働きながらどうやって学び続ける!? AI/機械学習エンジニアの学習事情。
関連するニュースを見ない日がないくらい、あらゆる産業、さまざまな製品・サービスに応用され、世界中で活用が進むAI(人工知能)。世界最先端の技術に関わるエンジニアは、幅広く必要な知識や関連スキルを、働きながらどのように得ているのか?ソニーでAI/機械学習エンジニアとして働く、川野さんと森さんに学習事情を聞いてみました。
学習は、筋トレと同じ。
—お二人とも入社1年目ということですが、学生時代はどのようなことを研究されていたのでしょうか。
川野:情報学を専攻していて、繁殖牛の発情状態を検知して分娩をサポートするための映像観察技術に関する研究をしていました。具体的には、画像認識AIを活用し、観察対象の追跡モデルを効率的に構築するための技術、効率的に時系列データをアノテーションする技術について検討しました。
—牛の観察にも画像解析技術が使われているのですね。ユニークな研究ですが、そこからなぜソニーに入社されたのでしょうか。
川野:就職活動の軸としては二つありました。一つは研究で培ってきた専門性を生かせること。そしてもう一つは感覚的なものになるのですが、ともに働く人との相性です。実際にインターンシップやOB・OG訪問で出会った方々の雰囲気、エンジニアとしての技術力の高さにひかれてソニーに入社しました。現在は、動画編集サービスにおけるAIを使った映像解析技術の開発に取り組んでいます。
—森さんも同じく研究内容を教えていただけますか。
森:学部時代は、てんかんの発作が始まる領域を脳波から推定する研究に取り組んでいました。領域を特定するためには長時間の脳波を読み取らなければならず、大きな負担がかかります。この研究は、現場の専門医の方々にとても喜んでいただけました。大学院では音声認識の研究に取り組んでいましたが、ソニーへの入社動機は学部時代の体験が大きいです。情報処理技術で社会、そして人の役に立ちたいという思いから、ソニーを選びました。 現在は、顧客からのフィードバックをもとに、テキストや数値、画像、音声などのマルチモーダル情報分析を通して、スマートフォン関連の先行開発を担当しています。
—それぞれ、現在の業務ではどのような知識や経験が求められるのでしょうか?
川野:まず知識としては、画像処理や映像解析、機械学習に関するもの全般になります。経験としては、モデルを選択するにしても必ずしも精度だけを求めればいいというわけではないということです。学生時代の研究と違うと感じた点でもあるのですが、例えば精度だけでなく処理速度や、オープンソースソフトウェアライセンス、消費メモリ、他ツールとの相性などを総合的に判断して最良のものを選択する必要があります。これはどうしても業務経験を重ねていかないとわからない部分でもあり、難しいところです。
森:まさに川野さんのおっしゃる通りで、私の場合は機械学習モデルの実装、クラウドでの実装など、知識と実装力とも表現できます。
—そのような業務に関する知識習得、学習の位置づけとはどのようなものでしょうか?
森:AI領域の技術は日々進化していますので、少し目を離すとすぐに置いていかれてしまいます。知識習得、情報のキャッチアップというのは日々の積み重ねで、例えるなら筋トレのようなものなのかなと思っています。
毎朝、新聞感覚で論文を読む。
—学習に関して具体的に、お二人は日々どのような取り組みをされていますか?
川野:出勤時には移動中の時間を使ってAI関連のニュースには幅広く目を通すようにしています。またSNSで学習用のアカウントを作って、AIの最新動向をチェックしてトレンドを追いかけています。他には、ITビジネス学習サービスのeラーニングで必要なスキル獲得のための講座を会社のサポートで受講しています。
森:私は、毎日新聞を読むようなつもりで論文を読むようにしています。言語、音声、画像といったメディア情報系だけでも世界レベルの学会で2ヶ月に数百本の論文が出てくるので、その中でも気になるテーマに関するものをピックアップして目を通しています。 他には、学会で上がっているデータセットを使って、機械翻訳モデルや音声認識モデルなどを実際に訓練してみることも趣味でやっています。これは学習として意識してやっているわけではありませんが、結果的に知識習得に役立っているかもしれません。
研修・勉強会は知識を整理する場。
—社内でも研修や勉強会に力を入れて取り組んでいるとお聞きしました。
川野:業務でAIを扱う社員が増えていることから、若手エンジニアが発起人となり有志で立ち上げた勉強会もあります。そこではPythonプログラムを効率的に書くためのノウハウを学んでいます。私も普段の業務でPythonは使っているものの、参考書を読む機会はなかなかありません。都度調べて半ば自己流でやっている部分もあるため、きれいにコードを書く、読みやすく書く、というところまで意識できていないため、こうした機会は役立っています。
—普段使っているプログラミング言語であっても、あらためて学ぶことで得られるものがあるのですね。
川野:テキスト ボックスPythonは本当に奥深く、知らない書き方や機能がたくさんあり、勉強会のたびに「これがPythonicなのだ」と、Pythonの真髄に触れて学んでいます。
—森さんは、講師側で勉強会を行った経験もあるそうですね。
森:私の所属する事業部でもAIに関わる人が増えてきたこともあり、ソフトウェア、ハードウェア問わず幅広くAIに興味がある方に向けた勉強会を所属する課が主催し、そこで講師を務めました。音声・画像認識の基礎知識から実際の業務への活用事例などを紹介しました。講義内容や質疑応答に向けて、R&Dの研究部門がまとめた論文を読み直して簡単な言葉でトレンドを説明できるよう準備したのですが、背景知識がさまざまな参加者に理解してもらうためにはどのような構成にすればいいのか悩みました。苦労はしましたが、テーマに対する自分の理解も深まり、勉強になりました。
学習のモチベーションは、好奇心。
—ご紹介いただいた勉強会などの他にも、ソニーならではの学びの機会や環境についても何かあれば教えてください。
森:まず、エンタテインメントも含む多様な事業領域と技術の高さがあげられると思います。その上で、なんでも挑戦させてくれる自由闊達な雰囲気が社内にあることがソニーの強みです。どうしてもやってみないとわからないことが多いこの分野において、チャレンジできる空気があることはエンジニアにとって大切だと感じます。
川野:チャレンジできる場の例として、アイデアを製品化する機会となる「DIPS※」や「MCIP※」があります。またソニーでは昔から「机の下活動」といわれる、業務外の取り組みも盛んで、外部の機械学習コンペティションにも積極的に参加しています。実は先日、同じ部署の先輩が世界的なコンペティションでゴールドメダルを獲得しました!
※DIPSとはDISCOVER IP&Sの略称で、IP&S(=イメージングプロダクツ&ソリューションズ)事業本部主体のボトムアップ活動です。「ボトムアップ」をコンセプトとして、それぞれが持っている技術やアイデアを披露しあう社内向けのイベントです。
※MCIPとはMC INNOVATION PROGRAMの略称で、MC(=モバイルコミュニケーションズ)事業本部主体のアイデア創発、展示会でのシナジー、事業貢献につなげる一連のプログラムです。展示会をMFF(MOBILE FUTURE FORUM)と呼び、顧客視点を軸に新しい体験価値を生み出すアイデア・技術などの社内向けの展示を行っています。
—最後に、お二人が目指したいエンジニア像と、そのために必要な取り組みや心構えなどについても教えてください。
森:目指しているのは、技術における知識量や応用力とともに、ビジネス視点も持ち合わせたエンジニアです。私がソニーで働いている理由は、ものづくりがしたいからですが、エンジニアとして「どのようなものをつくりたいのか」「どのような価値をつくりたいのか」という問いに対する答えを持っておきたいです。そのためには、やはり目の前の業務の積み重ねですね。近道はなく、日々の努力を地道に積み重ねていきたいです。
川野:「画像認識・映像解析なら川野に任せよう」と言われる存在になりたいです。そして、ユーザーから「使ってみたい!」と思ってもらえる、ワクワクするような製品・サービスづくりに携わっていきたいと思います。そのためには、森さんもおっしゃっていたように、やはり日々の積み重ねしかないですね。そして、そのベースになるものは「知りたい」「好き」「技術力を高めたい」という気持ち。学び続けることのモチベーションは自分自身の好奇心ではないでしょうか。