英語が苦手なエンジニアがシリコンバレーに海外赴任。挑戦の先に見えた景色とは
就職活動中の皆さんの中には、エンジニアとして海外赴任したい方や、ソニーの海外赴任について知りたい方も多いのではないでしょうか。
今回は、入社5年目で米国・シリコンバレーに赴任したエンジニアの古川さんにインタビュー。古川さんは、実は英語が大の苦手で、赴任には当初後ろ向きだったそう。しかし、現地で映像技術の開発に携わり、帰任時には帰りたくないとさえ思うようになりました。海外での生活の中でどのような変化があったのか、お話を伺います。
※記事に掲載している情報は取材当時のものです。
「君は語学力がつけばもっとパワフルになれる」
── 古川さんは現在どのような業務をしていますか。
「ボリュメトリックキャプチャ」※という、複数のカメラで空間を丸ごと撮影し、後から自由な視点で映像を見ることができる映像技術の開発に携わっています。この技術は、ミュージックビデオやスポーツ映像などでよく使われています。
※ボリュメトリックキャプチャ(自由視点映像)についてはこちらで動画を使って詳しく説明しています。
── 入社5年目で海外赴任を経験されたそうですね。
はい。2018年から3年間、米国・カリフォルニア州のサンノゼにあるR&D Center US Laboratoryに赴任していました。まさにシリコンバレーが位置する場所です。そこでは、ボリュメトリックキャプチャの要素技術開発や、技術が似ているVirtual Humanの開発に携わりました。
※Virtual Humanについては、Discover Sony関連記事「仮想空間上に自分とそっくりなDigital Human。「不気味の谷」を越え、3Dモデルに命を吹き込むためのこだわりとは。」をぜひご覧ください。
── もともと海外赴任への興味はあったのですか。
私は学生時代から英語が非常に苦手だったこともあり、実は全く興味がありませんでした。一方で、このタイミングでの海外赴任は、若手のうちに海外での研究開発を経験できるまたとないチャンスだとも思いました。そのためお話をいただいたときは、チャンスであることは理解しつつも、語学への強い苦手意識から二の足を踏んでおり、かなり悩みましたね。
── それでも海外赴任に踏み切ったきっかけが気になります。
上司からの「君は語学力がつけばもっとパワフルになれる」という言葉や、同僚や両親からの「チャレンジしてみれば」というアドバイスに背中を押されました。赴任までの3カ月間、仕事と並行して英会話スクールに通い、英語で日常会話レベルでの簡単な意思疎通ができるほどまでレベルアップしました。
── 海外赴任にはどのような目標をもって臨みましたか?
シリコンバレーにはテクノロジー領域の優秀な人材が集まるので、一流の方々の研究の仕方や働き方を学びたいと思っていました。また、技術の性能を高める基礎研究の中で研究力を磨き、それを日本に持ち帰ることで、基礎研究をリードできるような人材になるというミッションもありました。
仕事での英語の壁は、そこまで高くなかったが…
── 実際に米国に赴任してみて、語学の面で苦労されましたか。
実は、これは海外赴任を経験した先輩方も口をそろえて言うのですが、日常的な英語での会話より、仕事での会話の方が楽でした。エンジニアが使う単語やフレーズは、文脈によってある程度共通しており、限定的でもあります。最初は同僚が話す言葉を聞いてまねすることで、会話にはすぐに慣れていきました。
── 仕事をする上で、日本と大きな違いを感じた点は何でしたか。
仕事での報告や資料作りにおいてロジカルさが強く求められる点です。特にシリコンバレーでは多様な文化圏の人が一緒に働いているため、「なんとなくわかるでしょう」ではまず相手に通じません。そのため、根拠や理由に基づいてロジカルに説明することが必須でした。
── 他に身に付いたスキルはありますか。
大量の論文や技術調査からさまざまな手法を分類・比較し、問題を提起する力や、それを基に開発の戦略を立てる力がつきました。英語の論文や技術系の記事を読む能力も自然と身に付きました。このような汎用的なスキルは、現在も仕事をする上で生きていると感じます。
── 仕事に注力しながら、海外での生活を立ち上げるのも大変そうです。
そうですね。やはり仕事以外で英語を使う場面の方が私にとっては難しく、苦労しました。部屋探しは会社のサポートがありスムーズに進んだものの、水道や電気などの生活に必要な細々とした契約は自分でする必要があったり、カリフォルニア州の運転免許を取得するために試験を受けたりと、生活の立ち上げと仕事の両立が大変でした。
大きな野心を持つ人たちに囲まれて
── シリコンバレーで仕事をしてみて感じたことを教えてください。
「技術で世界を変える」といった意気込みを持ち、一生懸命仕事をしている人が多かったです。そうした気質はエンジニアだけでなく街全体にあふれており、例えば私がある日タクシーに乗った時、運転手に「若者はもっと野心を持つべきだ」と説教をされたこともありました。それほど皆が、自分なりの課題意識を持って仕事をしている印象です。そのような仕事のやりがいに加え、経済的なリターンも確立している人が多かったように思います。
── 一方で、プライベートも大事にされていましたか。
海外赴任中は仕事とプライベートの両立が難しいイメージを持っていたのですが、長期休暇が取りやすかったのでうれしかったです。会社では、部下の権利を尊重しつつ、成果を出せるようにマネジメントされていると感じました。
── 古川さんは長期休暇にどこかへ行かれましたか。
私は1週間程度の休暇を取り、仲良くなった日本人の赴任者と南米旅行に行きました。日本から南米はとても遠いですが、カリフォルニア州からは近いです。そのような赴任先の立地を生かし、日本からは気軽に行けない場所に行けるのはメリットだと思います。長期休暇以外の休日には、近場のサンフランシスコやイエローストーン国立公園にも行きました。
── 日本人の海外赴任者同士のつながりもあったのですね。
そうなんです。ソニーの赴任者だけでなく、他社の日本人赴任者とも仲良くなります。やはり異国の地で似たような困難を経験することで、自然と助け合いの精神が生まれます。困った時の心の支えでもありました。
最後は帰りたくないと思えるほどの海外の魅力
── 海外赴任を経験したことで、心境の変化はありましたか。
何よりチャレンジ精神が身に付きましたね。また、日本とは異なる文化の中で働いていたからこそ、自分はその中のどこで輝けるのか、どこで輝きたいのか、それを踏まえてどのような能力を伸ばして成果を出したいのかを今まで以上に考えるようになりました。
── 日本で企業に就職してから海外赴任するのと、現地で就職するのとでは、どのような違いがあると思いますか。
まず日系企業に就職してから海外赴任をすることで、会社のサポートを受けられるのが大きなメリットだと思います。同じ赴任者同士で助け合えるので安心です。一方、現地で就職した方は、いろいろな困難を自分自身の力で乗り越えているので、精神的な強さや問題解決能力の高さを感じました。
── 古川さんが今後挑戦したいことがあればぜひ教えてください。
実は3DCGクリエイターになりたいと思っていたこともあり、「クリエイターの頭の中にはあるものの表現できていなかった世界観を、映像技術を通して表現したい」という強い思いがあります。それに関連して、今後もし海外のクリエイターと関われたら、海外赴任の経験がさらに生きてくると思います。
── 最後に、海外で働くことに興味がある方に向けてメッセージをお願いします。
語学力に自信がなく海外に興味もなかった私が、赴任期間の最後には帰りたくないと思えるぐらい、海外には新しい発見や自分自身を成長させられる環境があります。もし語学面で二の足を踏んでいたとしても、現地で積極的に話すことで自然と語学力はついてくると思います。また、最初は難しいことがたくさんありますが、それを乗り越えると楽しくなるはずです。ぜひ諦めずに海外で働くことに挑戦してみてください!
<編集部のDiscover>
「話していると、楽しかった思い出がどんどんよみがえってきます」とにこやかに話す古川さんから、英語が苦手で海外赴任を躊躇していた姿は全く想像がつきませんでした。
海外で働くことに限らず、自信がなくて何かを避けてしまいそうになることは誰にでもあると思います。そこで一歩を踏み出し、挑戦してみると、思いがけない発見や出会いにつながるのかもしれません。