【ソニーのヒトってどんな人? Vol.3】自由闊達な風土のもと、自身のさまざまな経験を生かして「音への恩返し」を。
ソニーのヒトってどんな人?
ソニー社員の「その人らしさ」に迫る連載企画。それぞれの個性をMy Work(仕事内容)、My Passion(仕事への想い)、My Sony(自分にとってのソニー)、My Future(将来の展望)の4側面からクローズアップしていきます。
今回は連載企画第3弾として、クリエイターに寄り添ったヘッドホンの音響設計を担当されている潮見さんにお話を伺いました。
My Work<長年付き合ってきた音を仕事に>
──お仕事について教えてください。
ヘッドホンの音響設計を担当しています。音響設計は一般的に、音の信号処理や、機械の構造設計、電気回路、ソフトウェアなど総合的な知識の上に成り立っています。そのため音響設計の部署にはさまざまな専門性を持った社員が集まっています。私自身も元々、大学の専攻は電気電子系でしたが、機構設計担当で入社しました。入社後、自己紹介の際に「音楽が好きで、音楽にずっと関わってきた」と話したことがきっかけで、音響も担当することに。入社5年目からは、音響設計専任になりました。
──これまでどのようなヘッドホンを開発されてきたのでしょうか。
音楽鑑賞用のリスニングヘッドホンから、音楽制作用途のクリエイター向けモニターヘッドホンまで、幅広く音響設計に携わってきました。最近は、プロフェッショナル用のヘッドホン設計に関わる機会が多く、この『MDR-M1ST』や『MDR-MV1』も担当しました。
『MDR-M1ST』は約4年半もの歳月をかけて音質を磨き上げました。可聴帯域を超えるハイレゾの音域をダイレクトかつ正確に再現することで、楽器配置や音の響く空気感など演奏空間全体を広く見渡すことができ、原音のイメージそのままの音質を実現しています。
一方『MDR-MV1』は、背面開放型という構造を採用することにより、ヘッドホン内部の反射音を低減し、立体音響の音源を正確に再生できるよう音質を追求しています。
My Passion<クリエイターと共につくる、最高のヘッドホン>
──ヘッドホンの音響設計で、こだわっているところはありますか。
クリエイターの声をとにかく聞くことは意識しています。
私ほどクリエイターと関わっているヘッドホン設計者は少ないのではと自負するほどです。
──そこまでクリエイターの声に寄り添うのはなぜでしょうか。
純粋に、クリエイターに「これ、いいね」と言ってもらえたらもちろん嬉しいですし、クリエイターが音楽に込めた思いを、少しでもそのヘッドホンを通してリスナーに届ける手助けになれば、と思っているからです。最近は、クリエイター向けのモニターヘッドホンの設計に携わる機会が多いのですが、アンケートだけでなく直接クリエイターから深く話を聴くことで、より希望に沿うものにしたいと思っています。
クリエイターとの何気ない日常会話の中に、ヒントが隠されているときもあります。例えば、ヘッドホンで「音が外に漏れないことが重要」と言われても、それがどれくらい必要なのか分かりません。こちらが考えている以上に大きな音量で聞く方もいますから、実際に現場に足を運んでクリエイターと会話することでその度合いを把握することができるのです。
──クリエイターの声がプロダクト開発に生かされた事例を教えてください。
例えば、あるプロフェッショナル用ヘッドホンの開発時には、クリエイターが必ずと言っていいほどヘッドホンを耳に押し付けながら聞いていらっしゃったので、音と耳との距離をより近づけるためにパッドの厚さを調整しました。他にも、ヘッドホンの左右を間違えにくくするだけでなく、もし間違えて着けていた場合にも周りのスタッフが逆であることに気づいて指摘しやすいように、外側のLとRの文字の色を変えてわかりやすくしています。このような実際の使用シーンに基づく改善点は、やはり現場でしかわからないことも多いので、クリエイターとのコミュニケーションは大事ですね。
──ズバリ、ヘッドホンの設計をやってよかったと感じる瞬間とは。
電車に乗ったときなどに、自分が関わったヘッドホンを使ってくれている方を見かけたときはやはり嬉しいですし、このヘッドホンを選んで本当によかったと思っていただけるよう頑張らなくてはとモチベーションにもつながります。
My Sony<「やりたい」を実現できる、面白い会社>
──潮見さんの入社のきっかけは、テレビで流れていた、ソニーの耳型職人※の映像だとお聞きしましたが。
そうですね。大学で研究した内容の職に就くか、好きな音楽や音に関わる仕事をするか進路について迷っていたときに、たまたま観ていたテレビ番組で耳型職人の存在を知り、ソニーには変わった仕事をしている人もいるんだと最初は驚きました。しかし話を聞いていくと、耳の形に合わせてヘッドホンの装着性を向上させることで音質もよくなるということがわかり、そこまでとことんこだわり、追及しているソニーという会社に興味を持ちました。当時、人の動作や特性に寄り添ったエルゴノミックデザインが話題になっていたこともあり、耳型職人はまさにその先駆けのような仕事だと感じ、就職活動の面接では「耳型職人をやりたいです」と話をしました。ちなみに、そのテレビに出ていた耳型職人は、今もソニーの社員で、一緒にヘッドホン開発をしています。
※耳型職人とは
ヘッドホン開発部隊において、実際に人の耳をかたどった耳型を作成する役職のことです。この耳型を利用してテストを行うことで、多くの人にとってよりよい装着性と音質の実現につながっています。正式な役職ではなく、エンジニアの自主的な活動として受け継がれ、現在潮見さんが6代目として活動しています。
──ソニーの良いなと思うところは他にもありますか?
やりたいことを実現しやすい環境ですね。上司に自らのアイデアを直接提案できる機会が持てるのですが、元々はR&Dの部門と開発を進めていたヘッドホンの試作機の商用化提案を行い、『MDR-MV1』の製品化が実現しました。クリエイターから、音楽制作や映画音響制作時に、音をミックスするときのスタジオ環境をどうにかヘッドホンで再現し、どこでも高品質で制作できないかと要望がありました。基になる信号処理技術はR&D部門で研究されていたのですが、その再生に適したヘッドホンがないという話があり、制作現場へのヒアリングを重ねて開発を行っていました。元々はグループ内での使用だけを想定していて商用化の話はありませんでしたが、この技術やヘッドホンを世に出すことによって音楽制作時の潜在課題と需要に応えることができるのではと考え、提案しました。ソニーはコンテンツも持っている会社なので、コンテンツ制作現場の意向に沿った製品開発ができることも魅力です。入社時のモチベーションに、クリエイターと仕事をすることへの期待もあったので、今はそれが叶っていますね。
My Future<一人ひとりに合った音楽環境を>
──今後のキャリアビジョンを教えてください。
音に関して、何か恩返しができる仕事がしたいですね。お客様に満足していただけるようなエコシステムやビジネスを成り立たせることで、音楽業界全体に貢献できればと考えています。また、特に『MDR-MV1』の開発時にも何度か訪れた米国で、実際に住んで仕事をしてみたいです。人気のある音楽も、音楽を聴くシチュエーションも日本とは異なる部分が多いと思いますので、日本に住んでいるだけでは分からない部分を実際に住んで肌で感じて、実感を伴って製品やサービスに落とし込んでいってみたいです。
──潮見さんにとってヘッドホンがつくる理想の音楽環境とはどのようなものですか?
一人ひとりに合ったヘッドホンを用意できることでしょうか。そもそも、スピーカーから出る音が同じでも耳の形によって届く音は人によって異なります。近年、音楽の好みやヘッドホンが使われるシチュエーションの多様化が進む中で、それぞれの好みや特性、ライフスタイルなどに合ったものが求められていると感じるので、一人ひとりに合わせたパーソナライズを簡単にできるようになることが理想です。
──最後に、(大学時代の潮見さんのように)進路について迷っている方にメッセージをお願いします。
やりたいことがあったら是非ソニーを受けてみていただきたいです。
もちろん大学までやってきたことは強みになりますが、ソニーは経験がなくてもチャレンジできる風土、機会があります。
また、趣味や友達付き合いは絶対に続けて、そして広げていってください。身近になかったさまざまな価値観に触れて視野が広がりますし、それがまた仕事に生かされることもあると思います。
<編集部のDiscover>
近年、音質向上のための技術発展が目覚ましく、10年前にも聞いていたはずの曲が全く違う曲のように感じることもあります。その裏には、エンジニアやクリエイターの計り知れない努力や熱い思いがあるのだとお話を聞いて実感しました。また、ヘッドホンの仕組みや工夫された部分を紹介するときの潮見さんの目の輝きがとても印象的で、私も将来自分の仕事に誇りを持って取り組みたいと感じました。