自分の生活圏を飛び出して、インドを訪れたソニー社員が気づいたものとは。
「企業で働くことで、自分はどのようなかたちで社会に貢献できるのか」。やりがいを持って働くことを考えたときに、一度は頭に浮かぶ問いではないでしょうか。ソニーのPurpose(存在意義)は、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」です。「世界を感動で満たす」ためには、安心して暮らせる社会や健全な地球環境があることが前提であり、イノベーションと健全な事業活動を通じて、企業価値の向上を追求し、持続可能な社会の発展に貢献することを目指しています。今回は、日本の外に足を踏み出しグローバルな視点で社会課題を見つめ直す「社会課題体験型視察プログラム」に迫ります。ソニーグループのさまざまな会社から、年齢・職種問わず多様な社員が参加するこのプログラム。どのような発見があったのか、参加者の本間さんと鳥光さんにお話を伺いました。
- 鷲尾 美波
<社会課題体験型視察プログラム>
ソニーグループは、公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンと緊急人道支援における連携を2010年から開始。2016年には「子どものための災害時緊急・復興支援ファンド」を共同設立するなど、積極的に次世代を担う子どもたちの支援や災害時の緊急支援などを行ってきました。さらに2021年には、災害発生前の備えも含めた仕組みづくりが重要である共通認識の下、「災害に強いレジリエントなコミュニティづくり」における新たなパートナーシップを締結しました。このパートナーシップでは、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンがインド・ビハール州パトナで実施する小・中学校の子どもたちを災害などの危険から保護する包括的な取り組み「Safe Schools」プログラムを支援しています。社会課題体験型視察プログラムは本パートナーシップの一環で、6日間のスケジュールでインドのデリーとパトナにソニーグループの社員を派遣しました。実際の活動視察や関係者との議論を通じて社会課題の構造的な要因を分析し、社会課題への理解を深めること、そしてプログラムで得られた知見をソニーグループの事業や社員自身の業務に絡めながら課題解決に貢献することを目的としています。
未知の世界を見に行くために。
──普段の仕事内容は全く異なるお二人ですが、このプログラムに参加しようと思った理由は何でしたか。
本間:私が所属するソニー株式会社の技術開発研究所は、新しい開発テーマも探索している部署です。プログラムの募集メールを見て、自分の新規開発テーマの探索業務と関連のある内容ではないかと興味を持ちました。また、成長が著しいインドを訪れるチャンスはこれまでなかったので、チャレンジの気持ちも込めて応募しました。
鳥光: 私も元からインドにとても興味があったことや、若いうちにいろいろなことを経験したいという気持ちがあったことがプログラムに応募した理由でした。また、「こういうことに挑戦したい」と言いやすい職場環境なので、周囲に相談しやすかったことも応募の後押しとなりました。
──現地を訪れて、驚いたことや印象に残ったことは何でしたか。
本間:現地で子どもたちと触れ合う機会があったのですが、私の8歳の子どもと同じくらいの年齢だろうと思っていた子が、実際は5歳も年上だったことに驚きました。インドには成長する過程で必要な栄養を十分に摂取できていない状態にある子どもが一定数いるようで、実際にその状況に触れてとても驚きました。
鳥光:訪問地の一つでビハール州のパトナという場所に行ったのですが、地方の貧困地域で、首都のデリーとは景色が全く違ったのが印象的でした。日中の気温がおよそ45℃と非常に高く、肌が痛くなるほどの熱波も体験しました。こうした気候が原因で、学校が休校になり、子どもたちが教育を受けられなくなってしまうこともあるそうです。日常生活を送るのが大変なくらいの暑さを初めて体感して、本当に驚きました。
課題解決の第一歩は、知ること、学ぶことから。
──お二人が実際に現地で目にしたものの中で、これはすぐに解決しなければならないと感じた喫緊の社会課題は何でしたか。
本間:インドで起きている社会問題は、貧困から児童労働、環境問題、災害まで多岐にわたりますが、それらにつながる一番の要因は「教育」だと感じました。例えば、インドの町中でゴミをポイ捨てしている人を見かけたのですが、日本ではゴミは決められたところに捨てないといけないという一般的に共有されているルールや、一人一人の意識や行動が気候変動などのグローバル課題に関わることを、教育過程で学んでいますよね。しかし社会問題の多くは、問題そのものの存在が知られていないこと、知らないが故に十分な対策がなされないことが、解決が遠のく原因だと思います。特にインドの場合は、都市部と地方の教育格差が問題になっています。
鳥光:私も教育は解決の鍵だと感じました。インドは人口が多い国なので子どももたくさんいます。インドの未来を担う子どもたちが仕事に就くためにはやはり教育が必要で、保護者に対しても子どもが学校に通い、教育を受けることの重要性を伝えていかなければならないと思いました。
──都市部と地方に教育格差があるということですが、それはどのような場面で感じられたのでしょうか。
本間:子どもたちを災害などの危険から保護するセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの「Safe Schools」という取り組みがあります。デリーとパトナほぼ同様の内容で実施されていますが、それぞれの地域の小学校を訪れたときに違いを感じました。現地では10歳から12歳くらいの子どもたちが、災害から身を守るために自分たちがやっていることを、手書きのポスターを見せながらプレゼンテーションしてくれました。そのとき、都会に住む子どもたちはキラキラした目でやる気に満ち溢れた様子で自分の言葉で発表をしていました。一方で地方の子どもたちは、原稿を見ながら決められた発表内容を淡々と話していました。これは本当に小さなことですが、やる気や自信といったところから違いが出ているのではないかと感じました。
鳥光:私は施設面で大きな差があると感じました。パトナで訪れた小学校は校舎そのものがとても古く、机や椅子がない教室もあったのに対して、デリーの小学校は大きくて立派な施設でした。また、デリーの小学校は校門があり子どもたちの安全が守られているのに対して、パトナの小学校は入ろうと思えば誰でも入れてしまう状態。セキュリティ面でも違いを感じました。訪れたパトナの小学校では、最近になってようやくモニターが2台ほど導入されて、防災教育がとてもしやすくなったという話を伺いました。日本では教室ごとにテレビが1台あることが多いと思いますが、教育に必要な機器の整備状況もまったく異なりました。
多様な社員、関係者、子どもたちと関わって感じた可能性。
──現地の子どもたちと実際に会話されて、どのように交流を深めましたか。
鳥光:日本の人気アニメキャラクターを知っている子どもがとても多く、共通の話題で楽しむことができました。日本のアニメがここまで伝わって人気を博していることを知ってうれしかったです。私の所属がソニーミュージックグループなので、自分たちが持っているノウハウやコンテンツと組み合わせることができたら、子どもたちにとって受け入れやすい形で社会課題を解決できるのではないかと感じました。
本間:私もその可能性は大いに感じました。就学前あるいは経済的な事情等で学校に通学することができない子どもたちが通うマルチアクティビティセンターという施設を訪れたときに、現地の子どもたちと交流する機会がありました。そこで出会った子どもたちに英語で話しかけてみたところあまり通じず困っていたのですが、部屋の横の壁に日本のアニメキャラクターのポスターが貼られているのを見つけ、そのキャラクターの絵を子どもたちのノートに描いて交流することができました。言葉が通じなくても、日本文化を代表するようなコンテンツが、コミュニケーションツールになりうるのだと思い驚きました。子どもたちと話しながら、この子たちが受ける教育にソニーの技術やサービスを組み合わせて社会貢献ができないかと考えました。
──社会課題の解決に向けて、参加者同士でもディスカッションはされたのですか。
鳥光:はい、今私たちにできることは何か、現地でアクションプランを検討し発表しました。今回のプログラムにはさまざまなグループ会社の社員が集まっていたので、視点も豊富で、参加者の皆さんから多くの刺激をいただきました。
本間:そうですね。年代も普段の業務内容もまったく違う社員が参加していましたが、実は帰国してからも定期的にオンライン会議で集まっています。セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの方ともアクションプランについて意見交換の場を設けていただくことを計画しています。
たった1週間で、見える世界も夢も変わる。
──本プログラムに参加して今後の展望に変化はありましたか。
本間:昔、自分の強みが一方向にしか伸びていないと感じていたことがあったのですが、6日間のプログラムを通じて、別方向の強みを持てたと感じています。インドの社会課題を肌で感じた経験と自部署が持つ技術をどう組み合わせるか考えられるのは自分しかいない。まずは課題を知ることが第一歩だと思うので、自部署と新規開発テーマ探索チームのメンバーに今回得た知識を共有する予定です。また、参加者同士でもインドでの経験を生かして社内ボトムアップイベントに出展したいと話しているところです。
鳥光:実際に現地を訪れると自分の中での常識が一変しますし、自分の夢も変わってきます。こうした機会がソニーグループ内にあること自体も広めていき、同じ問題意識を持つ仲間を増やして変化を起こしていけたらと思いました。
<編集部のDiscover>
インドから帰ってきたばかりのお二人が、いろいろな方に現地での体験を広めたいと早速動き出している姿がとても印象的でした。きっとこのプログラムがなければ出会わなかった仲間たちが、互いの知恵を絞り多様な視点からアイデアを掛け合わせています。これからどのような取り組みが生まれてくるのか。お二人のお話を聞けば聞くほど、大きな可能性を感じました。