントを掛け合わせて、これまで世の中になかったものを創り、ユーザーに楽しんでもらう事業に携わりたくて入社したので、このテーマは私にとって非常に興味深く、チャレンジングな内容でした。それに、アクセシビリティに配慮した製品の開発は未知の領域で非常にやりがいがありますし、何よりもSIEの使命として社会的にも大きな意味があると思い、このプロジェクトを引き受けました。

ユーザーの顔を直接見て、生の声を聞く。それが何よりのやりがいであり、モチベーションになる。

── 開発にあたり、何度もユーザーリサーチを重ねたとのことですが、そこから得た意見は製品のどのようなところに反映されているのでしょうか。

まず、5種類のボタンキャップのうちいくつかはユーザーリサーチから生まれたものです。例えばオーバーハングボタンは手が小さい人にとってボタン間の移動距離が大きく、長時間操作するのが疲れるという意見から生まれました。このボタンは内側にせり出し、少ない移動距離で指が届くように設計されています。

また、ボタンの着脱性についても試行錯誤を重ねました。力が弱い方や精密な操作が難しい方でも簡単に取り付けられるように、マグネットでボタンを吸い寄せ、コントローラーに取り付けられるようにしました。しかし、筋力が弱く、ボタンキャップを掴むのが難しい方でも簡単に取り外せるように、吸着力は弱くなければなりません。一方で、吸着力が弱すぎると操作中に外れてしまう可能性があります。ユーザーリサーチでも、操作中にボタンを強く押したり、片付けようとして持ち上げたりすると、意図せずボタンキャップが外れてしまうということがよくありました。そこで、ボタンキャップにロック機構を持たせ、操作中に簡単に外れないように対策を講じました。取り外す際には、ロック解除ボタンを押すことでロックが外れ、少ない力でも簡単に取り外せるよう工夫しました。このようにして、機能を両立させることができました。

Access コントローラーの着脱可能なボタン。写真ではL1ボタンがオーバーハングボタンにカスタマイズされています。

── ユーザーリサーチを行って初めて気づくことも多そうですね。

はい、レポート読んだり報告を聞いたりするだけでは分からないことがたくさんありました。日本と海外で何度か直接ユーザーリサーチに立ち会う機会がありましたが、その際に「こんな使い方をするんだ!」と気づかされることが多かったです。例えば渡部さんだったら、このコントローラーをどのように操作しますか。

── そうですね。私だったら、スティックに親指を置いて、他の指でボタンを操作すると思います。

なるほど。標準的なコントローラーと同じように親指でスティックを操作するのですね。ユーザーリサーチでは、スティックの向きを手前側に配置して、手のひらの底でスティックを動かし、円形の部分に手を置くという使い方をする人もいました。

── そのような使い方もあるのですね!発想にありませんでした。

ユーザーリサーチを繰り返して製品をブラッシュアップしていくという設計手法は初めてだったので、非常にやりがいがあり楽しかったです。ユーザーの顔を見て、生の声を聞くのはとても貴重な経験でした。何より、ユーザーの方々から直接ポジティブな評価をもらえるのがとてもうれしかったです。小学生に参加してもらった時に、後日感謝のお手紙をいただいたことがあり、チームメンバーも皆、心を打たれました。
また、ユーザーリサーチでは、「このようなプロジェクトを企画してくれてありがとう」という声をたくさんいただきました。そういったフィードバックがあると、開発のモチベーションにもつながりますし、ユーザーごとに異なる課題にしっかりと目を向けていきたいという気持ちになります。

梱包にもこだわったAccess コントローラー。自分に合ったカスタマイズを可能に。

── コントローラー本体だけでなく、梱包にもさまざまな工夫が施されているとお聞きしました。

はい。梱包の各所に“輪っか”がついていて、すべて片手で開封できるようになっています。両手で開封することが難しい方は、口を使って開封する場合もあり、その結果、せっかくの包装材がボロボロになってしまうという声を聞きました。大切に使ってもらいたいという思いから、設計チームがこのアイデアを出しました。

Access コントローラーの梱包。片手でも開けやすいよう工夫が施されている。

── 私も実際に試してみたら、本当に片手で最後まで開梱できて驚きました。

輪っかの他にも、多くの工夫が詰まっています。例えば部品の入った箱を積み重ねず横方向に配置することで、素早く簡単に取り出しやすくしたり、個々の部品については、開けるのが大変なプラスチック包装をなくし、かつ傷がつかないような収納設計を考えたりしました。また、充電用のUSBケーブルもすぐ取り出せて使えるように配置するなど、細部にわたってこだわりを持たせました。細かいところでは、梱包を開梱するためのフープをテープで固定しているのですが、その位置を側面から上面に変更しました。これはユーザーリサーチで、開梱する際にテープが側面にあると剥がしにくく、梱包を上面に配置して開けようとした際に、勢いで内容物が外に出てバラバラに転がってしまったというフィードバックを受けての修正です。
梱包設計は購入して最初の体験になるため、できるだけスムーズに初期設定まで進められるように考え抜きました。

── 梱包設計においてもユーザーリサーチによる気づきが大きかったのですね。障がいの種類や程度はさまざまだと思うのですが、それに対応するための工夫はありますか。

やはりカスタマイズ性は重視しています。ボタンの配置やボタンキャップ、スティックの種類や長さのカスタマイズ性はもちろん、拡張端子も4つつけており、それぞれに合った拡張機器を接続することができるようになっています。さらに、ボタンやスティックの取り付け部分のCADデータを公開しており、ユーザーが自分に合ったものを自分で作って、それを取り付けることができるようにもなっています。
実際にあるユーザーの方から自作したスティックを見せていただいたこともあります。「同じ障がいの人は二人としていない」という言葉もあるので、全員にとってよいことを目指すのではなく、カスタマイズの余地をたくさん残して汎用性を持たせることを意識しました。

※ CADデータ:コンピューター上で図面作成や設計を行う際に使用するデジタルデータ。ここではAccess コントローラーのボタンやスティックの取り付け部分の図面に関する3Dのデジタルデータを指す。詳しくはこちら

周りの仲間とともに、より良いものを作っていく。

── 発売してからさまざまな反応があると思うのですが、Accessコントローラーをどのように進化させていきたいですか。

これまで障がいがあるためにゲームをやりたくてもできなかった人、やったことがない人に対して「こういうデバイスがありますよ」という一つの可能性を提案できたと思います。これからも、この可能性をさらに広めていきたいです。多くの人にAccess コントローラーを使ってもらい、ゲームを楽しむだけでなく、ゲームを通して世界中の人々とつながることができる、そのような素晴らしい世界を体験してほしいです。
先日、あるイベントでAccess コントローラーの体験会を行い、障がいのある方含めたくさんの方に触っていただきました。発売後も、さまざまな人に使ってもらうことで、「こういう使い方もできるんだ」という新しい発見がありますし、何よりも、実際に多くのユーザーに使われているのを見るのが、担当者として一番の喜びであり、モチベーションにもつながっています。

── Access コントローラーが当たり前に使われるようになるのが楽しみですね。

Access コントローラーに限らず、標準的なコントローラーや他の周辺機器にも、まだ進化の余地が残されていると思います。一人でも多くのユーザーにゲームを楽しんでいただきたいです。

<編集部のDiscover>
何度もユーザーリサーチを重ね、そのたびに形を変えて完成へと近づけていく。そこに大きなやりがいと楽しさを感じながらAccess コントローラーを作り上げた内田さんの表情は、とても輝いていました。こういう気づきがあった、こういう意見があったと楽しそうに話す姿を見て、こちらも楽しくなるとともに、ゲームに興味のある私としてもとてもうらやましかったです。実際にコントローラーを触りながらインタビューをして、私自身も驚きの連続で気づけばあっという間に時間が経っていました。これからAccess コントローラーを通して、より多くの人がゲームを楽しめる世界が楽しみです!


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