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ソニーの人工衛星で、宇宙がもっと身近になる。

Business

ソニー、東京大学、JAXAが協力し、「宇宙感動体験事業」の創出を目指して進めている「STAR SPHERE」プロジェクト。ソニーのカメラ機器を搭載した人工衛星を2022年の10〜12月に打ち上げ、2023年には一般の方々へのサービスの提供を目指しています。プロジェクトが掲げている「テクノロジーの力で宇宙の視点を人々に解放し、エンタテインメントの力で宇宙感動体験を世界に広める」とはどういうことなのか。宇宙エンタテインメント推進室の中西さんと全さんに、プロジェクトの最新状況や事業への想いなどを伺いました。
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中西 吉洋
全 真生

「STAR SPHERE」プロジェクトとは?

「宇宙を解放する」をコンセプトに、テクノロジーとエンタテインメントの力で、誰もが宇宙に想いを馳せ、身近になる宇宙感動体験事業の創出を目指すプロジェクト。ソニー、東京大学、JAXAが協働し、ソニーは人工衛星のミッション部や地上システムの開発などを担っている。また、宇宙感動体験をつくるためのさまざまな領域での事業企画、実証実験、パートナー連携を実施。アーティストとのコラボレーションや教育機関向けプログラムの開発なども進めている。

ソニーならではの視点で、宇宙にアプローチする。

—プロジェクトの目的や魅力、あるいは可能性とはどういったものだと思われますか?

中西:私たちが持っている問題意識の一つとして、「宇宙」というテーマ自体は話題にはなっているものの、身近なものにはなっていないということがあります。宇宙飛行士や一部の専門家、JAXAやNASA、あるいは多額の私費を投じられる富裕層だけでなく、もっと一般の人、自分にも手が届くものだと思えるようにしたい。
そしてもう一つは、宇宙そのものの捉え方を変えたい。宇宙が好きだ、と言う人は多いのですが、自分が関係するものだとは思われていません。「関わる人は理系の人でしょ?」、「衛星をつくれるような専門的な人でしょ?」というイメージ。そういった科学技術や道具としての宇宙ではない、精神的な価値も含んだ「宇宙の視点」を多くの人々に獲得してもらいたいと思っています。
今後は宇宙が身近な領域になり、ソニーにとっても既に技術開発領域ではチャレンジが進んでいますが、事業領域にもなると考えています。そうして、宇宙につながった人たちが地球を想い、心豊かになって輝いていく。そうした想いから、プロジェクト名である「STAR SPHERE」のSTARには星だけではなく、人々が輝くという意味も込められています。SPHEREは球体ですが、人の輝きやつながりが宇宙空間まで拡がっていくという意味でもあります。
ですからプロジェクトのコンセプトには、「宇宙を解放する」という言葉を掲げています。強すぎる言葉かもしれないとも思ったのですが、「みんなで一緒に解放していこう!」というアクティブでポジティブな気持ちを込めています。

—宇宙の可能性はさまざまな企業が模索していますが、ソニーが挑戦する意味とはなんでしょう。

中西:感動体験を事業にしようということです。ソニーにはエレクトロニクスで培ってきたテクノロジーのノウハウがあり、ゲームや音楽、映画といったエンタテインメントのノウハウもある。宇宙を身近にしていくことをテクノロジーで追求し、同時にエンタテインメントによるムーブメントを起こしていく。それがソニーだからこそできるアプローチだと思います。

宇宙に行った感覚で、魅力を共に発見していく。

—プロジェクトでは開発した人工衛星を打ち上げ、撮影体験を一般に解放して販売する予定であると発表されています。

中西:人工衛星はどういう写真が撮影できるのか、というスペックを重視するのではなく、自分が宇宙に行って実際に見てみたらこれくらいの見え方になるだろうという体験に近いスペックを考えてつくっています。人工衛星を操作するインターフェースも、たくさんのモニターが並んでキーボードで難しい操作をするイメージではなく、自分のパソコンやスマートフォンからでも気軽にアクセスできる体験を目指しています。
私たちの人工衛星を通して、実際に宇宙に行ったような目線で地球が見える。そのうえで心が動いてほしい。「地球って大事だよね」でもいいし、「自分もなにか頑張れるんじゃないか」ということでもいい。なにか心が少しでも変化するようなことを起こせればいいと思っています。

—将来的には個人のスマートフォンからでも撮影できるようになるのでしょうか?

全:技術的には可能です。大阪から東京に移動する距離を横ではなく縦(高さ)にしたら、今回、私たちが打ち上げを目指している高度の「宇宙」なんですよ。新幹線で2時間半の移動で行ける。そう考えると、宇宙が少し身近に感じませんか?あくまでも極端な例ですが、このように宇宙が身近な存在であることを知ってもらいたいですし、それをどう体験として提供できるかがこのプロジェクトの芯の部分だと思っています。そのためにはスマートフォンからの体験も身近な体験には必要な部分だと思います。

—宇宙の魅力を体験してもらう、最初のステップはどのようなものになりそうですか?

中西:宇宙視点の芸術作品への取り組みはその一つです。宇宙カメラで撮影した画像や映像による写真、映像、映画、メディアアートなどの作品制作。衛星の操作による宇宙とつながる体験や、さまざまな宇宙の視点を体感できるコンテンツ。それらを通して新しいインスピレーションを提供することで、アーティストやクリエイターを含む多くの方々と共に多彩な創作活動に取り組みます。アーティストやクリエイターの発信力、優れたセンスや感性から生まれる表現の幅広さから、一般のお客様へと宇宙の魅力を拡げていく。可能な限り手軽に、より多くの方に人工衛星からの写真撮影体験いただけるような事業を目指していきたいと考えています。

全:ソニーのPurpose(存在意義)である「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」。これを体現できる事業になるのではないかと思っています。そのために難しそうな部分の敷居をどう下げるかのかが大切です。高性能・高精細というカメラの性能や映像美の話だけではなく、テクノロジーの力で体験としてこういうことが身近に味わえるのだということを目指していく。それがこのプロジェクトの意義なのかなと思っています。

社内外のさまざまなつながりが、このプロジェクトにしか経験できない価値を生み出す。

—事業を推進していく中で挑戦したことや、難しかった点はどのようことでしょうか。

全:開発の視点からお話しすると、宇宙で難しいのは大気がない環境であることです。人工衛星に熱がこもってしまうし、さまざまな放射線を直接浴びてしまう。それがCPUなどのエラーの要因になってしまうため、どのように保護するのかを考え、模擬環境でのテストを繰り返しました。これまで私自身、ソニーでさまざまな製品の開発に携わってきましたが、宇宙という環境は初めてです。正解がわからない中でのものづくりは、チャレンジングで面白くもありますが、難しいところでもありましたね。
試験項目は共同研究しているJAXAや東京大学の知見をうまく取り入れながら確立してきましたが、このプロジェクトは「何トンもの人工衛星を打ち上げる」といった一般的にイメージされる宇宙開発環境ではありません。プロジェクトメンバーもテレビやカメラ、ゲームなどさまざまな製品に携わったバックグラウンドを持つ社員が集まり、各々が別の業務を主としています。その中で全員に無理がないように役割分担し、開発・試験項目を詰めていき、いろいろなことに折り合いをつけながらプロジェクトを進めることは大変でしたけど非常にやりがいもありました。

中西:事業の観点では、このプロジェクトコンセプトを伝えるために、よりわかりやすい言葉や事例を、人工衛星の打ち上げ前から発信していくことにチャレンジしているところです。宇宙は自分には関係ないと思っている人に、宇宙の魅力を伝えていかなければなりませんから。
メンバーとしてもこのプロジェクトを100%主務でやっているのは一握りで、大勢のメンバーは別の業務を主務にしながら兼務で参加しています。なかなか集まれないこともある中で、みんなの力を合わせて実行力を高めていくことがやっぱり大事ですが、いまそれが完全にできているかというと、まだまだ課題はあると思っています。

—逆に兼務メンバーが多いことによるプラスの影響を感じることはありますか?

全:組織としては小規模ですから、普段関わらない事業の人と密につながり、やりたいことに挑戦できたり、今までやったことがない仕事にモチベーションを感じられたりといった部分はあると思います。
仕事においては「やらされている」という意識を持ってしまうこともあると思います。ただ、ここにいるメンバーはみんな目がキラキラしていて自発的。一人ひとりがセルフマネジメントして働くことができています。私にとっても、「みんながやりたいことをやることで、こんなに強いチームをつくれるんだ」という発見がありましたし、大きな原動力になっていますね。そのパッションや経験というものが、各々の主務の部署でも活かされ、ソニー全体としてプラスに働いているのではないかと思います。

中西:主務側の上司の立場だとしたら、他の部署の兼務を許すことは勇気がいると思いますよ。でもその分、いいエッセンスを持ち帰ってもらいたいと思っています。例えば細かい話ですが、会議においても、さまざまな製品に携わるメンバーそれぞれがこの人の会議のやり方はいいな、というものを新しいスキルやノウハウとして自部署に持ち帰ることができるわけです。

全:組織を横断して横のつながりができていますから、些細なことでも「この人に相談してみよう」という風通しも良くなっていると思いますし、そういう関係性や雰囲気がつくれていると思いますね。ソニーの中だけではなく、東京大学やJAXA、さまざまな企業ともつながり、どんどん世界も拡がっていきます。いろいろな人と仕事をすることでパフォーマンスが上がるというのも、この仕事の良さだと言えると思います。

ソニーの想いと社員の想いは、仕事をとおしてつながっていく。

—お二人にとって、この業務にかける想いとはどのようなものでしょうか。

中西:もともと私は宇宙飛行士に憧れていたり、親が宇宙の映画をよく観ていたり、宇宙への興味や関心を持ってはいました。それが宇宙事業にチャレンジできるならがんばってみたいな、というモチベーションの原点ではあります。いまはソニーとして宇宙事業を立ち上げたいなという想いと、ソニーにいるすごく面白い人たちと一緒に成長して成果を出したいという想いもあって、このプロジェクトに携わっています。

全:私自身の原動力としては、やったことがないことにチャレンジする、ということが好きです。もともとは「宇宙ってなんだろう?」と思っていましたから、プロジェクトに誘われたときも「もう少し話を聞かせてよ」というところから関わるようになりました。正式に依頼を受けたときも、面白そうだと思ったのが一番の参加理由でした。ですから、当初は宇宙には中西さんほど強い想いはなかったんですよ。そこは正直に伝えています(笑)

中西:そういう人がいてもいいのです。皆が皆、宇宙好きである必要はない。ソニーは本当にさまざまなことができて、ソニーならではのやり方で宇宙に関われるところが面白いです。その中でも、全さんをはじめエンジニアの夢を形にできるパワーはすごいと思います。

全:中西さんと出会ってビジョンやコンセプトを語り合う中で、ソニーで商品をつくるだけではなく、サービスを含めて自分の技術力がユーザーの裾野を拡げて感動を提供できることはすごいことだな、と最近は思っています。そういう事業に携われているということが、今のモチベーションになっていますね。ソニーで仕事するということは、こういうことなのだと腹落ちしたという感じです。

—この事業から見えてくる、ソニーの魅力とはあらためてどのようなところでしょうか。

中西:このプロジェクトは、たまにウォークマンに例えて話をすることがあります。高級オーディオを使って部屋の中で楽しんでいた音楽を、街に持ち出すことを可能にしたものがウォークマン。音楽を解放する文化をつくってきたと思うんです。このプロジェクトも、宇宙を限られた人や限られた使い方だけに捉われないものにするというもの。製品やサービスを通して新しい文化をつくっていけるというのは、ソニーの魅力だと思います。

全:宇宙を題材に感動体験を提供することを目指しているプロジェクトですが、仮にこれが宇宙ではなかったとしても例えば地底探索だったとしてもあるテーマを題材にプラットフォームをつくって、誰もが感動を体験するお手伝いをする。それを体現できるのがソニーらしさ、魅力なのではないかと思っています。

中西:就職活動をしていた頃、自分がつくった商品をすごく楽しそうにプレゼンしているソニー社員の先輩の話を聞いて、自分もそういった事業や商品に携わりたいと思っていました。それが今は商品だけでなく、感動の体験といったところに会社や世の中が価値を見出すように変わってきていると思っています。そこにソニーの強さをフル活用していきたいですね。

<編集部が見つけたパーパス>
ソニーにとってまったく新しい挑戦である「宇宙」を舞台にした事業には、単にテクノロジーを追求するのではなく、感動や体験をつくりだす、というソニー社員の使命感が息づいていました。中西さんと全さんのお話を伺っていると、お二人がプロジェクトのビジョンやミッションと真剣に向き合う中で、個人の想いと事業のあり方が自然と融合していったのではないか、という気がします。「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というソニーのPurposeと社員のPurposeが、とても美しく結びついている。「STAR SPHERE」はそんなプロジェクトでした。


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