UIデザインの仕事は、新しい知識を
翻訳し、体験化すること
玉村 広雅
ソニーのユーザーインターフェース(UI)デザインは、商品の画面の中に限らず、新しいソフトウェアの情報デザインをはじめ、
次世代サービスを提供するアプリのUI/UXデザイン、さらにエンタテインメント空間のインタラクション設計まで、多種多様な領域に広がっています。
ソニーでは、こうした新たな領域のUIデザインにも積極的に取り組んでいます。
ソニーのUIデザインの仕事の重要性やその魅力などをデザイナー 玉村が紹介します。
UIデザインによって体験を視覚化し、
スピーディーに解決へ導く
近年、デザイン経営と言われるように、ビジネス全体においてデザインの重要性が認知され、これまでデザイナーの仕事と思われていたフィニッシュワークだけでなく、さまざまな局面でデザイナーの思考やスキルが必要とされています。私のUIデザインの現場においても、アプリや画面の仕様が決まってからデザインするのではなく、初期段階から課題や情報をわかりやすく整理し、ラフやプロトタイプをつくって、コンセプトや体験を視覚化する能力が求められています。触れられるモックアップをつくることで、ただ議論するよりもスピーディーに物事を決断し、解決できるため、プロジェクト全体を推進するうえでも、デザイナーの果たす役割が拡大していると実感しています。
最先端の技術領域からアプリ開発まで、
さまざまなフィールドに挑む
入社後すぐに担当したのは「Neural Network Console」という、ブロックを積むような直感的なGUIでディープラーニングのプログラムを生成できるクラウドアプリケーションでした。これは、専門知識やスキルが必要とされるAI開発を容易にし、多くの人に深層学習の可能性を広げたいというエンジニアの想いからはじまったプロジェクトでした。当時、私はAIに関する知識がほとんどなく、本を読んだり、人に聞いたり、エンジニアの意図を理解するところからスタートし、AIの知識を吸収しながらデザイン作業に取り組みました。この最先端の技術領域のデザインを経験したことで、別のエンジニアから「Prediction One」という表形式データからAIによる予測分析ができるGUIソフトウェアの制作も依頼されました。現在では「S.RIDE」というスマートフォンでタクシーが呼べるアプリのUIデザインを担当。サービス立ち上げの際の要件定義から、UI だけでなく情報構造の分析まで含めさまざまな形で関わり、現在も継続的にアップデートを続けています。
ユーザーの課題を抽出することも
デザイナーに求められる仕事
私はUIデザインの領域を、コンセプトデザイン、インフォメーションデザイン、ビジュアルデザインという3つの枠でとらえています。プロジェクトによってはデザイナー同士で分業することもありますが、スタートアップのような少人数での仕事は、すべて一人で行うこともあります。例えば「S.RIDE」の仕事では、まずタクシー業界の人たちが意見交換しやすい場をつくるため、チームビルディングやワークショップを自分で企画して行い、そこで顧客イメージを具現化しながら、アプリ開発のコンセプトを導き出しました。さらに、そこから競合や類似サービスの情報構造を分析し、「早く呼びたいときに選ばれる」という「S.RIDE」のコンセプトを具現化する情報設計やデザインを考えていきました。
UIデザインの仕事の流れ
(「S.RIDE」のアプリケーション開発の場合)
-
関係者を集めて
チームビルデイング -
顧客イメージを具現化させる
ワークショップの実施 -
競合や類似サービスの
情報構造の分析 -
アプリ開発の
コンセプト立案 -
コンセプトを具現化する
UX・UI設計
目まぐるしいスピードで変化し、
常に新しい知識が求められる仕事
ソニーはエレクトロニクスなどハードウェアのイメージが強いですが、実は新しいサービスをはじめとしたソフトウェアの開発など、UIデザイナーが扱う領域は多岐にわたります。プロジェクトのたびに新しい知識や技術に触れられ、市場調査では最新のビジネス動向を知ることもでき、非常にやりがいを感じています。また、ソニーのインハウスデザイナーは担当領域が限定されておらず、プロジェクトの初期段階のコンセプトワークから最終の仕上げまで一気通貫でできる面白さがあります。立ち上げて3カ月でリリースし、継続的にアップデートを重ねるスタートアップのような刺激的な現場や、外部のPRチームとの連携なども自分の裁量に任せてもらえるなど、スピード感や裁量の大きさなど、入社前のイメージを良い意味で裏切られました。また、自分が携わった「Neural Network Console」や「S.RIDE」などのように、業務領域の広さだけでなく、社会的な影響範囲の広さもソニーの仕事の魅力ではないかと思います。
デザインの現場で大切なのは、
共に考え、つくりあげる関係性
クライアントの目的をしっかりと理解した上で、一緒に深く考え、共につくりあげる関係性を築くことが現場では一番大切だと考えています。学生のうちに身につけておいた方が良いというスキルは特にありませんが、隣の人のスキルに興味を持ち、そのスキルを少しずつ学んでいくことでデザインや思考の幅が広がります。特にUIデザインは変化が早いので、常にアップデートしていかないとすぐに古くなってしまうため、学びつづける気持ちが大切で、なるべく新しいモノや領域に触れて、それを使ったり、作ったりすることを楽しめるといいと思います。
「現在」と「歴史」の交点から
生まれる
新たなデザインの方向性
大学時代はデザイン専攻ではなかったので、デザイナーとしてのスキルを身につけるために、いろいろなものを見て、自分が好きなものを真似たり、作ったりしていました。いまでも心がけていることは、歴史の中で評価されてきたものをたくさん見ること。普遍的なデザインのエッセンスを抽出して体系化することは、自分がデザインする上で必ず役立つと思います。デザイナーの仕事は、いま流行っているものを横軸で見る目線と、その歴史を縦軸で知る必要があります。時代背景や歴史を知ることで、新しいものがどのような文脈や意識でつくられているか、今後どう変化するのかが予測でき、次の新しいデザインを生むきっかけにもなると思います。
私が考えるUIデザインの仕事とは、
「ユーザーのためにわかりやすく翻訳する」こと
私自身がデザイナーとして大切にしているのは、リサーチをしっかりと行い、コンセプトや情報構造の部分をより深く考えること。特にソニーでは、このコンセプトワークや情報構造の分析・設計に多くの時間を費やします。また、ソニーにはエンジニアや事業企画の方などさまざまな専門家がいて、その人たちの話を聞いて、専門知識のない人にもわかるようにデザインに落とし込み、伝えていくプロセスは、どのカテゴリーのUIデザインにも共通していると思います。つまり、UIデザイナーとは、専門知識を翻訳してユーザーに向けてわかりやすく伝える、その橋渡しとなる役割ではないかと思います。