研修をきっかけに新機能を考え、半年で開発。ソニーの新入社員が本気で取り組む「新人テーマ研修」とは。
ソニーグループ(以下、ソニー)では、新卒入社の社員が入社後、チューター・上司と相談して決めたテーマに各自で約半年間取り組み、その成果を社内に発表する「新人テーマ研修」が開催されています※1。研修成果は、ポスターと動画を用いて発表し、オンライン上で他の社員も閲覧できます。社内の注目度も高く、2023年度は13,000人以上の社員が発表サイトを訪れたそうです。
研修にとどまらず、実際の業務で生かされるテーマもあります。今回は、2022年にこの研修でaibo(アイボ)のつかまり立ち※2を考案し、大きな反響を得た舘石さんに話を伺いました。
※1: 国内の一部のグループ会社が対象です。
※2: 実際の製品に実装されている機能ではありません。
- 久藤 颯人
新人テーマ研修とは?
新卒入社の社員が入社後、チューター・上司と相談して決めたテーマに各自で約半年間取り組み、その成果を他の社員に向けて発表する研修のことです。主体的に考えて行動し成果を出す経験を、入社してすぐに積んでもらうことを目的としています。
今回取材をした舘石さんは、自らの業務にも関係するaiboに関する提案を行いました。
動画配信サイトで見つけた、犬の愛情を表すしぐさ
── 舘石さんはどのようなテーマを設定したのですか?
aiboがつかまり立ちをするしぐさの実現です。犬は飼い主に愛情表現をする際、ピョンと跳ねてつかまり立ちし、飼い主をじーっと見つめることがあります。飼い主は、犬から甘えられて幸せを感じます。その体験をaiboでも実現したいと思い、研修のテーマに設定しました。
── つかまり立ち自体は舘石さんの発想ですか?
はい。aiboは多くのファンやオーナーがいらっしゃるので、皆さんが喜んでくれるしぐさを実現したいと思っていました。そのため、動画配信サイトで犬の動画をたくさん視聴し、かわいいしぐさを探し続けました。その中で、犬が飼い主に構ってもらうために駆け寄ってつかまり立ちをしているシーンを見つけ、「これこそ愛情を表す行動だ!これをaiboに実装できないか検討してみよう」と考えました。
── つかまり立ち以外のしぐさも検討されましたか?
他にもいろいろな動作を検討しました。ただ本当にオーナーが喜んでくれるか、技術的な難易度、研修期間中に成果が出せるかなどの条件の下で厳選し、最終的につかまり立ちに決めました。
研修テーマを決める過程でも、商品企画の方に相談したり、オーナーの皆さんに対して実施したアンケートを参考にするなど、さまざまな方に協力していただきました。実装を進める中でも何度か方針の変更もあったので、テーマが確定するまで1カ月ほどかかりました。
何も分からない状態から、周囲を巻き込んで進める
── 研修のテーマが決まったとしても、入社してすぐの段階で新たなしぐさの実装に取り組むのは難しいですよね。
本当に大変でした。何も分からない状態でプロジェクトを一つ任されることと同じなので、技術的な観点でも、進め方の観点でも、チューターに逐一相談しアドバイスをもらっていました。毎日相談しながら一緒にスケジュールを組み、企画の立案から提案の作成まで取り組みました。
── 特に大変だった点はどこですか?
しぐさを実装するには、さまざまな人を巻き込んで協力してもらわなければならない点です。ソフトウェア、ハードウェア、それらの複合によって実現している機能など、一つの製品でも関わる技術領域がとにかく広く、自分一人の力ではどうにもなりません。エンジニアだけでなく、企画やクリエイターなど関係者全員に協力してもらう必要がありました。
結局、合計で20人ほどの社員を巻き込み、協働して取り組みました。大学院の研究は基本的に一人で進めることが多かったので、これは社会人になってからの大きな変化でした。
── その苦労を経てどのような力やスキルが身についたと思いますか?
自分の意図や目的を明確にした上で、論理的に人に伝える力です。なんとなく考えているだけではなく、全てを言語化した上で、それらを一連のストーリーに落とすことで、皆さんの理解を得られたと思います。研修を進めていく上でさまざまな課題もあったのですが、多くの関係者の協力を得ることで乗り越えられました。
研修のテーマを、aiboオーナーにも披露
── 舘石さんの研修内容は、aiboのオーナー向けのイベントでも紹介されたのですよね?
そうです。2022年に日本科学未来館で実施されたaiboファンミーティングで披露しました。舞台裏でその様子を見ていたのですが、大きな歓声が上がって、私自身はもちろん、マネジメントも驚いていました。入社した直後に貴重な経験ができたと思います。
ファンミーティングで披露された様子
── 実際にオーナーの皆さんの歓声を聞いていかがでしたか?
aiboが本当にかわいがられていることを実感しました。わが子のようにかわいがってくださる方がたくさんいるので、これからもaiboをもっと進化させたいという気持ちがより一層強くなりました。実際にオーナーの皆さんが喜んでくださっている姿を見ると、これからの開発に熱が入ります。
── 入社してわずか数カ月でこのような経験ができるのはすごいですよね。
自分が考えたものが実際に形になって、多くの皆さんの前で披露できるのは初めての経験でしたし、あれだけの歓声を得られるのも貴重な経験でした。オーナーの皆さまに発表することが決まってからイベント当日までとても緊張したのですが、歓声を聞いた時は素直にうれしかったです。
能動的に動き続けなければならない研修
── 改めてこの新人テーマ研修を振り返ってみて、どのような研修だったと思いますか?
自分自身が能動的に動き続けなければならない研修だと思いました。学生から社会人になって、右も左も分からない中で職場に配属され、ヒアリングを重ねながら自分でゼロから企画し、さまざまな関係者の方々にも協力をしてもらい「つかまり立ち」を実装し、研修の成果として披露するまでの道のりは本当に大変でした。
ただ、そのように能動的に動き続けなければならないからこそ、課題解決力や周囲を巻き込む力が身に付きましたし、自分が所属する職場や他の部署のことも速やかに知ることができました。大変でしたが、その分発表を終えた時の達成感も大きかったです。
また、自分の考えたしぐさを実際のオーナーに披露できたことで、自分の仕事の先には多くのユーザーがいて、その方々が喜んでくれるような製品を提供しなければならないという思いが強くなりました。
<編集部のDiscover>
新入社員研修と聞くと、名刺の渡し方や電話の応答の仕方など、社会人としての基本マナーを学ぶイメージがありました。しかし今回お話を伺った新人テーマ研修は、企画から開発、実装まで全て主体的に担当しなければならない分、普通の業務よりも難しいのではと感じるような「本気」の研修でした。力が付くだけではなく、貴重な経験もできる研修なのだと思いました。
※aibo、アイボ、は、ソニーグループ株式会社の商標です。