プロダクトの本質が
直感的に伝わるデザインを
Fumihito Yoshikawa
オーディオプロダクトのデザインチームに所属し、ヘッドホンやスピーカーなどのプロダクトデザインを
担当する一方、Camera RobotといったAIロボティクス領域のデザイン開発も手がける吉川 郁人。
「ユーザーのパーソナルな感覚に寄り添い、プロダクトの本質を伝えていきたい」と語る彼に、
自身のルーツや、ソニーでの仕事、この先の目標について聞きました。
1脚の椅子が
デザインの道を志すきっかけに
あなたのルーツは?
プロダクトデザインに興味を持ったのは寮制の中学・高校の頃。自然豊かな環境の下、仲間と24時間寮生活を共にし、日々の掃除や自炊、時に植林や登山などを行う中で道具の使いやすさを意識するようになり、あるときエンツォ・マーリのSEDIA 1という椅子に感銘を受けました。
教室の机と椅子は入学時に皆で自作したものを6年間使うのですが、椅子は使う内に座り心地や耐久性が気になるんです。そんなとき自分の椅子と同じ木材と釘で出来ているSEDIA 1を知り、公開されている図面を元に試作してみると、一見普通の木製の椅子なのに座面の角度が絶妙で段違いの座り心地。「デザインでこんなに良くなるのか、自分もやってみたい」と思ったのがはじまりです。
世の中にある多様なデザイン観を
体感するために旅へ
学生時代の思い出は?
大学時代、北欧デンマークの家具やオーディオの「ミニマルで美しく、機能的で使い方が直感的にわかる」デザインに魅了され、コペンハーゲンのデザインミュージアムを見学するために一人旅をしました。それらのプロダクトは日本でも見られますが、実際に現地に赴き、デンマークのデザイナーたちがどのような土地に暮らし、どのような感覚で作り出したのか、彼らと同じ空気を吸いながら深く考えることができたのは大切な財産になっています。
他にも、大学の休暇を利用しては、ミラノサローネや日本各地の美術館を巡って作品を自分の肌で体感するなど、世の中にある多様なデザインの考え方に触れ、刺激を受けていました。
ユーザーのパーソナルな感覚に
寄り添い、
プロダクトの本質を
伝えること
これまで担当した仕事は?
ソニー入社後はスピーカーやヘッドホンを担当。個人で使うものだからこそ、ユーザーのパーソナルな感覚に寄り添い、プロダクトの本質が一瞬で伝わるデザインを目指しています。例えば、抜群の防水・防塵性能を誇る本格アウトドアギアという商品企画のワイヤレスポータブルスピーカー SRS-XB23を担当した際、私は「ユーザーにとってアウトドアは日常の一部」と感じ、自宅にもキャンプ場にも馴染むデザインを着想。さらに簡単に持ち出せるように、アウトドアシーンで使われている耐久性のある紐をストラップとして厳しい設計条件をクリアさせて実装するなど、この製品の使い方が直感的にわかるように配慮しました。
また、ワイヤレスヘッドホンWH-1000XM5では、業界最高クラス(※)のノイズキャンセリング性能というコンセプトを表現するために、プロダクトデザインにおいても「ノイズレスな世界観」という理想を掲げて追求しました。ハンガー部を内蔵し、部品の繋ぎ目が出ないハウジングにする一方、可動部品を集約させることで装着可動時に形状が崩れないヘッドバンド構造をエンジニアと開発。さらに、ハウジングとヘッドバンドすべてに高品位なマット加工を施し、無駄な光沢を抑えました。ソニーでは一製品のデザインを一人で担当するという基本的な考えがありますが、このときも構造から細部までエンジニアと徹底的に議論を重ね、先輩デザイナーからサポートを受けつつ最終的には一人で細部まで丁寧にデザインすることができました。
試行錯誤と検証の先に、
新たな体験価値がある
日々の仕事で大切にしていることは?
中高生の頃に「仲間と一緒に何かを作る」という経験が多くあるせいか、今も「エンジニアと対話しながら、より良いものをつくる」「試作と検証を繰り返す」意識を大切にしています。テクノロジーを使って新しい体験を生み出す際に必要となってくる様々な課題についてエンジニアと検討を重ねるのですが、当然、プロダクトの本質を最大化するデザインを模索する中で「つくってみないとわからない」という場面も多くあります。そのような道を回避するのではなく、柔らかい考え方を大事にしながら、エンジニアとともに何度も挑戦すること。試行錯誤と検証の先に、新たな体験価値があると実感しています。
AIロボティクスをはじめ
新領域のデザインにも挑戦
最近手がけた案件は?
最近は部署の垣根を越えて、AIロボティクス領域のデザインも担当し、オーディオ以外の領域でも経験を積んでいます。ライブステージなどでアーティストの動きに合わせて移動しながら撮影できるCamera Robotのデザインでは、アーティストに撮られている意識を感じさせない黒子のような存在感を追求。全方位に走行可能なため動いてもシルエットの変わらない球体をベースにし、ステージ上で目立ったり、威圧感を与えたりすることがないよう、丸みを帯びた親しみやすいデザインに仕上げました。さらに、Camera Robotがダンサーと共演するプロモーションムービーのディレクションも担当させてもらうなど、さまざまな経験を積むことができました。
Camera Robotプロダクトデザインの流れ
-
アイデア出し
-
試作機を作成し
ライブステージにて
試験走行 -
試作機での課題を元に
デザイン検討 -
本機作成
-
ライブで
アーティストの前
での試験運用 -
本機とUIを合体し
本格運用
デザインでテクノロジーと
人の感覚をつなげていきたい
この先、挑戦したいことは?
今のプロダクトデザイナーという立場から一歩踏み込み、ソニーの多様なテクノロジーを翻訳しながら、もっとエモーショナルな体験を届けることのできるプロダクトの創出に貢献したいと思っています。Camera Robotのデザインに際し、ソニーのエンジニアや研究者と話す中で、グループ内にはまだ世の中にでていない研究開発中のテクノロジーが幾つもあり、高いポテンシャルを感じました。ソニーという場にいるからこそ、未知のプロダクトの創出に携われる機会が多くあり、テクノロジーと人をつなぐ役割として、ぜひ挑戦していきたいと考えています。